【読書感想】督促OL 指導日記 ストレスフルな職場を生き抜く術 ☆☆☆☆ - 琥珀色の戯言

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【読書感想】督促OL 指導日記 ストレスフルな職場を生き抜く術 ☆☆☆☆

内容紹介
「お客さま、発言が自由すぎます!」気弱なOLが活躍する、シリーズ累計17万部突破の第3弾! 〈4コマ漫画多数収録のエッセイ本〉

日本一過酷な職場・督促コールセンターの新人OLが、数年後、オペーレータたちを
束ねる監督者へ昇格。でも今度は、部下の指導に頭がイタイ!?

持ち前の明るさで独自のノウハウを生み出し、短所を克服して仕事を武器に変えてしまう大人気督促OLシリーズ第3弾。

知られざるコールセンターの世界の実態を、おなじみ4コママンガとエッセイで読みやすく綴ったのが本書です。
クレーム対応のスペシャリストが、ツラい仕事を逆手にとって楽しくする秘訣、教えます!!

文庫版増補として、「変わっていくコールセンター」についての秘話を追加追録!

〈大人気シリーズ好評既刊〉
第1弾『督促OL修行日記』、第2弾『督促OL奮闘日記』


 僕は電話をかけるのも受けるのもすごく苦手なので、自分がコールセンターで働く、というのは想像しがたいところがあります(著者も、この仕事をはじめる前は、人とうまく話すことができない「コミュ障」だった、と仰っているのですが)。
 知り合いに、学費を稼ぐためにコールセンターで働いていた人がいて、彼女によると、「ときどき男性からのセクハラ的な電話もかかってくるけれど、そんなにヘンな人ばかりじゃないし、お金を稼ぐ手段と割り切れれば、そんなに悪くない仕事ですよ」とのことでした。

 こんなにも多種多様な人が集まるのも、コールセンターがどんな人でも受け入れている、懐の深い職場だからかもしれません。
 コールセンターは経験がなくても応募ができて、一般的に時給が事務や販売/接客業よりも高めに設定されています。また、シフト制のため勤務時間にある程度融通がきくようになっています。
 このため、離婚したてのシングルマザーや突然のリストラによって職を失ってしまった中年サラリーマンを一時受け入れる場所になったり、夢を追いかけるバンドマンや売れていないお笑い芸人、デビューしたての俳優、アイドル、昼間だけ働きたい主婦まで、ありとあらゆる人々が働いています。なかなかここまで多種多様な人を受け入れてくれる職場もないのではないでしょうか。

 私の働いていたコールセンターでも、夢を追いかけながらオペレーターを続け、有名になった人たちがいました。
 非正規雇用の仕事は、「夢を追う若者の労働力を搾取している」と批判されることもありますが、”持ちつ持たれつの関係”と割り切れるのであればよいのではないかと私は思います。


 コールセンターというのは、マニュアルに従って人と話すスキルと、クレームを受けつづけてもめげない精神力があれば、特別な資格は必要ない仕事で、人手不足なので比較的給料が高く、服装や働く時間も自由がきくことが多い職場なのです。
 

fujipon.hatenadiary.com


 この本に書かれているように、海外のコールセンターで働いている日本人も少なからずいますし、「人件費や設備投資額を安くできる地方や外国にコールセンターを置く」というのが最近の傾向になっているのです。

 その一方で、やはり「顔も見えない相手から、ひどい言葉を立て続けに浴びせられて、言い返すこともできない」という「感情労働」は、けっこうきついものでもあるんですよね。

 実店舗を持たない(あるいは、実店舗の数が極めて少ない)ネット通販会社も多いので、メールでの問い合わせが苦手な高齢者などにとっては、コールセンターが店のサービスセンターとしての役割を果たしていることも多いそうです。

 

 また、これは少しセンシティブな問題ではありますが、コールセンターでは認知症のお客様からのクレームも問題になっています。
 
 とある通販のコールセンターに、高齢のお客様から「商品が届かない!!」と電話がかかってきました。しかし、オペレータがいくら確認しても、そのお客様からの注文履歴はありません。受け答えがかみ合わないところがあることが気になりつつも、オペレータは何かのミスでデータが確認できないのかもしれないと考え、必死で調査を続けました。
 結局、管理者も巻き込み、コールセンター総出で数時間にわたって対応したのですが、最後まで原因はわからずじまいで、ひたすら謝罪しその日は電話を終えたそうです。
 ところが後日、ご家族からの連絡でそのお客様が認知症になってしまい、さまざまなコールセンターにクレームの電話をしていたことがわかったのです。こうした電話もまた、コールセンターで増えているのです。

 これから、高齢化はますます進みます。コールセンターのシニア対応問題は喫緊の課題なのです。


 認知症の高齢者が、みんなすぐにそれとわかるような言動をみせるのであれば、まだ対策は立てやすいと思うのですが、中には、「言葉も話す内容もちゃんとしているように聞こえるのに、実際は妄想に従って行動している」という事例も少なからずあるのです。
 これから、高齢者の割合はどんどん増えていくわけですから、コールセンターにとっても大きな課題ですよね。
 世の中には、そういう「ちょっと話しただけでは、しっかりしていそうな認知症の高齢者」に不要なものを売りつけて稼いでいる連中もいるのだよなあ。
 
 ちなみに「常にクレームにさらされ続けなければならない」というイメージのコールセンターなのですが、扱っている商品によっては、穏やかなお客さんが多くて、ストレスが少ないところもあり、ほとんど電話がかかってこない、平和なセンターもあるそうです。
 後者は、さすがに長くはその仕事が続かなかった、とのことですが。

 相手は「お客様」だから、何を言われても言い返したり、電話を切ったりしてはいけない、というコールセンターの「鉄の掟」は、時代とともに変わりつつあるようです。

 例えば、とある保険会社のコールセンターでは、何度もクレーム電話をかけてくる顧客に対しては会社で契約をしている弁護士へ対応を委任することにしました。そうした弁護士対応案件になっている顧客からコールセンターに電話が入った場合、オペレーターは即座に「〇〇弁護士にお任せしているので、弁護士へ連絡してください」と電話を切ることができます。弁護士対応を導入することによって、今までのように何時間も怒鳴られることが無くなり、オペレータはその時間を通常の業務に充てられるようになりました。もちろん罵詈雑言を浴びせられ、精神的な負荷を負うことも軽減されました。

 近年は「カスタマーハラスメント」という言葉もよく聞くようになりました。顧客の理不尽な要求に対応しよう、という流れが出てきています。それは少しずつではありますが、コールセンターにも広まっています。


 代表的な「感情労働」とされているコールセンターの仕事も、変わりつつあるのです。
 コールセンター側としても、人手が足りないなかで、スキルが高いスタッフに長く働いてもらうことを重視しています。

 自分は客なのだから、クレームなのだから、何を言ってもいい、という時代ではなくなってきているのです。
 それは、人と人との関係として考えれば、「正常化」されつつある、ということなんですよね、きっと。

 

督促OL 修行日記 (文春文庫)

督促OL 修行日記 (文春文庫)

 

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