Kindle版もあります。
内容紹介
展開も結末も予測不可能な超大作ミステリー!!若き女医は不思議な出会いに導かれ、人智を超える奇病と事件に挑む。
眠りから醒めない四人の患者、猟奇的連続殺人、少年Xの正体――
すべては繋がり、世界は一変する。眠りから醒めない謎の病気〈特発性嗜眠症候群〉通称イレスという難病の患者を3人も同時に抱え、識名愛衣は戸惑っていた。
霊能力者である祖母の助言により、患者を目醒めさせるには、魂の救済〈マブイグミ〉をするしか方法はないと知る。
愛衣は祖母から受け継いだ力を使って患者の夢の世界に飛び込み、魂の分身〈うさぎ猫のククル〉と一緒にマブイグミに挑む――。『崩れる脳を抱きしめて』『ひとつむぎの手』
2年連続本屋大賞ノミネートの著者、最新作!
「ひとり本屋大賞」9冊め。
ああ、筒井康隆さんの『パプリカ』に、『魔法少女まどか☆マギカ』のキャラクターをぶち込んで、沖縄テイストをふりかけて一丁上がり!みたいな話だなあ、と思いながら読みました。
すべてが、「自分が個性的なサブカル者だと思っている筋肉少女帯ファン」が好きそうな、「それっぽいもの」でつくられているのだけれど、ミステリにしてもファンタジーにしてもトラウマ云々に関する心理学や精神医学についても沖縄についても、すべてが中途半端なのです。
書店員さんにオビで「予想外のどんでん返し!」とか「一気読み必至!」とか書かせるためだけの、なんでそうなるのかよくわからないストーリーとか。「夢幻」だからなんでもあり、っていうのは、それはそれで筋が通っているかもしれないけrど、あまりに予想通りの「どんでん返し」だったので僕は戸惑ってしまいました。「読み終えた瞬間にまた始めから読み直したくなります」なんて書店員さんのコメントを読んで、僕は驚きました。僕は読み終えた瞬間に、もうこの本を読まなくていいことに心底ホッとしたというのに!
……ごめん、ちょっと言い過ぎた。
でも、上巻の3分の2くらいまでは、心底つまらなかった。筒井さんの『パプリカ』を挙げましたが、森見登美彦さんのテイストも入っていそうです。
ファンタジー風の「夢幻の世界」の描写がものすごく丁寧に描かれているのですが、それが長いだけで全然魅力的ではなく、文字数稼いでいるだけじゃないの?と読んでいる側として愚痴のひとつもこぼしたくなるのです。意外というより、強引すぎる「真実」が羅列されるたびに、うんざりしてきます。なんでもできるんだったら、もったいぶらずにさっさと解決しろよ偽キュゥべえ……
最初から200ページも、冗長で平板なファンタジー描写を読まされるというのは、さすがにつらい。
上巻の後半3分の1くらいから、ようやくエンジンがかかってきて、読みやすくなってきます。下巻では、「こんなこと、実際の病院で起こるわけないだろ!」とか、「ちょっとおかしいんじゃない?」と思ったところに対して、ちゃんとフォローもされていて、「僕が思っていたほど粗忽な作者じゃなかったんだな」と見直したところはあるんですよ。
話の支離滅裂さを「夢」とか「トラウマ」とか「精神を操る」とかいうマジックワードで説明されまくると、「ああ、もうそういうのは間に合っているんですよすみませんね」って言いたくなるのは、僕がこれまで、そういう作品を読み(あるいは読まされ)まくってきたからなのでしょう。
「セカイ系」に未接触で、抗体がない人なら、「感動した!」って思うのが自然なのかもしれません。
それに、このくらい支離滅裂だと、それはそれで、「この広げすぎた風呂敷を、どう畳むか見届けてやろう」と思うところもありました。なんかもう、無理矢理「善人の読者を感想させる『愛情』と『寛容』の詰め合わせセット」が出てきて、苦笑してしまいましたが。
まあでも、『リアル鬼ごっこ』的な興味ではありましたが、なんとか最後まで読めましたし、酷い、最悪の小説ではないとは思います。ただし、面白くなってくるためには、冗長なだけのファンタジー部分を200ページも読まなくてはなりませんし、前半の印象が最低だったので後半は「思ったよりひどくはない」というだけで、この本の上下巻を買うお金と読む時間をもっと有益に使う方法はたくさんあるはず。
この本と僕は、「本屋大賞」にノミネートさえされなければ、こんな不幸な出会いをしなくても良かったのに……
そもそも、これに投票した書店員さんたちって、本当にこれをちゃんと読んで、「今年のベスト10に入る」と自信を持っているのでしょうか。大好きな知念先生の新刊だから推す!(忙しいから読んでないけど……)じゃないの?
読まずに投票しているのなら不誠実だし、読んで投票しているのなら、●●(自粛)じゃないのかな……
読もうと思う人は、まず書店で少し最初のほうを読んでみることをおすすめします。
iは「ムゲン」かもしれないけれど、お金と時間には限りがあるから。