- 作者: 丸山ゴンザレス
- 出版社/メーカー: 光文社
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内容紹介
人が人を殺す理由は何なのか――。著者は世界中の危険地帯の取材を続ける中で、日本人の常識とは相容れない考え方に出会ってきた。仕事だから作業のように人を殺す、金持ちからは奪ってもよい、縄張りに入った奴はすべて排除する。そんな、教科書には決して載らない「危険思想」を体を張って体系化。悪いやつらの頭の中に迫る! 『クレイジージャーニー』(TBS系)で注目の危険地帯ジャーナリストによる決死の取材レポート。
『クレイジージャーニー』で丸山さんが取材している人たちをみると、世の中には本当にいろんな人がいるものだと痛感するのです。
丸山さん自身も、外見は、僕だったら近くにいたら目を合わせないようにするくらいのコワモテではありますが。
この本、丸山さんが取材してきた、「世界の危険思想」、もっとひらたく言えば「他人を殺す人の頭の中」について考察したものです。
この本のタイトルをみて、これはオウム真理教のようなカルト宗教が「ポア」と称して人を殺したり、『あさま山荘事件』を起こした連合赤軍が「総括」と称して造反者(とみなした者たち)に暴力をふるって死に至らせたり、という「人を殺すことを正当化する宗教や思想」について書かれたものだと僕は思ったのです。
ところが、読んでみると、この本に出てくる人たちが「人を殺す理由」というのは、そんな「カルトに洗脳された」というよりも、自分が生きるための一手段だったり、彼らの生きている世界での命の価値が低かったり、という、「信仰や大義、なんていう大げさなものではない」ことに驚かされるのです。
結果的にわかったのは、依頼者と実行者という二つの存在が噛み合ったときに殺人が発生するということだ。
世の中で起きている殺人の多くは依頼と実行という二つの作業を一人で実行する。だからそのハードルは高くけわしいのだ。
誰の心にでも巣食うネガティブな感情。それは世界中の誰しもが持ちうるものだ。抑えきれない感情を抱えてストレスに苛まれるのが普通だろう。その感情は単純なものである。そして、時間がたてば消え去るものでもある。この感情を私は、水が自然に蒸発していくようなイメージで捉えている。
なかには蒸発しない人もいる。それどころか醸成され、ドロドロの粘液に変化していく。それこそが殺意であり、殺し屋へのアプローチにつながるのだ。
第三者への依頼というのは、罪の意識が低い。実行するためのプロセスで冷静になることもない。自分は結果だけを受け取り、被害者の苦しみをダイレクトに感じることもない。
簡単に「外注」できれば、頼む側も、実行する側も、殺すことへのハードルはかなり下がる、ということなのです。
「依頼と実行を同じ人間がやらなければならないと、ハードルが上がる」というのは、確かにそうなのだろうな、と。
「命の値段」というのも、その人が生きている場所によって、まったく違ってくるのです。
フィリピンでは、交通事故で人が死んだときの賠償金は10万ペソ(約22万円)で済むそうです。
相手が高級車に乗っていた場合、その修理費を払うことのほうが怖いのだとか。
さらに、相手が瀕死の重傷で、長期の療養を要しそうだったり、ひどい後遺症が予測される場合には、「むしろ、死んでくれたほうが安上がりだから」と、重体の相手をひき殺して、とどめを刺す、なんてことも起こるのです。
なんてひどい話なんだ、賠償金がたったの22万円っていうのも安すぎるだろ……と思うのだけれど、日本人がそれを「説明・説得」しようとしても、すぐにフィリピンの社会が受け入れて、変わることはありません。
むしろ、「カルト宗教の洗脳」とかいう、その社会の常識からかけ離れた背景があれば、そこから抜け出す方法だって、あるのかもしれません。
裏社会を見る側も、頭の中を論理的にしてしまうと、混乱してしまう。犯罪を生業とする連中や、そこで起きていることは、それほどカタギ社会の価値観では非論理的なのだ。
最後にこうした裏社会でありがちなことだが、もっとも恐ろしいのは、彼らが思考停止状態にあることだろう。「なぜ争っているのかわからない。上の世代が争っていたから自分たちも抗争する」。ロサンゼルスのフロレンシア13というグループに所属していたギャングが言っていたことだ。
彼らの行動原理の根本を探っていくと、このように「何もない」ということも珍しくない。そのこと自体、彼ら自身が一番よくわかっている。だから、そこを深く追求することはしないのだ。そうなると現状を打破するとか、ギャングの一掃など簡単にできることではないというのがよくわかるだろう。当事者たちですらわかっていないのだから。
そこに「理屈」がなく、「ずっとやってきたから」「伝統だから」と続けてきたことを「説得してやめさせる」のは、かえって難しいのです。
はっきりした理由があれば、それを解決するなり、問題点を指摘することができるのかもしれないけれども。
彼ら自身も、そういう「今までやってきたことを疑う習慣」を持たずに生きてきて、「自分は悪いことをやってきた」と認めるような理屈に与するのは、気持ちの良いことではないでしょうし。
『ファクトフルネス』という本で紹介されているデータによると、それでも世界は全体的には豊かになり、犯罪も減ってきているのです。
それも、かなり明確に。
とはいえ、現代の日本人の常識が、世界標準というわけではありません。
極論すれば、危ない目にあいたくなければ、近づかないのが無難だよなあ、と考えずにはいられないのです。
丸山さんは、それでも好奇心がおさえられずに取材を続けている、と仰っています。
ここまでの「断絶」があると、インターネット社会でも、異なる背景を持つ人と人がわかりあうのは難しい。
そして、みんな基本的には「自分のほうが正しい」と思っている(僕もそうです)。
こういう「違い」も、グローバル化とともに、いつか「平準化」されていくのでしょうか。
結局は「正しさの個人差」までは埋められないのだろうな……
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