多数のデザインコンペを受賞経験を持ち、ヤフー株式会社でコーポレートブランディングを担当しながら、アイデアクリエイターとしても活躍するいしかわかずやさんに、視点を変えてアイデアを生み出す極意をうかがいました。
→「えいや!」と飛び込んで挑戦を楽しむ。17歳で上京し、大学在学中選挙に出馬。起業家・金光左儒さんの視点を変える方法とは? #Rethinkパーソン
PROFILE
いしかわかずや
◉――1991年生まれ。千葉県出身。大学ではカー・デザインを専攻し、在学中からデザインコンペに多数出品。卒業後は大手IT企業・ヤフー株式会社に就職。ブランディングデザインの部署に配属され、「。
◉――デザインコンペ受賞率9割以上。第24、25回サンスター文具プレゼンツ文房具アイデアコンテスト2年連続受賞、コクヨデザインアワード2020ファイナリスト、12th、13th、14thシヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティション3年連続受賞など。ありそうでないアイデアを日々Twitterに投稿(フォロワー3.6万人)。アイデアが生まれるまでの流れをYouTube(3.3万人)TikTok(2.8万人)で発信する。
▼Rethink INDEX
1.受賞率9割以上。コンペの参加理由は意外にも〇〇?
2.就職してから考えるようになった“コスパのいいアイデア”とは?
3.勉強するほど不真面目になる!? 「繁華街になる付箋」
4.いしかわさん流、アイデアを考えるための2つの視点
5.「当たり前を疑う」ことを習慣づける
大学ではカー・デザインを専門に学んでいて、当時から3Dモデルを使って自分の考えた形を具現化していました。最初にデザインコンペに出品したのは、大学一年生の頃。大学が千葉県習志野市と共同して「地元のお土産を考えましょう」というデザインコンペを開催したんですよ。
その頃僕はデザインについてほとんど勉強したことがありませんでしたし、もちろん実績もない、いわばペーペーの状態です。周りの先輩たちがパソコンで作ったデザインを出品しているなかで、僕が出したのは白い紙に鉛筆で書いただけの「左向きの馬サブレ」という作品でした。
でもその作品が入賞したんです。アイデアって本質さえ突いていれば、そこまで見せ方にこだわらなくても評価されるんだと実感した瞬間でした。
そのコンペを主催していた大学の先輩が、たくさんのデザインコンペで賞を獲っている人で、「僕もこういう人になりたい」と思ったんです。
それから色々なデザインコンペに応募することが“習慣”になりました。アルバイトをせず、コンペの賞金で生計を立てていた時期もありますね。自分がやりたいことをやりつつも、お金を稼げる仕組みを自分の中で作っていった感じです。
当時僕は周囲から「いしかわは車やプロダクト系のメーカーに就職するだろう」と思われていたのですが、せっかくの就活なのだからいろんな業界を見て見たかったんですよね。メーカー系の企業って年配の人が多いのですが、僕はもう少し同年代の人と働いてみたいなと。
それでIT企業も視野に入れることにして、ヤフー株式会社の採用面接を受けました。最終的に決め手となったのは「人」と「環境」。シンプルにこの職場でこういう人たちと一緒に働きたいなと思って、ヤフーへの就職を決めました。
その年採用された人のなかでは、僕が唯一WEBをまったく勉強してこなかった新卒社員でした。普通デザイナーって入社するとヤフオクやショッピング、乗り換え案内の部署などに配属されることが多いのですが、僕はWEB未経験だったので、ちょっと変わった扱いを受けたんですよ(笑)。会社全体のブランディングを行うブランドマネジメント室に配属され、アイデアを考えることが、そのまま仕事になっています。
就職したことで、アイデアの考え方にも変化がありました。一番大きかったのは、大袈裟なアイデアが受け入れられないと気づいたこと。
学生の頃は大きな工夫をして大きな効果を得るというアイデアの考え方をしていたんですが、社会人になったら、いかに小さな工夫で大きな効果を得られるかが重要になる。ちょっと変えただけですごく良くなったというコスパのいいアイデアが受け入れられるとわかったんです。
※社会人になってからもコンペに積極的に参加(Plastic Design & Story Award 2018受賞時)
また、会社にはいろんな人がいるんですよね。Aさんがいいといったアイデアでも、Bさんに受け入れられるわけではない。誰が決定権を持っているかを考えて、最終判断を下す人に刺さるアイデアにしなければならない。誰にアイデアをみてもらうかまで考えなきゃいけないと意識するようになったのは、社会人になって大きく変わった点ですね。
シヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティションでは3年連続受賞 ※写真は第12回準グランプリ受賞時の様子
これまで色々なアイデアを考えてきましたが、メディアやSNSで反響が大きかったのは「繁華街になる付箋」です。
このアイデアを思いついたのは街を歩いているとき。繁華街の看板を見て付箋が本から飛び出ている風景と似ているなと感じたんです。あれは今すごい勢いでバズってます。
勉強すればするほど、付箋を貼るから繁華街が賑やかになっていくという化学反応が起こるところが面白いんですよ。真面目なほど不真面目になっていくというか(笑)。いろんな街の繁華街を付箋に落とし込むことで、ご当地土産のような展開案も考えられると思っています。
思いついたときの高揚感が大きかったのは「筆跡えんぴつ」ですね。
3BやHBといった鉛筆の濃さがひと目でわかるように、筆跡をそのまま印字したんです。これはシヤチハタ・ニュープロダクト・デザイン・コンペティションを3年連続で受賞したときのアイデアです。鉛筆って試し書きできないから、売り場で見ても濃さがよくわからない。その割に広い売り場面積を占めているのが気になって、もうちょっと工夫した方がいいんじゃないかと思ったのがきっかけでした。
▼色の濃さが一目でわかる、これまでありそうでなかったアイデア
長年、文字情報だけで記されてきた鉛筆の濃さについて、疑ってかかったのはおそらく僕だけ。ありそうでなかったものを発明できたぞという達成感もありましたし、素直なアイデアなので浸透しやすいと思うんですよね。
僕が新しいアイデアを考えるときには、実は2つのことしかやってないんですよ。ひとつは既存のものをちょっとだけ変えて、今より良くするというアイデア。もうひとつが、既存のものの特徴を何か他のものに見立てるアイデアです。
つまり、ちょっと変えるか見立てるかだけ。この2つの考え方しかしていないんです。
例えば丸いガムテープを四角くしたら転がらなくなったり、付箋のノリの位置を真ん中に持ってくるだけで逆に書いてしまう問題を防げたりするのが既存のものをちょっと変えるアイデア。先述した「繁華街になる付箋」は見立てるアイデアに当たります。アイデアが評価されるためには、共感と驚きを与えることが必要。普通のアイデア商品でも共感はしてもらえますが、驚きを与えることはできません。小さな工夫で大きな効果を生むアイデアは、こんな工夫でこんな問題を解決できたの? というように驚きを作りやすいんですよ。
アイデアを思いつくまでにかかる時間は、短くて1、2分。長くても、大体30分くらいですね。アイデアの方程式みたいなのを見つけたら、そのくらいの時間でできちゃうと思います。
例えると小学2年生くらいで習う九九のような感覚。習っていないと8×9=72を導き出すまでに時間がかかりますが、九九を覚えてしまえば一瞬で答えが出ます。アイデアを生み出す方程式を身につければ、誰でもアイデアマンになれるはず。
アイデアを生み出すには、とにかく既存のものを疑うことが大事。これは僕自身の習慣でもあります。「郵便ポストはなんで赤いんだろう」「なんで信号表示は三つ横についているんだろう」「なんで横断歩道は白黒の線なのだろう」とか、当たり前のことを疑うと、もっとこうすればいいんじゃないかというアイデアが生まれてくるんです。既存のものをちょっと変えてアップデートするというのをクセづけていくと、脳みそが“アイデア脳”に進化するんです。そうすると考えようとしなくても、どんどんアイデアが生まれるという状態になると思います。
あとは、プレッシャーを感じない環境で、自然と考えられるようにすること。みんなでアイデアを考えていると、時間を決めてやってしまいがちなので、その時間以外はアイデアを考えないようになってしまう。アイデアを考える時間を決めないっていうことも結構大事ですね。
僕の場合は24時間アイデアを考えています。「よくそんなにたくさんアイデアが生まれますね」と言われるんですけれど、それは人よりたくさん考えているから。生きている時間がイコールで発想している時間なんです。日常生活の中で当たり前のことに疑問を持ち、もっとこうしたらいいんじゃないかと繰り返し考えていけば、歯を磨くかのようにアイデアを考える習慣ができると思います。
アイデア脳を鍛えたいのなら、ガチャガチャコーナーに行くのもおすすめです。ガチャガチャって見立てるアイデアの宝庫なんですよ。バナナをインコに見立てたフィギュアや亀の甲羅を山に見立てたフィギュアなど、なんでこれとこれを組み合わせたんだろうとか、どうしてコンテンツ化されたんだろうと、商品化された理由まで考えると、自然と作者の気持ちになれるんです。そうなれば、アイデアのいいところを盗めるようになると思います。
取材・文:安藤茉耶
編集:学生の窓口編集部
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