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「菌の力で生き抜く強さが必要」eatrip・野村友里が発酵料理が評判のオーベルジュへ
2024.11.04

あかりの灯る場所 #5

「菌の力で生き抜く強さが必要」eatrip・野村友里が発酵料理が評判のオーベルジュへ

〈eatrip〉を主宰する料理人の野村友里さんが未来に受け継いでいきたいと考える「あかりの灯る場所」を訪ねる連載。5回目となる今回は、岩手県・遠野で自らが育てた米を使ってどぶろくを造り、発酵料理を提供するオーベルジュ〈とおの屋 要〉を営む佐々木要太郎さんのもとへ。“農”を基盤とする仕事とは。

どぶろくに加えて、先人たちが生き抜くために生み出してきた発酵を取り入れた料理が絶賛されている佐々木さん。

初めて〈とおの屋 要〉のどぶろくを飲んだとき、あまりにおいしくて驚いたという野村友里さん。素朴というよりも洗練された繊細な味は、これまでのどぶろくのイメージと違った。どんな人が造っているのかと調べてみたら、岩手県の遠野で米づくりから手がけているらしい。

〈とおの屋 要〉は1日1組限定のオーベルジュ。予約は2ヵ月前から受付。
築200年の米蔵を移築して建てたオーベルジュ〈とおの屋 要〉は内装や佇まいも美しい(tonoya-yo.com)。

予約が取れないオーベルジュによるお酒だと聞いていたけれど、米と土にこだわって造っていると知ったらますます気になってしまう。なぜなら、土は人の営みのベースにあるものとして、野村さんが長く探究しているものだから。

家具や器は大切に集めてきたもの。

さらに昨年は稲をテーマにした「衣・食植・住」展を主催したこともあって、〈とおの屋 要〉への興味は増すばかり。さて実際に会いに行ったらば、造り手の佐々木要太郎さんは想像していた以上に骨太な農家であり、革新的な醸造家であり、独創的な料理人だった。

風土を表現する酒造りは玄米の自然栽培から始まる

遠野は、東京から新幹線と在来線を乗り継いで約4時間。新緑の山に囲まれて田んぼが並ぶ風景が美しく、民俗学者・柳田國男の『遠野物語』で知られるように、古い言い伝えがたくさん残る幻想的な土地だ。

迎えてくれた佐々木さんが、早速、どぶろくの醸造蔵に案内してくれた。どぶろくは米、米麹、水を発酵させ、醪をこさずに造る。いわゆる日本酒と同じプロセスだが、濾過する工程を経たものだけが清酒と定義される。清酒を造るには国からの許可が必要だが、国は新たな製造免許を交付していないので、実質的に新規参入ができない。

発酵途中のどぶろくを試飲して「絶対、おいしくなる予感!」と野村さん。

佐々木さんは、遠野がどぶろくの製造免許取得の申請ができる特区であることから製造免許を取得しているが、近年、新たに造り始めたのが、従来の法律では規制がなかった米糠を使って、伝統的な清酒の製造法を応用した「権化」シリーズだ。

酒蔵から譲られた古い木製の搾り機が現役で活躍中。

「法律的には雑酒ですが、日本の国の酒であるという意味で日本酒と呼べる。でも一般的な清酒よりよっぽど、この土地ならではの風味が感じられる酒だと思います。というのも今、清酒の多くは米をひたすら磨くことできれいな味をつくろうとしているから。米の個性や栄養分はほとんどが外皮である赤糠にあるのに、精米歩合40%ならば60%は削ってしまっているんです。だから、清酒を飲んで米の品種を当てることはほぼ不可能だと思いますよ」と佐々木さん。

求めていた理想の味に仕上がったのがうれしくて、味見と称して飲んでしまうらしい。

人間の舌では甘みと旨みを判別しづらいので、甘みがある白米がおいしいとされている。だから甘みを増やすために肥料を与えるが、糖質が高い米は酸化が早い。玄米の独特な臭いが疎まれがちなのは酸化した外皮のせいだという。そんな栄養過多の米だと雑味成分が増えてしまうから、米を磨かないときれいな味の酒が造れないのだ。

米糠酒を木桶で150日以上醪発酵させ、さらにワイン樽で1年ほど三次発酵を行った「田の喜怒哀楽」。
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