【毒親vs結婚 6】結婚前に陥るマリッジブルー。人は意識下で幸福になることを恐れている。と、映画『夢』。
《オババ》私の姑、人類最強のディズニーオタク。妹の夫とは同級生。
《叔母・勝江(仮名)》オババの妹、ヒステリー性障害を患う。優ちゃんの母親、娘を超過保護に育てる毒親。結婚に反対していたが妊娠でコロっと変わる。夫との離婚を納得していない。
《優ちゃん》叔母のひとり娘、39歳。婚活アプリで知り合った太郎と熱愛、過保護母に結婚の邪魔をされ、太郎と駆け落ち。妊娠が発覚。
《太郎》35歳。高校時代に親を亡くし、一人で農家を切り盛する勤労青年。
日、月曜日は自宅から離れており、パソコンもブログも見れず、とても失礼しました。それからいつも読んでいただきありがとうございます。
本当に本当に嬉しいです!!
さて、優ちゃんと太郎くんの結婚式です。
家族と身内だけの素敵な森の結婚式
・・・のはずでした。
結婚式予定の1週間前。
オババから電話があったのです。
「優ちゃんの様子が変なのよ」
「叔母さんが何かまた」
「違うの。そっちは大丈夫。問題は優ちゃんのほう」
「優ちゃんが?」
「ひどく落ち込んでいてね」
結婚式前に花嫁がウツになる。いわゆる、マリッジブルーって言葉が思い浮かびました。
同時に、アホって言葉も浮かんだわけでして。
いったい、今更。
まだ39歳だとか言ったら、誰だってシバくでしょう。
これから良い相手がいるかもとか、それもありえない。出会ったことが奇跡だから!
できちゃった結婚、恥ずかしいとかは、もしかして。
そんな思いが交差してのマリッジブルーかもしれない。
わかるよ、それはいろいろ重なったものね。わかるよ・・・
なんて言うと思ったら大間違いじゃ!
ふざけんじゃない!
そんなこと言ってもらえる経験値か!
優ちゃんには前から言いたかったことがあります。
確かに、あなたの母は酷い毒親かもしれない。
ネチネチと拘束して、だから何もできなかったかもしれない。
けどね、もう一度、言う。
ふざけんじゃない!
そんな親の壁、10代なら仕方ない。
壁が高すぎて、反抗もできなかった。生活能力もなかったろう。
けど、優ちゃん。そんなこたあ、10代の反抗期で跳ね返してくるべきことだったんです。親が、親がって、アラフォー、甘えてる年齢じゃないのです。
で、オババ。
「つまり、マリッジブルーじゃないかと」
「今更、そんな、もうお腹に赤ちゃんもいて。確かに結婚前には、そういう気持ちになることもわかります、私だって、魔」
魔界といいかけて、思わず口元を片手で抑えました。
もうね、自分の結婚式前、マリッジブルーになる暇もなかったです。
オババとオジジに挨拶に行ったときには、オババ、大歓待してくれました。
嬉しかったです、最初は。
しかし、さすがにディズニーシャツ、ディズニーワンピース、ディズニーバッグをセットにして、ついでにディズニーパジャマまで送ってきた時には仰天した。ウェディングドレスまで、ミッキー絵柄要求かもと恐怖した。
あの日から、私とディズニー攻防戦は始まったのであって、オババに会う前には1回行っただけのディズニーランド。
結婚後は仕事かってくらいに行きました。
いったいどれほどディズニーリゾートで過ごしてきたことか・・・
東京ディズニーリゾートのホテル全制覇からはじまって、毎年数回のディズニーリゾート。
え?
今、羨ましいって言った?
そこのあなた、
いいから、一回、下記ブログを読んでから帰ってらっしゃい。
その後に、じっくりと、お話し合いを持ちましょう。
「だからね」とオババ。
「結婚式の準備って、たいしたことしませんから。森でウエディングドレスきて、お互いに誓いの言葉を述べて、それでレストランでお食事って段取りよ。太郎くんも、それでいいらしくて、レストランを紹介したから打ち合わせはするって。ウエディングドレスについては勝江がはりきってますしね」
結婚式といっても、八ヶ岳のレストランで食事をするといった、本当に簡単なもので、大した準備もいりません。
レストランに行くのに、普通の服で行くか、ウエディングドレスを着ているか、その違いだけの簡単な式です。難しいことはなにもありません。
「それで、なぜ、マリッジブルーなんでしょうか」
「あの子はね。勝江が取り込んで育てて、自分の元から離さなかったでしょう。だから自信がないのよ。自己肯定感がなく育ってきたのよ」
「それはわかっています」
次にいったん息を止めてから、オババ、言いました。
「赤ちゃんができて、幸せなんです」
「ダメです。なぜ不安なのか全く理解できません」
「幸せすぎて、それが怖いそうです」
「へ?、ノロケですか」
「ま、アメのように能天気に育ったものにはわからない感情でしょう」
聞きづてならん!
「お義母さん。私だって苦労しています」
「おや、どんなご苦労だい」
「そりゃ、オバッ」
とっととと、ま、まずい、思わず本音が。
「オバババ・・、オバケが怖いんです!」
しばらく沈黙がありました。
「オバケ?」
困った! どうする。
その瞬間、映画CDのパッケージが目に入りました。
黒澤明監督の『夢』です。
この作品は8つの夢を描いたオムニバス映画で、最初の作品に狐の嫁入りがでてきます。
これが、実に不気味なんです。
幻想的な森を背景に笛の音が聞こえ、靄(もや)の中から、狐の嫁入りシーンが入ります。オバケが出てくるような結婚式です。
これだ!
「いえ、あの、黒澤明監督の『夢』って映画で、狐の嫁入りが怖くて、そのオバケが、森で結婚ですし・・・」
しばし、沈黙がありました。
狐どろこじゃない、こわ〜〜い沈黙であります。
電話の向こう側で、オババが左の口元をグッとあげて皮肉に微笑んだの、見えた気がしました。
花嫁のマリッジーブルー
電話のあとで、グーグル検索しました。
あるメンタルサイトによると。
マリッジブルーの原因は、おおよそ3つあると書いてありました。
1 結婚することで生活の変化への不安。
優ちゃんの場合、すでに太郎くんと生活を共にして4ヶ月が過ぎ、妊娠もしています。今更、生活の変化にストレスを感じるはずはありません。
妊娠については、赤ちゃんを持てること自体が奇跡で、むしろ不妊が心配でした。そこでストレスがあるとも思えません。
2 結婚式準備の煩わしさ。舅姑など相手の義実家との関係の不安。
結婚式は簡単なお食事会ですし、太郎くんの両親は亡くなっています。不安などあるはずがありません。
3 幸福への不安
これかあ!
驚くべきことに、人間は幸福になることを意識下で恐れているのだそうです。
特に、優ちゃんのように過保護に、と言えば聞こえはいいですが、母親からダメダメと否定的に育てられた子は、内心の罪悪感を拭えないらしく。
自分は幸福になる資格がないと思い込むことがあります。
おそらく、優ちゃんが落ち込むとしたら、そういうことでしょう。
「それで、優ちゃんは」
「一度、話に行こうと思うが、ご一緒にいかがかと。狐の嫁入りもあるしな」
げ! オババ、気づいてる。
勘がいいのです。怖いです。
to be continued
映画『夢』 狐の嫁入りと葬送行進曲
黒澤明監督 1990年公開。日米合作映画。
第1話「日照り雨」「桃畑」「雪あらし」「トンネル」「鴉」「赤冨士」「鬼哭」から、最終話「水車のある村」の8話からなるオムニバス形式の映画。
各物語の最初に「こんな夢を見た」という文字が出てきます。
これは夏目漱石氏の著作『夢十夜』で冒頭に書かれている文章と同じで、黒沢監督、実際は8話ではなく10話制作したかったのかもしれないって思っています。
さて、当時、黒澤映画は予算が膨大というのは有名な話で、日本映画の斜陽化から、その潤沢な予算が出せなくなっていました。黒澤作品は海外からの評価が高かったですが、当時、商業的な成功という意味では難しくなっていたのです。
映画化にあたり、黒澤監督を尊敬するスティーヴン・スピルバーグが製作に協力し、ワーナー・ブラザースが配給を担当しました。日米合作映画になった背景には、そうした理由がありました。
『夢』公開当時は酷評が多かったです。
しかし、今見ても、時代の古さを感じさせない映画です。
米津玄師さんの『パプリカ』冒頭のイラストが、この最終話「水車のある村」のオマージュじゃないかって、勝手に夢想したりしています。
中でも第1話の「日照りの雨」は、今も映像が目に浮かぶ印象的な作品です。
狐の嫁入りシーンで、花嫁行列が通り過ぎるのですが、全員、狐の面をかぶっています。面妖な行列、背筋がズリズリする恐怖、なんとも言えない日本的な美に溢れた作品でした。
この第1話と最終話「水車のある村」がとくに好きな寓話です。
最終話では、ある村でのお葬式の様子が描かれています。これがとても楽しく美しく、こんなふうに黄泉の世界へ送ってもらえるなら、感動すると思える、本当に素晴らしい作品でした。
鈴と太鼓と掛け声と吹奏楽器、葬送行進曲の音色が、今も耳に残ります。
鈴を持ち、赤いちゃんちゃんこを着られた笠 智衆さんも、今はお亡くなりになっていますね。寂しいです。