チャイはインドを旅しているとそこら中で飲む飲み物。
ボクはあまりお金を出して飲んだことはない。
大体は誰かが奢ってくれたりどこからともなく出されたりする。
今回はココロに残った一杯のチャイのお話。
ジャイプールで雨宿り
ジャイプールの観光名所ハワー・マハル(風の宮殿)からほど近いバディ・チョッパーという場所がある。
雑然とした店が並ぶインドならではの雰囲気。
インドの刺繍リボンを探しにそのバディ・チョッパーの路地裏で迷子になっていると雨が降り出した。
街を行く人達も突然のスコールのような雨に足を止め雨宿り。
市場の奥の路地裏でボクも足を止めざるを得なかった。
やって来たチャイ売り
そんな中細い路地を片手にチャイが入った魔法瓶と小さな小さな紙コップを持ったチャイ売りのオトコがやって来た。
雨宿りをしていたのはボクを入れて6人ほどだったろうか。
手持ち無沙汰の彼らは次々にチャイを注文した。
そんな人達を眺めながら一歩遅れてボクも一杯のチャイを飲もうと声をかけた。
1杯5ルピー。ボクは20ルピー札を差し出した。
「お釣りが無いから売れないよ」
オトコは一言そう言い残し足早に去っていった。
一組の夫婦
その場にいたインド人達も「しょうがないね」と言った表情でボクも何となく注文しただけだったので特に気にも止めず雨が上がるのを待つことにした。
ボクの隣には一組の50代ぐらいの夫婦がチャイを啜っている。
その時奥さんの方が旦那に向かって口を開いた。
「ほらアンタ!日本人が困ってるじゃないのよ!買ってあげなよ」
ヒンディー語はからきしだがその時の奥さんの眼差しやら仕草でそう読み取れた。
足早に去ってしまったチャイ屋
短い夫婦の会話が終わると旦那がまだ止まぬ雨の中チャイ屋のオトコを追いかけた。
しかし足早に去ってしまったチャイ屋の姿は路地裏から消えており程なくして旦那さんが済まなそうに戻って来た。
ボクは心を込めてその夫婦にお礼を伝えなんだか申し訳ない気持ちになってしまった。
見ず知らずのたまたま一緒に雨宿りをしている見知らぬ外国人にこうも親切にしてくれる。
ボクだったらそれが出来ただろうか。
雨上がり
そうこうしているうちに雨は小降りになりやがて上がった。
そこにいた6人はそれぞれてんでに散っていった。
見知らぬ街で一緒に軒先で雨宿りをしただけの人達。
もう二度と会うことはないだろうと思いながらさっきチャイを買いに走ってくれた旦那と奥さんにもう一をお礼の気持を伝え歩き出した。
人混みの中で肩を叩かれる
店先を冷やかしながら5分ほど歩いた頃だったろうか。
トントンと肩を叩かれたのを感じた。
混雑している市場の路地ゆえ何か物がぶつかってるんだろうなぐらいの気持ちでさして気にも止めず歩き続けた。
そうするともう一度。
今度はさっきより強く肩を叩かれた。
何だろう?
そう思い足を止め振り向くと信じられない事が起こった。
チャイを持ったオトコ
心の底から驚くとはこう言う時だと思う。
ついさっきまで一緒に雨宿りをしていた夫婦の旦那が小さな紙コップに入ったチャイを差し出したのだ。
一瞬声を失う。
チャイ屋を見つけ一杯のチャイを買いボクを追いかけて来てくれたのだ。
ほら。飲みたかったんだろう?とも言いたげなニコニコとした表情でチャイを差し出す。
回りの人が何事かと振り返るほどボクは何度も何度もその夫婦にお礼の気持を伝えた。
二人ははにかんだ笑顔を見せ直ぐに人混みに紛れ見えなくなってしまった。
インドで飲んだ一番美味いチャイ
ボクは20年以上インドに通いあちこちの街で無数のチャイを飲んで来た。
しかしこの時の一杯のチャイが後にも先にもないぐらい美味しかったのは言うまでもない。
決して裕福な身なりではなかった夫婦。
そんなインド人の優しさに触れまたインドに一歩深く受け入れて貰った気がした。
この時受けた恩を直接その夫婦に返すことは出来ない。
ボクに出来ることは次に困った人に出会った時出来る範囲で手を差し伸べてあげることだ。
「恩送り」と言う言葉を思い出しながら小さな紙コップのチャイを啜る。
雨は上がり街は動き出している。
ボクは夫婦のはにかんだ笑顔を思い出しながら最後の一口までじっくりとチャイを味わった。
先日半年にも及ぶインド旅行からバンコクに戻って来ました。ボクはエスニック雑貨バイヤーと言う仕事柄インドとは20年以上の付き合いになります。しかし半年にも及ぶインド旅行は初めての経験。その長期に渡るインド旅行で気づいた日本から持って[…]