ジャズ・ドキュメンタリー映画『ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン』を観た - メモリの藻屑、記憶領域のゴミ

ジャズ・ドキュメンタリー映画『ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン』を観た

ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン (監督:ジョン・シャインフェルド 2016年アメリカ映画)

ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン [Blu-Ray]

ジャズ・ミュージックをちょぼちょぼと聴いているが、名前がよく知られていて、さらに取っつき易く親しみ易かったジャズメンといえばマイルス・デイヴィスビル・エヴァンス、そしてこのジョン・コルトレーンだろうか。

ジョン・コルトレーン(1926-1967)、アメリカ合衆国ノースカロライナ州生まれのモダンジャズを代表するサックスプレーヤーだ。1955年にマイルス・デイヴィスに見出されて以来、セロニアス・モンクとの出会いにより音楽的才能を開花させ、1959年、マイルスの『カインド・オブ・ブルー』収録に参加、その後自身のレギュラーバンドを結成、数々の名作アルバムを残してきた男だ。

とか何とか言いつつ、オレにとってコルトレーンはピンとくる部分と来ない部分の差が激しいアーチストで、きちんと理解できているかどうか断言できない。例えばガチなファンの方からは笑われるかもしれないが、オレの一番好きなコルトレーンのアルバムは『Ballads』だったりするからだ。しかしジャズアルバムというものをそれほど沢山聴いたわけではないが、バラード形式のアルバムはこれが最強だとオレは勝手に思っている。次に好きなのはこれもベタだが『Blue Train』『Giant Steps』、でも傑作と名高い『A Love Supreme』はなんだかピンと来ないアルバムなんだよな。

バラード

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映画『ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン』はこのコルトレーンの半生を綴ったジャズ・ドキュメンタリー作品となる。

《作品紹介》ジャズ界史上最大のカリスマと称されるサックス奏者ジョン・コルトレーンの、短くも求道的な人生を描いたドキュメンタリー。わずか40年の生涯でありながら、ジャズのみならずアメリカ・ポピュラー音楽の歴史に多大な影響を与えたコルトレーン。レコーディングの機会に恵まれなかった不遇なキャリア初期、恩師マイルス・デイビスのバンドへの抜てき、薬物とアルコール依存症を乗り越え才能を開花させた1957年、そこから約10年間で数々の名盤を生み出していく姿を、コルトレーンに影響を受けたアーティストたちの証言や貴重な映像の数々を元に振り返る。

ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン : 作品情報 - 映画.com

コルトレーンについて思うのは、例えばマイルス・デイヴィスが紛う事なき天才であり、ビル・エヴァンスが英才教育を叩きこまれた秀才プレイヤーだとすれば、コルトレーンは誠心誠意でジャズに取り組む真面目一徹の努力家アーチストだということだ。優れた音楽家は誰もが皆努力家だとは思うが、コルトレーンも努力に努力を重ねて自分の音に辿り着いた人なんだろうと思う。

コルトレーンの真面目さがうかがえるエピソードは、若かりし頃は当時のジャズメンの御多分に漏れずドラッグ中毒になってしまうのだが、それを自力で更生し、さらにそうして生きることに感謝して精神的な世界に近づいて行ったことだろう。多くの有名ジャズメンがずるずるとドラッグ中毒を続け破滅していったのに比べると雲泥の差である。

コルトレーンは「聖人」と呼ばれることもあったそうだが、それは宗教的な部分とは別にその真面目さから来ているように思える。晩年も移動の最中さえ楽器の練習をしていたというのもそんな真面目さからだろう。映画では後半、日本でのコンサートツアーを行った際に、会場のあった長崎で真っ先に原爆記念館を訪れ、コンサートでは原爆被害者慰霊の為の演奏までしたという非常に感動的なエピソードが盛り込まれるが、これなどもコルトレーンの人となりを理解する素晴らしいエピソードだろう。

そういった、時として生真面目の領域まで達する真面目さが、コルトレーンの音楽にも反映されていると思えてならない。特に先に挙げたジャズ組曲『A Love Supreme』は、コルトレーンの「真面目一徹さ」から生まれたアルバムだろうと思うし、逆にその真面目さが、オレにはちょっと重く感じる部分でもある。それとコルトレーンの演奏は時として朴訥なストレートさのある音に聴こえることがあり、真っ直ぐに刺さって来るなあと思うのと同時に、真っ直ぐ過ぎて苦手に感じる瞬間もある。グチャグチャと書いたがそれほどジャズミュージックを理解していない人間の戯言としてご容赦願いたい。

それとこのドキュメンタリー、これまで観たブルーノートマイルス・デイヴィスビル・エヴァンスといったジャズ・ドキュメンタリー映画と比べると、「映画」としての完成度が相当に高い(他が低いわけでは決してない)。「映画」として楽しめるのでひょっとしたらコルトレーンを知らない方でも楽しめるかもしれないと思ったほどだ。アニメーションの使い方などちょっとした楽しさがあるのだ。

もう一つ、ジャズ・ドキュメンタリー映画はそこに登場する錚々たるジャズメン、音楽関係者の顔ぶれを見て楽しむ、という部分があるが、なんとこの『ジョン・コルトレーン チェイシング・トレーン』、元アメリカ合衆国大統領ビル・クリントンが登場してコルトレーンの素晴らしさを語りだすのでびっくりさせられた。それと個人的にはザ・ドアーズのメンバー、ジョン・デンスモアが登場するのも嬉しかった。なお、劇中でコルトレーンの声を担当するのはデンゼル・ワシントンだったりもする。