エイズ治療の転換、「施し」から「権利」へ HIV感染者も声上げる国際エイズ学会:朝日新聞GLOBE+
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エイズ治療の転換、「施し」から「権利」へ HIV感染者も声上げる国際エイズ学会

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ミュンヘンで開かれた国際エイズ会議(IAS)では政府や市民団体、製薬会社などがブースを出し、多くの人が熱心に話を聞いていた
ミュンヘンで開かれた国際エイズ会議(IAS)では政府や市民団体、製薬会社などがブースを出し、多くの人が熱心に話を聞いていた=2024年7月、ドイツ・ミュンヘン、宮地ゆう撮影

25回目の今年は、7月22日から5日間、ドイツ・ミュンヘンに約100カ国から1万人以上が集まった。

約100のセッションが開かれ、メイン会場の周辺では、各国のNGOや企業、政府などが活動紹介をしたり、最新の検査機器や創薬に関するブースを開いたりと、たいへんなにぎわいだ。日本から来ると、こんな規模のエイズの国際会議が開かれていることに驚くばかりだ。

ミュンヘンで開かれた国際エイズ会議(IAS)の会場入り口
ミュンヘンで開かれた国際エイズ会議(IAS)の会場入り口=2024年7月、ドイツ・ミュンヘン、宮地ゆう撮影

セッションのテーマは多岐にわたる。最新の治療や予防薬の研究結果から、セックスワーカーや薬物依存者などに治療を行き渡らせる方策までさまざまだ。

今年は、感染していない人が抗HIV薬を年に2度注射するだけで感染を防ぐことができたという治験結果が、ハイライトの一つだった。

さらに、東欧や中央アジアで感染が拡大しているとの報告もあった。背景には、政府による性的少数者への抑圧や、ロシアによるウクライナ侵攻で薬を届けたり検査を受けたりしにくくなっている事情もあるという。HIVは、政治問題とも深くつながっていることを感じさせられた。

多くのセッションで「スティグマ」(社会的な烙印や汚名)という言葉を聞いた。これは医療者側にも、感染者側にもあるといい、スティグマをなくすことによって、検査や治療を受けやすくし、感染を防ぐことにつながるという。

学会会長を今年の会議終了までつとめたオーストラリアの感染症医学者シャロン・ルーウィン前会長は「この会議は時代ごとに役割を変えながら、患者や医師など様々な立場の人が一堂に会する場になってきた」と話す。

国際エイズ会議のシャロン・ルーウィン前会長
国際エイズ会議のシャロン・ルーウィン前会長=2024年7月、ドイツ・ミュンヘン、宮地ゆう撮影

1990年代まで、流行の中心は欧米の先進国だった。2000年代に感染がアフリカ諸国へ移ると、先進国では使える薬が、高価すぎて使えないという問題が先鋭化した。アフリカの感染者や支援団体が声を上げ、創薬の基金が作られ、製薬会社が途上国向けの薬価を下げる動きにつながっていった。

国際保健と法の専門家として1990年代からエイズの現場を見てきたジョージタウン大学のローレンス・ゴスティン教授は、こうした動きによって「施しの援助という視線から、医療を受けるのは誰もが持つ権利だという転換が起きた」という。

そして、こう語った。

「エイズのアクティビズム(行動主義)は、時に過激な方法を使ってでも当事者の声に目を向けさせることに成功し、資金や政策のあり方にも影響力を持った。その結果、国連に専門機関が創設され、国際基金も生まれた。環境問題からMeTooまで、現在の市民運動のあり方は、エイズのアクティビズムの上に立っていると言っても過言ではない」

国際エイズ会議に登壇したジョージタウン大学のローレンス・ゴスティン教授
国際エイズ会議に登壇したジョージタウン大学のローレンス・ゴスティン教授=2024年7月、ドイツ・ミュンヘン、宮地ゆう撮影

会議の期間中、そんなエイズのコミュニティーを象徴するような場面に出合った。

治療薬の価格が高く設定されているという研究結果を受け、数十人の参加者が、大手製薬会社に薬価を下げるよう求めて会場内でデモをおこなった。

この会社の展示ブースを占拠し、横断幕を広げ拡声機で声を張り上げたが、警備員も見守るだけで、とめることはなかった。

長年この会議に参加してきた日本の医師は「ここは他の医療の学会とは全く違う。医療関係者や製薬業界だけではなく、当事者や支援団体などが声を上げ、政策に関わってきた」と話す。

医療をどう届けるのか。そして、医療はだれのものか。この会議はそんな根本的なことを考えさせる場所だった。

ミュンヘンで開かれた国際エイズ会議(IAS)の会場内で、治療薬の値段が高すぎると製薬会社に抗議する人たち
ミュンヘンで開かれた国際エイズ会議(IAS)の会場内で、治療薬の値段が高すぎると製薬会社に抗議する人たち=2024年7月、ドイツ・ミュンヘン、宮地ゆう撮影