- 作者: 安田峰俊
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2019/05/20
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内容(「BOOK」データベースより)
高度経済成長とともに爆発的に花開きつつある中国のセックス文化。巨大売春地帯の興亡、SNS不倫、ハイテク系の若き頭脳が開発にしのぎを削るAIラブドール…。一方で、14億人民の根源的な性行動と生殖行為さえ管理を企む共産党。真の中国はここから見えてくる!
いま、中国の「性」はどうなっているのか?
読みながら感じたのは、どこの国でも、経済的に豊かになってくると、性に関する文化というのは爛熟するものなのだな、ということでした。
中国人のセックス充実度は収入と完全に比例しているらしく、月収5万元(約80万円)以上の層の「週1回以上」率が73%に対して、月収2000元(約3万2000元)以下の層は38%と、相対的に低い数字にとどまる。富裕層のほうが部屋やクルマを準備しやすい、不労所得で儲けており時間に余裕が生まれやすい、中国では日本以上に男女関係にカネが絡みやすい、そもそもお金がある人ほどカネで簡単に性を買える……といった、さまざまな条件に恵まれているがゆえの数字だと思われる。
そのほか、コンドームを含めたアダルト用品の購買者は、大卒以上の学歴を持つ既婚男性が多くを占めたという結果もある。中国における性の悦びは、金持ちやインテリにこそ許された娯楽とも言えるのだ。対して、中国では貧困層を中心に一生結婚できない男性(「光棍」)が3000万人以上もいるとされるので、夜の世界も格差社会である。
中国は、13年前には性的満足度が世界ワースト1位だったのですが、1980年代生まれ以後の世代が社会の中心になるにつれて、急激に活発になってきているのだそうです。
スマートフォンの普及で、不倫や売春もやりやすくなり、アダルトグッズの「出前」もスマートフォン経由で簡単にできるようになっているのだとか。
その一方で、「持たざるもの」は、一生結婚することができない、「性的格差社会」でもあります。
一人っ子政策で、男女比が歪んでしまった影響で、結婚できない男性が大勢いるのです。
日本も、性的な文化に関しては、世界的に「変態(hentai)」なんて言葉が知られているように、爛熟した国だと海外からはみられているようですが、中国は、政治や経済の情勢にともなって、タガが外れたり、取り締まりが厳しくなったり、が繰り返されてきました。
社会主義国家である中国では、タテマエ上は売買春はご法度だ。しかし、とくに天安門事件後の1990年代は人民の統治が極端に緩み、民主化の要求や共産党体制への反対といった政治的な抵抗運動さえ行わなければ、窃盗や少額の詐欺・売買春のような些細な悪事は極めていいかげんな取り締まりしかされない時代であった。
ことに広東省は、他の地域の中国人からも恐れられるほどのアナーキーな場所になった。
「昔の会社が広州の外れの永和経済開発区という場所にありましたが、1990年代後半ごろまで、かなりヤバかったですよ。強盗のような荒っぽい犯罪者が多いため、公安(警察)がすぐにマシンガンを撃つ。会社で仕事をしていると、外からタタタタタンと銃声が聞こえてくる。違法薬物も野放しで、氷毒(覚せい剤の一種)が当たり前のように流通していました」
そう話すのは、1996年から広東省で働いている、東莞市在住の経営者・佐近宏樹さんだ。当時の売春事情についても、彼はこう話す。
「公園のなかに『カラオケ』と称する小屋があり、そのなかに若い女性がいて客を取っていました。また、市民が家族連れで行くような映画館や劇場でも、場内に女性がいて、男性がお金を払うと『手』で処理をおこなった。ほとんどのホテルでは男性が一人で宿泊すると間髪入れずに部屋の電話が鳴り、売春を持ちかけられた。宿泊中は常に電話が鳴り続けてうるさいので、部屋に入ったらまずは電話線を引っこ抜かなくてはいけませんでした」
これは特別な話ではない。往年の広東省では、男性が一人で街を歩いていればタクシーの車内での性的なサービスを持ちかける陪的小姐(タクシーは広東語で「的士」と言う)に遭遇し、街のあちこちで拉皮帯(ポン引き)や站街女(立ちんぼ)に声をかけられた。さらに、海に行けば一緒に泳ぐことを名目に売春を持ちかける陪泳小姐、山に登ればガイドを名目にやはり売春を持ちかける導遊小姐……と、陸・海・空(山)のあらゆる場所で売春行為が身近だった。他にもネットカフェで操作を教える名目で売春をおこなう女性、茶館と呼ばれる中国式の喫茶店の個室で「接客」を行う女性などもいたとされる。
僕はこれを読みながら、あまりのすさまじさに笑ってしまいました。なんて落ち着かない街なんだ!
もちろん、訪れる男性も、そのつもりの人が多かったのでしょうけど、ここまでとなると、正気ではいられなくなりそうです。
ただ、こういう「なんでもあり」だった東莞市も、いまはすっかり「浄化」されて、かつての「性都」の面影はホテルの部屋のつくりなどに残っているだけ、とのことです。
経済発展にともなって、地権者たちが風俗店を入居させるよりも土地を転用することを選ぶようになり、広州や深センで大規模な国際イベントが行われるようになったことで、当局の取り締まりも厳しくなったのです。
2006年11月には、深センの「三沙」で大規模な取り締まりがおこなわれ、香港人日人を含む買春客の男性が逮捕されたほか、多数のセックスワーカーの女性を含めた関係者ら約200人が黄色い服を着せられて市中引き回しの刑に遭う事件も起きている(なお、中国で「黄色」は、エロを意味する色である)。
2000年代になっても中国では「市中引き回しの刑」が行われていたということに驚かされるのですけどね。
ネットで活躍しているラブドール愛好家の家に泊まったときの話や(彼は趣味にだけはお金をかけていて、その他は極めて質素な生活をしていたそうです)、中国でのLGBT事情なども紹介されているのですが、読んでいて感じたのは、「いまの中国の若者というのは、人口の多さとか『家』についての根強い意識はあるけれど、性的な文化や多様性に関して、日本とほとんど変わらないところまできている」ということでした。
多くの日本人が抱いているイメージよりもずっと、いまの中国は、「普通の国」になっているのです。
それにしても、なぜ中国でこれほど多様なアダルトグッズ産業が花開いたのだろうか。
もともと、中国では計画生育政策が採られていたこともあって、アダルトグッズは妊娠の抑制を建前とする形をとって、社会で流通してきた。ゆえに一昔前までは「性健康用品」や「性保健用品」といった名前で呼ばれる例が多かった。
中国のビジネス系シンクタンク『iiMedia』がウェブ上に発表したアダルトグッズ業界レポート(2018年5月18日付)によると、それでも1993~2000年ごろまでは当局がまだ保守的で、表向きはアダルトグッズの生産を国家が管理する方針を打ち出していたようだが、21世紀にはいってからは市場の自由化が進んでいったという。
中国には、中国の事情がある、ということなのです。
「一人っ子政策」が事実上なくなっても、子どもの数が激増することがないほど、いまの中国は「先進国化」してきています。
そして、この莫大な人口を抱える国が、急激に高齢化していったらどうなるのか、不安も大きいのです。
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