【毒親から結婚の道 4】映画『大誘拐』の身代金は100億円。毒親との勝負で、こっちは10億円。
《オババ》私の姑、人類最強のディズニーオタク。
《叔母・勝江(仮名)》オババの妹、ヒステリー性障害を患う。娘を溺愛し結婚に反対。娘が駆け落ちすると、今度は婚約者に、これまでの養育費10億円払えと無理難題。
《優ちゃん》叔母のひとり娘、39歳。婚活アプリで知り合った太郎と熱愛、過保護母に結婚の邪魔をされ、太郎と駆け落ち、結婚する予定。
《太郎》35歳。高校時代に親を亡くし、一人で農家を切り盛する勤労青年。
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叔母が、ブリブリしながら帰ったあとで、私、オババに詰め寄りました。
「いった全体、お義母さん」
「なんですか」
「言葉がありません。嘘だったんですか? 優ちゃんを結婚させないと将来的に困るからって言ったのに、やっぱり、叔母さんの味方だったんですか」
「アメリッシュ、気持ちは変わってませんよ。さあ、ちゃちゃっと、おウドンでも料理して腹ごしらえしましょう。今日な長い1日だったわね」
その声には疲れが滲んでいました。
で、オババと私、キッチンに、
ん? どうしてこうなった。
「そういえば、お義父さんは」
「釣りよ。最近は夜釣りが趣味でね、夕刻になる前の4時くらいから出かけることがあって、おいおい帰ってくるでしょう」
ウドン汁のダシを取っている間、私はオババに渡された大根を洗った。
「10億なんて途方もない金額、太郎くん払えるわけないじゃないですか」
オババ、例の得意のハリニヤで、片方の唇を皮肉にあげました。ハリソンフォード似せて練習した笑い方です。
「馬鹿ね。だからいいんじゃないの、なまじ3500万円なんて、可能かもしれない金額じゃ困るんですよ。一人で贅沢もせず生きてきた太郎くんですから、貯金を持ってるかもしれません。農地を売って、自宅を売ったら3500万円。作れるかもしれません」
「だからこそ」
「あなたの頭は、どうも脳みそが全部に行き渡ってないんじゃないかと、ときどき不安になることがあります」
あ、ぴ、ぷ、ぺ、ぼ?
これ、アホの婉曲的表現?
アホって言われた?
チッ。ならアホで逃げる手を使って・・・
「豆粒大かと」
「そうですか、そこまでとは、まあ、疑ってましたが」
否定して! そこ否定するとこ!
ザックリと、大まかに大根を切り、それから、包丁を灯に照らしてみました。切れ味の良さそうな刃をしています。
私、ニッと笑うと、オババもニッと返してきました。
「可能な金額ってことでは困るんです」
大根、ザックリ!
オババ、木のまな板を使っていて、音がいいんですねぇ。
ザックリ、トン! ザク、トン! ザク、トン!
「面白い切り方で、大根おろしをつくるのね」ってオババ。
「は! これでミキサーを使って大根おろしに」
「なるほどね。問題はウチにはミキサーがないってことです」
「え?」
「じゃ、大根おろしを、どうやって」
「手でおろします」
オババ、大根おろし器を手渡ししてくれました。
早く言わんか。小さく刻みすぎたじゃないか。
オババ、ニッと笑いました。私もニッと返しました。
「もし、勝江が民事裁判所に訴えてもごらんなさい。で、あれはやりかねないんです」
「民事裁判?」
「スマホ」
かなり小さく切った大根をおろしているので、手が大根汁で濡れてます。
「ほら、あれよ、あれ、イビキみたいな名前の会社、グーグーでしたっけ?」
「グーグル」
「そう、それで。親子の民事裁判って調べて」
濡れた手をふきんで拭い、スマホを持ち、Googleで検索しました。
「親子で民事ですか?」
「あるはずよ、そういう裁判って、きっと」
「た、確かにあります」
「やはりね。だからこそです。3500万円なら、弁護士も相手をするかもしれません。でもね、10億円って言ったら、相手にする弁護士も、もっと言えば裁判所なんてありませんよ。大富豪の話じゃありませんからね。庶民ですから」
「確かに、グーグルでも親が子を訴えるって難しそうです」
「そう、10億円なら間違いなく相手にされません。うすら笑いで終わります。丁寧にお引き取りくださいって狂人扱いですよ」
オババ、例のハリソン・フォードばりにニッと笑いました。
私もニッと返しました。
「じゃあ、いくらでもよかったですか。35億でも」
「いえいえ、10億がよかったんです」
「10億に戦略でも」
「昔ね、大誘拐って映画をみましたよ。その主人公が豪快なお婆さんで、いつか同じことやってみたくてね。映画で彼女、自分の身代金を100億って言い放ったのよ。で、まあ、大誘拐の真似して、ただ同じ額じゃあね。お婆さんに尊敬を込めて、10億に下げておいたんです」
そ、それ? 10億の根拠? そこ?
「は、はあ」
「それに、どうせ、これは勝江の考えじゃないでしょうし」
「え?」
「勝江相手なら100戦100勝です。問題はないですが」
「・・・」
「こういうことを言い出す相手は想像がつきます」
いえ、全く想像がつきません。
叔母以外にも敵がいるっての?
「いいですか」と、オババ
「勝江は直情的で感情的で。なのに太郎くんの家に殴り込みいかなくて、こっちに来るなんて、あの子らしくない。やり方が狡猾というか、戦略的です」
「・・・?」
「あの男が出てきたんです」
「あの男?」
あの男って言ったとき、オババにちょっと動揺みたいなものを感じました。
あの男。英語なら、「The man」
このニュアンス、なんか覚えが・・・
「優ちゃんの父親ですよ」
「叔父さんって、家に帰ってきてないっていう叔父さんですか」
叔母の夫、叔父には結婚式以来、会っていません。
あまり記憶にありませんが、確かオババと同じ年齢の洗練された紳士だったような。
自分の結婚式って、周囲の人に構ってられないというか、ほとんど見てなかったんだけど、それでも叔父は印象に残っています。
一瞬で強烈な印象を与える、そんな男だったからです。
大勢の人がいても、人々が自然に目が行くって、そういう人っているじゃないですか。
オババの夫であるオジジとは真逆の雰囲気で。
ごめん! オジジ、いい人だから。穏やかで真面目で。
「出てきたんでしょうよ」
「叔父さんが」
「どうせ、勝江よ、あらゆるところへ泣きついて、夫にも連絡したのよ。あの男、冷たい人間ですが、優ちゃんの父親ではあるわけですから」
なんか、オババの声に棘がある。
あの男って、まるでシャーロックがアイリーンを呼ぶような、そんな特別な響きがあって、密かに私、震えました。
ちなみに、シャーロックとアイリーンについてご興味があれば、下記記事をご覧ください。
で、あの男って。
いやな予感しかしないんですけど・・・。
オババ、ニッと笑いました。で、私も恐る恐るニッと返しました。
to be continued
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映画『大誘拐』1991年公開
山林王で柳川家当主である柳川とし子、小柄な82歳の老女です。
この老婆を誘拐して5000万円の身代金を要求しようとしたチンピラは、豪快な老女の計画に乗せられ、国家権力とマスコミを手玉に取って100億円を略奪することになってしまいます。
まことに爽快、痛快、大爆笑のストーリーです。
昨年、2018年年末にもテレビドラマとして制作されました。