【読書感想】週刊誌がなくなる日 - 「紙」が消える時代のダマされない情報術 - ☆☆☆ - 琥珀色の戯言

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【読書感想】週刊誌がなくなる日 - 「紙」が消える時代のダマされない情報術 - ☆☆☆


コンビニから雑誌コーナーがなくなり、都内の書店も減少傾向にある現在。スマホで誰もがニュースや新聞を読める中、紙の週刊誌は消滅の危機にある。電子書籍化、ウェブサイト化も進んでいるが、勝ち組・負け組の格差は広がるばかり。メディア戦国時代をどう生き抜くか。読者はどう効率的に情報を収集すべきか。元『プレジデント』最年少編集長が解説するメディアの現在と未来。


○内容より
第一章:メディアの最前線で何が起きているか
第二章:紙のメディアは5年で消える
第三章:儲かるメディア、死ぬメディア
第四章:デジタル化で起きる大問題
第五章:メディアを使い倒せば情報強者になれる


 著者は『プレジデント』の編集長に最年少で就いた方ということです(現在は独立されています)。
 僕はこの新書のタイトルをみて、「デジタル時代の週刊誌の生存戦略」が現場での経験を活かして語られているものだと思って購入したのです。
 
 たしかに、「紙の雑誌が置かれた現状と、今後の衰退予想」が前半では触れられています。
 著者は、「はじめに」のなかで、紙とオンラインのメディア(ニュース)の共通点とともに、同じ「ニュース」を扱っているにもかかわらず、メディアとしての文化や読者への影響が大きく変わってきていることを指摘しています。

 その社会の大変革の理由は、大きく3つある。
 1つ目は、オンラインニュースの特性の問題。あまりに効率のいい情報伝達をしてしまうために、質の劣る情報が一部の国民のコンセンサス(合意)を得てしまう点だ。
 2つ目は、オンラインニュースをつくるメディアの問題。オンラインニュースは、ほとんどが無料であり、広告依存で成り立っている。オンライン広告の売上は上がっているものの、紙の売上の落ち込みをカバーできていないため、メディアが健全な編集体制を維持できない点だ。
 3つ目は、読者に与える問題だ。デジタル化が進むことで、知りたいと思う情報が瞬時に手に入るようになった。翻訳機能の進化は明らかなメリットだ。その一方で、スマホ依存などの社会問題も生まれるようになった。


 ネットでのニュース配信の影響力が大きくなり、紙の雑誌が売れなくなり、広告も減ってくることによって、紙の雑誌の部数がどんどん減ってきているデータも紹介されています。
 
 コンビニの雑誌コーナーにはどんどん隙間が目立つようになってきているし、以前は月に10冊以上紙の雑誌を買っていた僕も、今年に入ってからは、付録が欲しくて買った新製品情報誌を2冊買った記憶があるくらいです。
 その情報誌も、目を通してみると、「詳しくはWEBで!」みたいな記事がたくさんあって、これはもう、紙の雑誌はダメだな、と思いました。
 それなら最初からWEBで見るよ、と。


 紙の雑誌がコンビニの総売上の1%しかない時代であるにもかかわらず、コンビニの雑誌コーナーは「ついで買い」などを期待してなんとか維持されている状態です。それでも、出版社では、まだ、「オンラインの編集長よりも、紙の雑誌の編集長のほうが格上の役職」なのだそうです。

 読者が「オンラインファースト」になってから、もう10年くらいになると思うのですが(東日本大震災でのSNSでの情報共有は、良くも悪くもネットの優位性を確立する出来事でした)、メディアの側は、その変化にうまく適応しきれていないのです。

 この本で興味深かったのは、巨大な影響力を持つ「ヤフーニュース」を「掲載してもらう側」から分析しているところでした。

 著者の取材によると、ヤフー内での1PV(ページビュー)あたりの単価(推定)は、(新聞の)全国紙で0.21円、有力紙で0.1円、週刊誌では0.025円だそうです。ちなみに、自社サイトで読んでもらえれば、1PVあたり、1億PVまでの大手出版社では1円、1~2億PVでは0.25~1円。2億PV以上では0.25円、一般メディアでは0.25円になるのだとか。

 ヤフーも大手メディアに対しては、それなりに優遇してはいるものの、それでも、100万PVで20万円、というのは、たしかにちゃんと取材をした記事の対価としては安いですよね。週刊誌では、その10分の1で、100万PVを達成しても、わずか2万円。そうなると、「よりスキャンダラスで、話題になりやすい記事」や「テレビ番組で有名人がこう言った、というような手間がかからない割には読んでもらいやすい記事」が多くなってくるのです。出版社の人たちだって、食べていかなければならないのだから。
 ぼろ儲けするというよりは、メディアでの雇用や、そこで働いている人たちの生活を維持しようとすると、PV至上主義にならざるをえないので、「タイトルで釣るメディア」が乱立していくのもやむを得ない面があるのです。読む側からすれば「何これ……」と失望することばかりなのですが。

 出版社としては、自社サイトで読んでもらえればかなり収益は改善されますが、サブスクリプションで定額読み放題にしても、経済誌などの一部のジャンルを除けば、お金を払ってまでみてくれるユーザーは、少ないのです。
 クレジットカードを登録する手間もありますし、「定額読み放題」でも、あるメディアの記事ばかりを読まなくても、ヤフーニュースで話題になっているトップ記事とその関連記事の無料分を読むだけでお腹いっぱい、ではありますよね。

 無料のオンラインニュースサイトで、きちんとした収益を上げる。あるいは、存在感を出すには、実に月間平均1億PVが必要といわれている。「月間1億PVをコンスタントに出さないと、マス広告の主要プレイヤーと見なされない」(大手広告代理店のインターネット広告関係者)とされているが、1つのサイトで、月間1億PVを出すのは相当額の投資と、ある条件が必須となる。
 その、ある条件では、提携するための審査が厳しいことで知られるヤフーニュースとの提携のことだ。前章でも紹介したように、ヤフーニュースは、月間230億PV(2021年8月)を誇る日本最大のニュース配信サービスだが、記事を配信して得られるPV単価ははっきり言って安い。各メディアは、収益については目をつぶってヤフーニュースに記事を提供し、その記事からの自社サイトへのPV誘導を狙っているのだ。
 無料オンラインメディアの雄である「文春オンライン」でさえ、月間約6億PV(同月)であることから、月間230億PVを誇るヤフーニュースが、ズバ抜けて圧倒的な存在であることがわかるはずだ。
 GoogleアドセンスがPVに応じて課金されるので、Googleアドセンスの広告収入に依存する無料ニュースメディアは、総PV数を増やすことが至上命題となる。


 記事を配信する側のメディアの責任者として、こういう数字と向き合ってきた話は、すごく面白いんですよ。
 僕自身もこうしてネットに長い間書いているのですが、「月間1億PV」とか想像もつかない世界です。
 『週刊文春』は、ネットでもさまざまなスクープを拡散していますが、それだけでは十分な収益にはならず、自サイトで有料記事を販売しています。
 紙の雑誌としても、今の時代に大健闘している『週刊文春』でさえ、ぼろ儲け、には程遠いのです。
 あれだけ取材するには、当然ながら、人手もお金もかかっているでしょうし。


fujipon.hatenadiary.com


 この本、後半は「日本人の読解力低下問題」が主題になっていて、メディアリテラシーの磨き方、とか、新井紀子さんの『AI VS 教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新聞社)の焼き直しみたいな話が延々と続くのです。
 

fujipon.hatenadiary.com


 読解力をつけるためには、本や新聞を読んだほうがいい、それも、紙で。

 新井紀子さんの著書も読んできた僕にとっては、「紙の週刊誌の最前線にいた人の、現在の雑誌業界の話」を期待していたのに、もうさんざん聞かされた「子どもの読解力」のことを繰り返されてもなあ……

 僕はメディアの発信側に興味があってこの本を買ったのに。
 舞台を観に行ったら、いつのまにか役者が客席に降りてきて、観客に説教をはじめて困惑した、という読後感だったことを告白しておきます。

 僕の実感としては、「もうこれからの子どもたちが、紙ファーストに戻ることはありえない」なんですよ。紙の本の手ざわりや重みを愛する人たちが絶滅することはないだろうけれど、時計の針は戻せないし、「ネットメディアやオンライン配信がメインになっていく世界になることを前提にした議論」をすべきです。

 「紙の本や新聞、雑誌を読んでネットリテラシーを磨く」というのは、現代人に洗濯板の利点や使い方を教えるようなものだと思います。


fujipon.hatenablog.com

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