なぜ日本ではクリスマスは恋人のイベントになったの? #もやもや解決ゼミ
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いよいよクリスマスが迫ってきましたね。「クリスマスは彼氏・彼女とデート」という人もいると思います。
日本では「クリスマス=恋人と過ごすもの」というイメージが根強いですが、欧米のクリスマスは、家族が集まって過ごすものです。この違いはなぜ生まれたのでしょうか?
今回は、大手前大学 総合文化学部 太田素子名誉教授に回答してもらいました! 太田先生は「イギリスのヴィクトリア朝からモダニズムにかけての小説研究」が専門ですが、欧米の文化史についても深い造詣をお持ちです。
もともとクリスマスはどういうイベント?
クリスマスはヨーロッパ発祥の文化で、キリスト教の祝祭でした。キリスト、つまり神の子が生まれた日をお祝いするもので「降誕祭」と呼ばれました。元来、敬虔な宗教行事で、教会の礼拝や深夜ミサが開かれ、信者がそれに参加するといったものだったのです。
現在の日本人がイメージするクリスマスは、アメリカ合衆国の近代のクリスマスでしょう。
合衆国はヨーロッパからの移民が作った国ですから、移民のキリスト教徒が北米大陸にクリスマスを持ち込みました。これが後に商業主義と結び付きます。
例えば、サンタクロースは、もともとキリスト教の聖人セントニコラスが由来ですが、大きな体、赤い服に白いひげ、陽気で楽しいサンタクロースのイメージは、コカ・コーラの宣伝ポスターから生まれたといわれています。ことほどさように、現代のクリスマスには商業主義が色濃く反映されているのです。
しかし、クリスマスが今でも大切なイベントであり続けているのも事実です。アメリカでは多くの場合、11月に行われる感謝祭(サンクスギビングデー)やクリスマスは家族そろって祝う行事で、まさに「家族再会の集い(Family Reunion:ファミリー・リユニオン)」なのです。
日本でクリスマスが恋人と過ごすイベントとなっているのはなぜ?
クリスマスが本格的に日本に入ってきたのは、西洋文化が移入された明治時代以降のことです。その頃にはあくまでもキリスト教のイベントでしたが、一般に認知され、広がった際には「宗教色がすっぽりと抜け落ちて」しまいました。
キリスト教の信者がそれほど多くならなかったため、文化的な形だけが定着したのです。ここに日本のクリスマスの特徴があり、これは現代まで続いていますね。
大正、昭和の初期にはクリスマスは男性が楽しむものという風潮がありました。ダンスホールや盛り場のキャバレーで、クリスマスのイベントが行われたりしました。お父さんが外で飲んで帰ってくるという日で、お母さんは子供と家にいるという時代があったのです。
戦後、核家族化が進む中で、クリスマスは徐々に家族のイベントになっていきます。お父さんが子供にプレゼントを買って帰る日という認識が定着します。
その後、女性の社会進出が進むと、1980年代には「恋人と過ごす日」というイメージが強くなります。バブルの時代には、テレビ・雑誌など各種メディアでそのようなイメージを植え付ける宣伝、記事がたくさんありました。
そのため、現在でも「クリスマスは恋人と過ごす日」というイメージが強いのだと考えられます。その時代を過ごした男女がお父さん、お母さんになって子供に自分の経験を語って聞かせるなどすると、世代を超えてイメージは伝わっていきますからね。
ただ当時と変わってきている点もあります。当時は、男性が高価なディナー、プレゼントを贈るのが当然といった風潮でしたが、現在ではそれを当然とする人は少なくなっているのではないでしょうか。これも「女性の社会的自立」と関係していると思われます。
このように日本のクリスマスは、宗教色がすっぽり抜け落ちた、実に日本らしい形ではありますが、時代、社会情勢と共に少しずつ変化してきたのです。また欧米と違って「Family Reunion」的な考え方が日本では希薄ですが、これは日本の場合その機能を果たす「正月」「お盆」という季節行事が別にあるからだと考えられます。
クリスマスはもともとキリスト教徒による敬虔な「降誕祭」でしたが、移民により北米大陸に持ち込まれ、アメリカ合衆国で商業主義と結び付いて発展。現在のような形になったとのこと。
現在の日本では「クリスマスは恋人と過ごす日」というイメージが強いですが、これはバブルの時代にそのようなイメージが付け加えられたためのようです。クリスマスも時代によって変化していくものなのですね。
イラスト:小駒冬
文:高橋モータース@dcp
教えてくれた先生
大手前大学 総合文化学部 名誉教授。博士(文学)。
1948年兵庫県生まれ。1973年、大阪大学文学部英文学科卒業。1978年、大阪大学 大学院 博士課程(英文学専攻)所定単位取得。2010年、学位取得 博士(文学、大阪大学)。
主な著書に、『病と身体の英米文学』(共著,英宝社,2004年)、『ヴィクトリア朝―文学・文化・歴史』(共著,英宝社,1999年)『ヴァージニア・ウルフの「パーティ」空間』(英宝社,2019年)などがある。
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