【シン結婚と毒親 2】映画『ミザリー』。恐怖のファン心理は偏愛母の娘に対する執着と似てホラーです。
《オババ》私の姑、人類最強のディズニーオタク。妹の夫とは同級生
《叔母・勝江(仮名)》オババの妹、ヒステリー性障害を患う。優ちゃんの母親、娘を過保護に育て離したくない毒親。太郎くんとの結婚に大反対中。
《優ちゃん》叔母のひとり娘、39歳。婚活アプリで知り合った太郎と熱愛、過保護母に結婚の邪魔をされ、太郎と駆け落ち。
《太郎》35歳。高校時代に親を亡くし、一人で農家を切り盛する勤労青年。
今日も暑い、暑いですね!
台風のために湿気が多く、不快指数でいえば120パーセント!
書いている話は、6月後半の出来事で、雨ばかり降っていて、室内はカビ臭く、太陽が懐かしいなんて思っていたけど。
今日は、暑い!!
そいでもって、頭、すっからかんです。
今、私は、パソコンのまえで立ち上がりました。
朝からこれで5回目であり、いい加減、落ち着かんかってところです。
旅から戻って、暑過ぎて、少しばかり脳がやられております。
で、暑気払いのホラー、行くから!
さて、優ちゃんの入院する病院に電話してきた叔母は、どうも道に迷ったらしく、オババはチッて舌打ちしながらも、病棟受付の電話を借りて応対しました。
「もしもし、ええ、私です。どうしたの・・・、わかってます。優ちゃんですが、いま、入院中で・・・。大声を出さなくても聞こえますから。そうです、ここへ来るつもりなら、頭を少し冷やしなさい・・・、え? 冷えてる? それはあなたの思い過ごしです」
しばらく黙して受話器の向こうの声を聞いてました。
頭だけピコピコ頷いてます。
「道に迷っているの。方向音痴はなおらないわね。え? バカなんて、私、言ってませんよ。心でも思っていません。そんな、八百屋さんがあっても、どこの八百屋かなんて、私に、わかる訳ないじゃないですか」
オババ、苛立ちはじめてます。何回も八百屋って言ってます。
「八百屋が右側って、それ、左だって同じです。わからないわよ。あなた、だから、八百屋の先に電信柱がある? どこにだって電信柱も八百屋もありますって。タクシーを拾って、病院名を言えば来ることができます。え?・・・、迎えが欲しいって? アメリッシュさん? そりゃ、いますが」
オババ、病棟受付の電話で話しながら、こちらを見ました。
私、頭が千切れるかってほど左右に振りました。
「アメさんは無理ですよ。いま、トイレに行ってます。当分、帰ってこないでしょう。それに運転、下手ですからね。それこそ、ここに来れませんから」
ト、トイレって、もうちょっと品のいい選択はなかったんかい。
「いいですか、最寄りの駅まで・・え? そうその駅よ。駅まで戻ってタクシーに乗りなさい。それが1番早いから」
来るんだ、叔母。やはり来るんだ。
今後の予想がつかず、私、ちょっと暗澹(あんたん)たる気持ちでいます。
オババと叔母は姉妹ながら、物事に対する処し方も、見る方向も、考え方も、全て違っていて、相容れないそれは悲劇というより、喜劇に近く。
さる研究によると、兄弟姉妹はお互いに違いを強調して成長する傾向があるそうで、オババと叔母の関係は、まさしくそれなのかもしれません。
なんでもできる行動的な姉の影で、おとなしい妹。
実際、問題がおきるまで、私はこの叔母を静かな人だって思っていたから。
ド派手なオババの妹とは思えないなんて。
で、ビクビクしながら、私、いっそトイレにこもろうかって思いながら病室に戻りました。しばらくして、廊下から不穏な空気が流れてきました。
ほんとですって、ほんとに感じたんですって。
なんか、得体のしれないものが忍び寄ってくる予感? 第6感? そこ、叔母が来るって知ってるからでしょって言わない!
いや、もうね予想通り、叔母でしたけどね。
まるで決闘直前のリングに登るプロレスラーのように現れました。
鼻息があらく、紅潮し、肩を怒らせており、
派手なガウンを着て、タオルを首から下げてないのが不思議なくらい、戦い前のプロレスラーに似ていて。
いえ、外見じゃないから、雰囲気ってことだから。
外見は相変わらずの地味なグレーで、オババと違って小柄だから、服に埋まってるっちゅうか。
病室にいた誰もが、戦う相手は誰? って感じちゃったわけです。
オババか太郎くんか、私かって。
で、すかさず、私、セコンドの位置に移動しました。
どこって?
そりゃ、オババの影でしょ。セコンドちゅうたら。
でもって、オババさえ辟易(へきえき)してるから。
オババも、私の後ろに移動しようとしてて、そこはそれ、
過去に、これほど姑を立たことないってくらい、姑立てたから、私。
同じ勢いでオババ、嫁を立てようってしてて。
第2次臨界体制って、誰かの影に隠れることかって、オババとの無言の圧力のなか感じていると、いきなり太郎くん、一歩前に踏み出した。
その勇気、蛮勇と呼ぶ。
おもわず、私とオババ、「おお」って声が漏れてた。
「申し訳ございません」
太郎、必死のお詫びのポーズ。
上半身、180度に曲げて、頭、膝にくっついてるってくらい曲げてる。
で、叔母。
なんと、それ完璧に無視した。
へ? ってくらい太郎壁をすり抜け、オババと私の壁もものともせず、
優ちゃんのベッド脇にくると。
「優子」って。
誘拐された娘を無事に取り戻したって、そんな感動の母を演じて、全員の予想を裏切ってくれた。
その瞬間、私、ホラー映画の極致『ミザリー』と叔母を重ねちまいました。
で、無意識に頭をブンブン振っていた。
だって、『ミザリー』って映画、ものすごく怖いから。
並みのホラーじゃ太刀打ちできないから。
貞子と伽倻子も位負けしそうなくらい、恐怖のファン心理だから。
『ミザリー』
ある流行作家の大ファンの女性の話で。
作家が終えた作品の続きを書かせるために、自分の家に監禁して、逃げようとしたら、ハンマーで両足を叩き潰して、動けなくするって、そういうファンで。
叔母から同じ狂気の匂いがプンプンして、全員がフリーズ状態だったわけ。
「優子! 優子!」
優ちゃん、その声で目覚めた。
「ママ・・・、どうしたの?」
って、いつものボケかました。
「優ちゃん、大変だったわね。誘拐されて、やっと戻ってこられるわね」
叔母ぁぁぁ・・・
まだ誘拐路線、捨て切れてなかった。
どうやったら、そこまで自分の世界に浸れるんかい。
「ママ。私ね、太郎くんと結婚するの」
でもって、天然優ちゃん。そんなことお構いなしに急所をさした。
叔母、顔が能面になって、カチって何かのスイッチが入ったみたいに、その言葉を拒否したんであります。
「間違ってるの今の優ちゃんは。ママはわかっているのよ、そういうの、ストックホルム症候群っていうですって。ママがきっと解放してあげるから」
へ? 叔母の口から、思わぬ心理分析がでました。
「勝江」って、オババが口を出しました。
その声に重なるように、
「失礼します」って、男性の声がしました。
振り返ると白衣を着た医師が立っていて、その横で看護師が、少し微笑んでいます。
「先生、あの検査は」と、太郎くんが聞くと
「結果がでましたよ」
医師は冷静な態度で全員を見渡して、少しだけ困ったような表情を、わざと浮かべました。
「ご主人、奥様のことで、お話があるのですが、ここでお話しても・・・」
その言葉に叔母の顔が引きつりました。
「娘は、この、おとこ」という言葉が出ると同時にオババ、叔母をガシっと抑えました。
「狂ってるって思われますよ」と、オババ。
「バカにして!」
「ママ、黙って!」
叔母、キッとした瞬間に、優ちゃん、するどい声で叫ぶと同時に咳き込みました。医師は相変わらず困ったような表情を浮かべています。
「ご主人、ここで話てもよろしいですか」
「妻の家族です。どうぞ、教えてください。あの」
医師、リラックスした表情を浮かべて、
「おめでたです」と言いました。
へ? おめでた?
おめでたって、あのおめでた?
オババも叔母もキョトンとしています。きっと私も同じ顔をしてたでしょう。
太郎くんは目を大きく広げて、それから、優ちゃんを見て、もう一度、医師の顔を見ました。
「最後の月経はいつだったでしょうか?」
「げっけい?」と、優ちゃん、おっとりした声で応対してます。
この場で驚いてないのは、おそらく優ちゃんだけだった。
残りは全員が、初妊娠かって、その状況が、よく理解できてなくて、喜ぶべきか、どういう反応していいのか、全く理解できてなくて。
そして、優ちゃんは、おそらく、妊娠の意味を理解してないと、私、感じた。
医師はどう反応していいのか迷っていました。
もしかしたら、望まぬ妊娠なのか、そうだったら嬉しそうな顔を控えるべきだと冷静に専門家としての立ち位置を守ろうとして、もう一度、優ちゃんに聞きました。
「最後の月経は?」
優ちゃん、にっこりしました。
そして、次の言葉に全員が呆気にとられたんです。
「月経ってなんですか?」
to be continued
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*ストックホルム症候群
1973年にストックホルムで立てこもり事件が発生しました。その折に被害者が犯人に好意的になった事件からついた名称で、誘拐事件などで、人質と犯人の間で心理的な結びつきを抱く症状をいいます。
映画『ミザリー』
1990年米国映画。原作スティーブン・キング
恐怖の作家ファンを演じたキャシー・ベイツは、この作品でアカデミー主演女優賞受賞。ま、そんだけ怖かった。
受賞する価値があるほど怖かった。てか、賞もらっていいから、こっち向くなってくらい怪演でした。
【簡単なあらすじ】
ロマンス小説『ミザリー・シリーズ』の大ファンだったキャシー・ベイツ演じるアニーは、連載が終わったことに納得せず、自動車事故で重傷を負った作家を自宅に監禁します。
作家が逃げようとすると、ハンマーで両足を叩き折るなど狂気の連続で、背筋がぞっとする作品です。
この流行作家ポール・シェルダン役をジェームス・カーンが演じてます。
ちなみに、シドニー・シェルダンという実在の作家・脚本家がおり、当時、非常に人気がありました。シェルダンの代表作は『ゲームの達人』『真夜中は別の顔』など。
作家名はこのシェルダンから取ったそうです。
トラウマ映画の筆頭であります。