〈eatrip〉を主宰する料理人の野村友里さんが未来に受け継いでいきたいと考える「あかりの灯る場所」を訪ねる連載。5回目となる今回は、岩手県・遠野で自らが育てた米を使ってどぶろくを造り、発酵料理を提供するオーベルジュ〈とおの屋 要〉を営む佐々木要太郎さんのもとへ。“農”を基盤とする仕事とは。
初めて〈とおの屋 要〉のどぶろくを飲んだとき、あまりにおいしくて驚いたという野村友里さん。素朴というよりも洗練された繊細な味は、これまでのどぶろくのイメージと違った。どんな人が造っているのかと調べてみたら、岩手県の遠野で米づくりから手がけているらしい。
予約が取れないオーベルジュによるお酒だと聞いていたけれど、米と土にこだわって造っていると知ったらますます気になってしまう。なぜなら、土は人の営みのベースにあるものとして、野村さんが長く探究しているものだから。
さらに昨年は稲をテーマにした「衣・食植・住」展を主催したこともあって、〈とおの屋 要〉への興味は増すばかり。さて実際に会いに行ったらば、造り手の佐々木要太郎さんは想像していた以上に骨太な農家であり、革新的な醸造家であり、独創的な料理人だった。
風土を表現する酒造りは玄米の自然栽培から始まる
遠野は、東京から新幹線と在来線を乗り継いで約4時間。新緑の山に囲まれて田んぼが並ぶ風景が美しく、民俗学者・柳田國男の『遠野物語』で知られるように、古い言い伝えがたくさん残る幻想的な土地だ。
迎えてくれた佐々木さんが、早速、どぶろくの醸造蔵に案内してくれた。どぶろくは米、米麹、水を発酵させ、醪をこさずに造る。いわゆる日本酒と同じプロセスだが、濾過する工程を経たものだけが清酒と定義される。清酒を造るには国からの許可が必要だが、国は新たな製造免許を交付していないので、実質的に新規参入ができない。
佐々木さんは、遠野がどぶろくの製造免許取得の申請ができる特区であることから製造免許を取得しているが、近年、新たに造り始めたのが、従来の法律では規制がなかった米糠を使って、伝統的な清酒の製造法を応用した「権化」シリーズだ。
「法律的には雑酒ですが、日本の国の酒であるという意味で日本酒と呼べる。でも一般的な清酒よりよっぽど、この土地ならではの風味が感じられる酒だと思います。というのも今、清酒の多くは米をひたすら磨くことできれいな味をつくろうとしているから。米の個性や栄養分はほとんどが外皮である赤糠にあるのに、精米歩合40%ならば60%は削ってしまっているんです。だから、清酒を飲んで米の品種を当てることはほぼ不可能だと思いますよ」と佐々木さん。
人間の舌では甘みと旨みを判別しづらいので、甘みがある白米がおいしいとされている。だから甘みを増やすために肥料を与えるが、糖質が高い米は酸化が早い。玄米の独特な臭いが疎まれがちなのは酸化した外皮のせいだという。そんな栄養過多の米だと雑味成分が増えてしまうから、米を磨かないときれいな味の酒が造れないのだ。