マンガは「アプリ」だけじゃない…ここにきて、じつは「ウェブ漫画誌」が超重要になっているワケ
ビジネスメディアではLINEマンガやピッコマ、ジャンプ+やマガジンポケットといったスマホやタブレットで使う「マンガアプリ」の売上が注目されがちだが、実はブラウザからアクセスする「ウェブマンガ」(ブラウザマンガ)も年々盛り上がりを見せている。
マンガに強い出版社も続々と参入し、ユーザーを増やしている。アプリにはないウェブの強みとはなんなのか。ビッコミ(小学館)、チャンピオンクロス(秋田書店)、リマコミ+(集英社)などのウェブマンガ誌の開発・運用を手がけるコミチの代表・萬田大作氏に訊いた。
単体での「売上」だけ見ると大きくはないウェブマンガ誌に各社が力を入れる背景
――ブラウザマンガの市場規模は?
萬田 出版関係の市場規模のデータとしてよく参照される、出版科学研究所やインプレス総研などの調査では明確な推計は出ていません。ただ、『出版指標年報2024』によると2023年の日本のマンガの市場規模は紙2108億円と電子4830億円の合わせて6937億円です。電子コミックは決済方法によってアプリとウェブにおおよそ分けられますが、たとえばピッコマが2023年の年間売上1000億円超え、ライバルのLINE Digital Frontierも2023年にLINEマンガとebookjapanの年間流通総額1000億円超えだと両社がプレスリリースを打っていましたから合わせて2000億規模。それらに続く集英社ジャンプ+や講談社のマガポケも含めるとマンガアプリ市場は二千数百億円はあると思われます。
「電子書籍」と言ったときに多くの人がまず連想するAmazonのKindle、それからアムタスのめちゃコミック、NTTソルマーレのコミックシーモアなどもアプリで閲覧させてはいますが、これらは基本的には「ウェブで決済して、専用アプリで閲覧する」電子書店です。こちらはApp StoreやGoogle Playで提供されるマンガアプリとは別のブラウザマンガ市場にカウントされます。
――そのさらに残りの部分に、コミチが力を入れているマンガ雑誌のウェブブラウザ版があるわけですよね。そう考えると、ウェブマンガ誌は売上規模としては小さいのでは?
萬田 ただ、そもそもマンガビジネスにおいてマンガ雑誌とコミックスの位置づけが異なるように、ヤンマガWebやチャンピオンクロスのような出版社の雑誌編集部が母体のウェブマンガ誌と、ピッコマやめちゃコミ、Kindleのような電子書店も位置づけが違います。
よく知られているように、マンガ雑誌はある時期から雑誌単体では赤字であって、雑誌連載から生まれたコミックスを売って回収するビジネスモデルでやってきました。
2010年代に入ってマンガアプリが台頭すると、マンガ雑誌の編集部もマンガアプリを立ち上げることが増え、ジャンプ+やマガポケなど一部は成功しましたが、アプリは開発・運営費用がかかることもあって、会社や編集部の規模によってはアプリを持つのはなかなか厳しいこともわかってきます。ですから、紙の雑誌またはウェブマンガ誌を運営しつつ、そこから生まれたコミックスをピッコマやLINEマンガ、Kindle、めちゃコミ、シーモアといった電子書店、マンガアプリで売るという体制が基本になりました。
ところがマンガ雑誌に限らず紙の雑誌全般の売上が減少し、昨今のインフレによる燃料費高騰、運送会社の労働時間規制、賃金上昇によって取次の採算が成り立たず、日販がコンビニ配送から撤退するに至りました。紙の雑誌ビジネスの存続が危ぶまれるとすら言える状態になり、いよいよウェブマンガ誌を軌道に乗せておかないと、出版社のマンガ編集部が長年培ってきた、雑誌の名前と紐付いたブランドの存在感が消滅しかねない、そうなると作家さんも集められなくなってしまう――このような危機意識が各社で強くなってきました。それが近年、ウェブマンガ誌に力を入れている編集部が増えている背景にあります。
――「チャンピオン」「ヤンマガ」といった雑誌別または会社別のブランド認知を維持・獲得することと、それによって作家獲得競争に勝って自社のマンガ編集部に合った才能に描いてもらうことにつなげるのが目的だと。
萬田 そうですね。もう少し細かく言いますと、「少年ジャンプ+」編集部が2020年11月28日にnoteに発表した「「漫画雑誌」のアップデートを試みた 〜少年ジャンプ+の場合〜」という記事があるのですが、われわれもこれを読み解いてウェブマンガ誌が果たすべき機能とは何かを改めて考えて整理しました。
1.作家の発掘 雑誌のブランド価値を向上させることで作家が集まるようにすること
2.作家の育成 作家がトライ&エラーを重ねながら成長できる場にすること
3.読者アンケート 連載中に反応を見ながら作品内容のチューニングができること
4.作品の販促 単行本の発売告知など、作品の販促ができること
これら4つをウェブ雑誌制作ツール「コミチ+」で解決しようという思想で弊社は取り組んでいます。
従来のマンガビジネスの「紙のマンガ雑誌+コミックス」の「紙の雑誌」部分をリプレイスするものとして「ウェブマンガ誌」があるというのが基本的な考えです。
ですから仮にウェブマンガ誌単体の収支としてはトントンになったとしても、出版社さん的にはウェブマンガ誌を通じて自社作品の単行本売上につながり、長年培ってきた雑誌のブランドを認知してもらうことで作家さんの獲得につながれば目的は果たしていると言えます。ただ実際にはコミチが関わっている媒体では現段階ですでに運営費が出るくらいは儲かっています。さすがにすぐに黒字とはなかなかいきませんが、始めて1年くらいで初期投資も含めてリクープできるラインが見えてくる媒体も多いです。この「回収までに5年も10年もかかる投資ではない」点も各社がウェブマンガ誌をやろうという意思決定のしやすさにつながっているかもしれません。