- 作者: 物江潤
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/05/15
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
- 作者: 物江潤
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2019/05/24
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内容(「BOOK」データベースより)
「すべて中韓の陰謀だ」「いや諸悪の根源は現政権だ」―無知に気付かず、自らの正義を疑わず、対話を拒否し、ひたすら他者を攻撃する。ネット上で日常的な光景となった罵り合いの主役が、ネトウヨとパヨクだ。時に世論をも動かす彼らの影響は、今や中高生にまで及びつつある。眩暈のするようなおかしな論理や、無尽蔵のエネルギーはどこから生まれるのか。行動原理や心理を読み解き、建設的な議論への道を探る。
ネトウヨ(ネット右翼)って、けっこう前から使われていた言葉だと思うのですが、「パヨク」のほうは、けっこう最近よく耳にするようになりました。「パヨク」というのは、「インターネット上で左翼的な発言をする人」をバカにしているのはわかるのですが、この「パ」は、どこからやってきたのだろうか。
少し調べてみたのですが、よくわかりませんでした。
著者は元電力会社社員で、松下政経塾で学び、2011年に起きた東日本大震災にともなう原発事故の2年後に、福島県いわき市に移住し、被災地の現状を知るためのフィールドワークを開始したそうです。
そんななかで、エネルギー問題や外交について、左右ともに極端な意見を持つ人たちと揉めることが少なからずあり、これらのネット言論が社会に与える影響について、不安視するようになったのです。
最近ではパヨクという言葉は、あまりに幅広い対象に使われています。リベラルを自称しながら言っていることが支離滅裂な人々はもちろんのこと、国民民主党や立憲民主党といった政党全体を指す場合もありますし、最近だと自民党の石破茂氏にさえ使われるケースがあります。安倍首相と対立する形で自民党総裁選に出馬したことが原因だと思われますが、タカ派と見られがちな石破氏もパヨクと名指しされてしまうことに、困惑せずにはいられません。
要するに、ネトウヨと呼ばれる人たちにとって気に食わない存在は、いつでもパヨクとして名指しされる可能性があるわけです。現在のネトウヨの多くは安倍首相を支持していますので、その安倍首相と敵対していると認識した彼らが、石破氏をパヨクとして認定したのも自然な流れかもしれません。私自身、フィールドワークのためネット上で様々な人々と対話を試みましたが、幾度となくパヨクだとレッテルを貼られてしまいました。
以上のように、もはや誰に対しても使われていまうパヨクという言葉ですが、とりあえずパヨクのことを、ネトウヨと対立する側を指す悪口と仮置きしたいと思います。
「パヨク」という言葉に厳密な定義はなく(それは「ネトウヨ」も同じです)、お互いが、自分が敵と認定した相手に対する別称として、「パヨク」「ネトウヨ」とレッテルを貼って言い争っている、というのが現状なのです。
言い争っている、というか、両者には対話がほとんど成り立たってもいません。
著者は、「パヨク」と「ネトウヨ」について、こう述べています。
彼らが自称する保守やリベラルは思想的(政治的)立場であって、それ自体は何ら批判されるべきものではないはずです。当然ですが、どちらの立場にも良い面と悪い面があるのです。
では、「保守・リベラル」と「ネトウヨ・パヨク」をどのように区別すべきか。簡単に言えば、対話可能かどうかで分類してしまえば良いというのが私の考えです。つまり。対話不能であれば後者と認識されても仕方がないということです。
逆に言えば、「対話可能であればネトウヨやパヨクではない」ということです。そして対話可能かどうかは、議論のルールを守れるかどうかで判定できると思います。
著者は、ドイツの哲学者の思想などを紹介しつつ、「議論のルールとはどういうものか」を考えているのですが、著者がネットで絡まれた事例を読んでいると、「はたして、こういう人たち(『ネトウヨ』や『パヨク』)との対話を試みることに意味はあるのだろうか?」と思わずにはいられません。いや、意味はゼロではないかもしれないけれど、人生には限りがあるし、対話というのは、相手にもその意思がなければ、成り立つものではありません。
罵り合いと見出しをつけてしまいましたが、大抵の場合、この表現は正確ではありません。というのも、各島宇宙の人々が仲間内で一方的に罵っているケースが大概だからです。相手がいないなか一方的に罵るのですから、相手を馬鹿にできる端的な具体例がよく用いられます。
たとえば、削除基準に抗議をするため「I am a Japanese general adult man」と、米国のYouTuneにメッセージを送ってしまった人は徹底的に馬鹿にされました。この人はおそらく「私は普通の日本人の大人です」と書きたかったのだと推測しますが、ネトウヨを批判する側からは「私は日本のアダルトマン将軍」としか訳せないだろうと指摘を受けてしまったのです。語感がユニークであったためか、アダルトマン将軍は瞬く間に流行しました。
アダルトマン将軍は、ネトウヨに嫌悪感を示す人々からすれば、格好の攻撃材料でした。こうした攻撃材料は、まとめサイトニコニコ動画といったものに再編集されることで、更なる罵倒を生みます。ニコニコ動画は、YouTubeと同様の動画サイトです。大きく異なる点は、コメントを打ち込むと動画内にそのコメントが流れる仕組みになっていることです。もちろん、ネトウヨを罵倒するコメントが流れました。
また、パヨクを批判する側にも同じような傾向がみられます。ひとたびアダルトマン将軍のような事例を見つければ、やはり攻撃材料として拡散しています。互いが互いの島宇宙内で、一方的に罵倒を続けるわけです。
この「アダルトマン将軍」には、僕も笑ってしまいました。
人の無知や失敗をバカにするというのは、気持ちいいですよね。
しかしながら、「アダルトマン将軍」は、ネタでしかないのです。この人は、もっと英語を勉強したほうがいいね、というだけです。
こういう間違いをおかしてしまう人がいる陣営の主張が全部間違っている、というわけではないし、もっと本質的なことを「議論」するべきなのに、こういう「揚げ足取り」をお互いにやりあってばかり。
安倍首相の政策に苦言を呈したいのなら、事実やデータをもとに検証すれば良いだけで、「下痢総理」とか持病をあげつらう必要はないのに、自称リベラルの文化人のなかには、安倍首相憎しが高じて、そういう発言をする人もいます。
お互いに、相手の話を聞く気はなく、仲間にウケるために、どんどん発言が過激になっていくのです。
現実社会では無力に近かった対話不能な人たちは、ネット上では手が付けられない存在になっています。どれほど彼らが厄介なのか、ここまでの内容を振り返りたいと思います。
まず、彼らが及ぼす影響力は甚大です。極端に乏しい論理しか持たない、いわば断言のような主張がネット上で幾度となく反復されることで、人々の間にその断言が感染していきます。断言の反復は、カルト宗教の内幕としてよく見られる洗脳システムを思い起こさせます。「説得力のない言葉だから説得できる」という奇々怪々な現象が起きているわけです。
こうした状況を苦々しく思う方々も大勢います。しかし、彼らを食い止める有効な手立ては見つかりません。ほぼ論理のない結論しか持たない彼らは、論理がないために論理破綻しようがないのです。(1)事実や(2)理由付け(論理)によって(3)主張が支えられているのではなく、(3)主張=信仰のようなものですから攻め手がありません。
こうした偏狭な主張を叫び続ける人々は、従来であれば仲間を得るのが難しく、しばしば孤独となり活動を続けるのが困難でした。しかし、ネット上では簡単に仲間を得ることができるため、孤独にさいなまれて活動を休止するといったこともありません。仲間とともに延々と活動を続けられます。
また、彼らの主張に論理らしきものが備わっているケースもありますが、(1)事実と(3)主張を強引に接続してしまう「無限接続の法則」が発動しているため、対話は成立しません。
人は信じたいものを信じる。
これは他人事ではなくて、僕自身も、そういう傾向はあるのです。
何かを好きなことには理由があると思い込んでいるけれど、実際は、まず「好き」があって、それを補強するための理由を後付けで探している、あるいは、ネガティブな情報は「見なかったことにしている」というのは、よくある話です。
しかも、ネットでの「ネトウヨ」とか「パヨク」は、転向することによって、それまでの「仲間」も失ってしまうのです。
僕はずっと、「彼らは無知で、事実がわかっていないから、あんな奇矯なことを主張しているのだ」と思っていたんですよ。
でも、最近読んだ本にあったアメリカのデータによると、アメリカで進化論を信じるかどうかは、学歴による差はなく、支持政党による違いが大きいそうです。
どんなに「勉強」しても、自分の常識や信仰を強化するほうにしか作用しないのが「ふつうの人間」なのでしょう。
著者は、大人はさておき、偏った主張に子どもたちが触れて、影響されるリスクを不安視しています。
今のネット言論では、より偏ったもの、センセーショナルなもののほうが拡散され、多くの人に「伝わる」のも事実です。
しかし、対策は「ひとりひとりが、粘り強く『人と対話する姿勢』を見せ続けていく」というくらいしかなさそうで、それに効果があるかどうか、僕も疑問なんですよ。
まったくの「孤独」になるよりは、「ネトウヨつながり」でも生きがいを持っていたほうがマシなのかな……わからないよねほんとうに。
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