不死身の戦艦 銀河連邦SF傑作選 / J・J・アダムズ(編)、佐田千織・他(訳)
広大無比の銀河に版図を広げた星間国家というコンセプトは、無数のSF作家の想像力をかき立ててきた。オースン・スコット・カード、ロイス・マクマスター・ビジョルド、G・R・R・マーティン、アン・マキャフリー、ロバート・J・ソウヤー、アレステア・レナルズ、アレン・スティール……豪華執筆陣による、その精華を集めた傑作選がここに登場。
「銀河連邦」である。「銀河連邦SF」なのである。人類が宇宙に版図を拡げ銀河の星々に遍く移り住み、それぞれの惑星国家が「銀河連邦」の名のもとに結束する巨大な共同体、あるいは「銀河帝国」の名のもとに強力な覇権を行使する遠未来銀河世界のお話なのである。
古くはアシモフ『銀河帝国興亡史』、クラーク『銀河帝国の崩壊』、ヴォークト『銀河帝国の創造』などのSF小説、あるいはスター・ウォーズの「銀河帝国」、「銀河共和国」やスタートレックの「惑星連邦」といった形で映像作品に登場し、うつけきSFファンたちを甘酸っぱい想いで満たすSF設定なのである。
そんなSFファンたちの心を夢いっぱいでメロメロにするSFアンソロジー、それがこの『不死身の戦艦 銀河連邦SF傑作選』だ。過去に日本でも訳出されたアンソロジー『スタートボタンを押してください ゲームSF傑作選』『この地獄の片隅に パワードスーツSF傑作選』を編集したジョン・ジョセフ・アダムスが2009年に刊行したアンソロジー、と聞くとこれは興味が湧くではないか。『スタートボタン~』にしても『この地獄の~』にしてもなかなかユニークな作品が並ぶアンソロジーであり、オレも結構楽しめたからだ。
さらにこのアンソロジー、居並ぶ作家がどれもSFファンにはおなじみの中堅、あるいは大御所が並んでいるのも嬉しいところだ。オースン・スコット・カード、ロイス・マクマスター・ビジョルド、G・R・R・マーティン、アン・マキャフリー、ロバート・J・ソウヤー、アレステア・レナルズ、と名前を列挙されただけでも身を乗り出してしまいそうになる。
とはいえ、「銀河連邦SF」とは言ってもその包括する範囲は余りにも広く、人類が銀河に移り住む未来を描くならたいていは「銀河連邦SF」に該当してしまう。本書においても、「銀河連邦SFという名の宇宙SF」というざっくりした切り口で、逆にそれによってバラエティに富んだ作品が並び、なかなかに飽きさせない。
しかしやはり「暴力的なまでの覇権を振るう中央集権体制としての銀河連邦」の冷徹なる弾圧、非情なる政治決定、それに対する個人あるいは何がしかの集団の密やかなる抵抗、そういったニュアンスの作品が多く感じた。それは現実世界における国家権力と個人との軋轢をSF世界に置き換えただけ、という見方もできるけれども、SFというフィクションであるからこそその冷徹さと非情さが際立って描かれることになるのだ。
全体的に雰囲気重視によるオチの弱さ、古めかしさを感じる部分もあるが、ジャンルとしての目の付け所が面白く、本書のアンソロジストであるJ・J・アダムスの面目躍如といったところだろう。また、作品毎の巻頭に加藤直之による実に「銀河連邦SF」したカラーイラストが口絵として使われており、それがまたSF心をくすぐってくれた。
《収録作》
アレステア・レナルズ「スパイリーと漂流塊の女王」
ジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン「カルタゴ滅ぶべし」
ロイス・マクマスター・ビジョルド「戦いのあとで」
ケヴィン・J・アンダースン&ダグ・ビースン「監獄惑星」
G・R・R・マーティン&ジョージ・ガスリッジ「不死身の戦艦」
ユーン・ハ・リー「白鳥の歌」
ロバート・シルヴァーバーグ「人工共生体」
アン・マキャフリー「還る船」
メアリー・ローゼンブラム「愛しきわが仔」
ロバート・J・ソウヤー「巨人の肩の上で」
オースン・スコット・カード「囚われのメイザー」
ジェレミア・トルバート「文化保存管理者」
アレン・スティール「ジョーダンへの手紙」
ジェイムズ・アラン・ガードナー「星間集団意識体の婚活」
キャサリン・M・ヴァレンテ「ゴルバッシュ、あるいはワイン‐血‐戦争‐挽歌」