【婚活 その8】オババvs詐欺師、直接対決! 敗者はだれ?
《オババ》私の姑、究極のディズニーオタク。結婚詐欺師から姪っ子を救うため奮闘中。
《叔母》ひとり娘をこよなく愛する優しすぎる叔母、娘の婚活に悩むオババの妹。
《優ちゃん》叔母のひとり娘。究極の箱入り娘。39歳で初恋、結婚詐欺問題が発生。
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「はじめまして」
男はオババと叔母を交互にみて、深く頭を下げました。
叔母のほうが優ちゃんの母であることを願ったでしょう。
それは、100人いて、101人が願う、至極まっとうな考え。
心配無用。オババの隣の優しげでチョロそうなほうが実の母親です。
てな目配せ、思わずしそうになって、詐欺師に肩入れしてしまったアメリッシュ。
だってな、私だってな、できることなら、叔母を姑にしたかった。
日々がどれほど平和であったか。ただ、もれなく優ちゃんがついてくるというリスクがありますが。
う〜ん、世界の中心で自分が愛されたい、今日この頃です。
「遠いところまで、わざわざ来てもらって、お仕事は大丈夫でしたか?」
仁王立ちで待っていたオババ、笑顔を作り天性の社交家に豹変しました。
「すごく良いお姑さんで、あなた幸せね」と私に告げる、トンデモない輩が時に存在します。
そうしたお花畑の人びとよ。それはオババの、この豹変した態度しか知らないからだ。みな、騙される、そして、理解もできない。この豪傑のほんとの底力を。
「今日は、その予定で切り上げたっす、じゃない、ました」
「食事の場所、カフェテリアにしたけど、よろしかったでしょうか?」
「うれしいです」
朴訥としていて、どこか好感が持てる男です。
全員でレストランへ移動しようとしたとき、優ちゃんの手を取ったのは叔母が先でした。さすが、これまで優ちゃんを世話していきた叔母、年季の違いをみせつけました。オババ、ヨシという顔で頷いています。
オババを先頭に優ちゃんと叔母、太郎、そして、しんがりは私です。
「背後から敵に襲われないよう、しんがりを務めよ」とのオババの指示であります。
意味がわかりません。
レストランの席についた途端、オババ、弾丸トーク炸裂させました。
「それで、あなた、どんなお仕事をしているの」
「仕事は百姓です」
「百姓? お一人で」
「はい。20年ほど前にオヤジとオフクロを亡くしたから、その土地で農業を続けるっきゃ、なかったです。だから高校を卒業できなかったス、あっ、です」
オババの豪速球を直球ストレートで投げ返してきました。
「高校を途中でやめたの」
「僕は中卒です」
優ちゃんと同じほど素直か? そうなのか? あるいは、新手の詐欺手口?
私、混乱しています。
「ご兄弟は?」
「いません」
「ご親戚は」
「つきあい、ないです」
オババの感嘆すべき性質は、言いにくいことをズバズバと聞く、ほとんどマニアックな性質です。どこでも井戸端会議にしてしまう。たとえ豪華なレストランだろうと、井戸を掘ってきます。ツルハシ、忘れません。掘って掘って掘りまくります。
「年収は」
うおっと、聞きにくいこと真っ正面から聞いた。
太郎、怒ってもいいぞ、私は許す。
「今年は、1000万より、ちょっと少ないです。だいたい、そんなものです」
ほへ?
「そう」
1000万円と聞いて、オババ、最初のいきおいが消えていきます。
これが詐欺師なら、随分とレアケースな職業を選択しています。
まあ、オレオレ詐欺も最近では、ずっと手が込んでいるという話もあり、騙されるわけにはいきませんが。
「太郎さんはね」と、優ちゃんが口を挟もうとすると、叔母が「ねえ、優ちゃん、何にするの?」と、メニューを差し出して遮りました。
「えーーと、わたしは・・・、うーーーん」
はじまったぁ、はじまっちまったぁ、優ちゃんのえーーと何も選べませんコース。だから、普段、叔母は優ちゃんにメニューを与えません。全部、叔母が決めてます。
優ちゃんがメニューで迷いはじめると止まらないからです。普通に迷うだけならいいのですが、そこは優ちゃん、どこまでも迷います。地球が終わっても迷っているでしょう。一種そこに迷いがありません。
オババは無視して攻撃を続けています。
どれだけ太郎、耐えきれるだろうか?
詐欺師でないとすれば、太郎、この家族も引き受ける度胸があんのか?
「それで、優子とのこと、どう考えらっしゃるのでしょうか。この子は、見ての通り、とても、そのね。あれでしょ」
おや、言い淀んでます。
「僕は、結婚を前提におつきあいしたいと思ってます」
ワォ!
メニューを前に素直に迷っている、この子よ。この子を嫁にって、どんだけすごいことか、わかってるのか?
て、あれ?
結婚詐欺師じゃないの?
「はっきり申し上げます。私どもは、とても不安に思っているんです」
「わかります。僕は孤児です。大学も出ていません。しかし、ずっと働いてきて貯金はあります。今、農業もネットワーク化されてきて、収入も増えました。大学を出てはいませんが、優ちゃんを養うくらいは稼いでいます」
立派です。緊張気味で、少し額に汗が浮かんでいますが、真摯にうったえる口調に嘘はないようです。
詐欺師とは普通なら疑わないでしょう。しかし、相手は優ちゃん。なぜ、優ちゃんというところで詐欺師かと疑うのです。
「それにしても、なぜ、この子でしょうか」
「おばさん、それ、どういうこと?」と素直に優ちゃんが聞きます。
「アメリッシュ、背後の敵!」
オババ、それ、なんの暗号。
と、オババがハリソン・フォードに似た例の唇の左端を、これ見よがしにあげています。
へ?
わからない。全くわからない。背後の敵?
オババの視線が、ゆっくりと優ちゃんに向かいます。
ああ、な、なるほど。
私、バッグからスマホを取り出して、イアホンを装備しました。
「優ちゃん。ほら、山Pが新曲だしたの、聞いてみない?」と言いながら強引に耳にイアホンを突っ込みました。
優ちゃん、驚いた表情を浮かべましたが、そのまま聞いてます。
根っから素直な子なんです。
「で、この子のどこがいいの? はっきり申し上げますが家事一切できない子ですよ」
「僕は、ずっと一人でやってきたんで、心配ないです。僕がやります」
「一人にしておくと、とんでもないことします、おそらく、あなたの想像以上です」
「どうせ、田舎の一軒家です。なにをしようが問題ないっす」
「農家の嫁って、大変なんでしょ」
「それは、僕も近所の人に世話になりました。だから、都会に比べれば近所付き合いも多いです。今日も、いつもと違う格好してたら、隣のおばちゃんがどうしたのって聞いてくるようなところです」
「この子には、それは務まりません」
「務める必要はないです。それに、優ちゃんならみんなに好かれます」
おお、鉄壁の攻めに鉄壁の防御。
「それよりも、こんな僕でもいいんでしょうか?」
え? いきなりの反撃。さすがのオババも、つんのめっています。
「僕は中卒で、大学出のお嬢さんを嫁さんなんて、不釣り合いはわかっているつもりです。優子さんは僕より年上ですが、本当にかわいい人です。写真をネットでみて、一目惚れしました。僕には家族がいません。暖かい家庭が欲しいと、心底から思っています。でも普通の結婚相談所にも行っても、孤児で中卒で農家で、なかなか交際にはいかなかったです」と、こんな内容を一息ではなく、訥々と彼は話した。
「優子さんは、そういうことを全く気にせず、僕のことが好きだと言ってくれました。嬉しかったです」
優ちやああああん。
こんな大事なときに、山P鼻歌で良いのか?って。
私がイアフォン突っ込んだんだけど。
オババ、珍しく口を挟みません。
こちら側陣営、全員、言葉を失っています。
「うちの畑で採れた大根はレストランの直契約をしているので、季節に左右されずに、収入は確保しています。優子さんを大切にします。結婚を前提にお付き合いをさせてください」
太郎は椅子から立ち上がると、折れ曲がらんばかりに頭を下げた。
その瞬間。私は気づいてしまった。
気づいてしまったのだ。
頭を下げている太郎の手。それは労働者の手でした。高校の頃から畑で必死に働き、自活してきた男の手でした。どれだけ洗っても取りきれない、黒い泥が割れた爪の間に黒ずみを作っています。
山Pを聞いていた優ちゃんがにっこりして、イアホンを耳から外すと、立ち上がりました。
彼の隣に立つと、一緒に頭を下げます。
二人は頭を下げながら、お互いの顔を確認して、それから、優しげに微笑みあいました。
愛し合っています。
天然記念物指定が必要になるかもしれない絶滅危惧種たちです。
そうか、これは・・・
月9なんだ。2時間サスペンスドラマではなかった。船越英一郎はでてこない。
その瞬間。
まさに、その瞬間でした。なんとも奇妙な声がレストランに響き渡りました。
最初は何なのかわかりませんでした。
叔母の口から、奇妙な悲鳴に近い高音が発せられたのです。
よく聞くと
「ダメ! ダメ、ダメェーーー!!」
と、それは叫んでいるように聞こえました。
その声の悲痛さと、それから不気味さに、その場の全員が凍りつきました。
やはり、船越英一郎の出番か・・・。
to be continued
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【独身者データ 2018年】
20歳〜24歳 女性91.3% 男性95%
25歳〜29歳 女性61.3% 男性72.7%
30歳〜34歳 女性34.6% 男性47.0%
35歳〜39歳 女性23.8% 男性35%
【雑な分析】
24歳前は既婚者が希です。25歳すぎから特に女性の既婚者が増えてきます。結婚のターニングポイントは30歳。男女とも、そこで独身者と既婚者が逆転します。
39歳以降まで独身ですと、そのままに独身傾向に拍車をかけそうです。40歳からは生殖の限界という課題が、リアルな現実になるからでしょうか。結婚を望むなら、30歳が一つの転機と言えるかもしれません。