Kindle版もあります。
建物と住民、2つの「老い」にどう向き合えばいいのか?
「朝日新聞」大人気連載、待望の書籍化!管理会社の契約打ち切り、大規模修繕費用の水増し請求、もてあます機械式駐車場、なり手がいない管理組合の理事…。
マンションの高齢化は著しく、日本中で問題が生じている。危機に直面しながらも、マンションというコミュニティーの再生を目指し、模索する人びとの姿を追う。
<目次>
第1章 管理会社「拒否」の衝撃
第2章 没交渉の住民
第3章 高齢化するマンション
第4章 コミュニティー再生
第5章 管理組合に迫る危機
僕自身も築20年くらいのマンションに住んでいて、さまざまな問題にも直面してきたので、「同じことが日本中で起こっているのだなあ」と思いながら読みました。むしろ、僕が住んでいるマンションは、まだかなりマシなほうなのかな、とも。
実際に住んでみると、マンションというのは、隣近所と無関係、というわけにはいかないし、管理維持費や修繕費で、毎月それなりのお金が必要なんですよね。
僕の場合は、月に2万5000円くらい管理組合に納めているのですが、「マンションを買ったら、自分のものになるし、家賃を払わなくて済む」というけれど、ローンにこの金額だとかなりきついよなあ、あの世までは持っていけないし、子供たちもいずれは自分の居場所を見つけて、ここにずっと住むわけじゃないだろうし、それなら、ずっと賃貸でも良かったのではないか、とも思うのです。
日本人が「マンション」に住むようになったのって、最近の50〜60年くらいの話で、修繕が必要になったときや、人が住まなくなったときにどうすればいいのか、という道筋は、あまり切実には考えられてこなかったのです。原発と同じで、「とりあえず今が良くなれば、先々のことはその時代の人が考えるだろう」と思って建て続けてきたのです。
そして、「その時代」が、いつの間にかやってきた。
日本の人口は減り続けていて、郊外のマイホームに憧れる人はほとんどいなくなったのだけれど、マンションでの生活には、大勢で多様な人々との共生であるがゆえの問題があるのです。
ゴミ集積所の管理、植栽の手入れ、施設のメンテナンスなど、暮らしに纏わって生じる様々な雑務を誰かにおまかせできる手軽さが、マンションの魅力の一つと感じていた人も多いのではないか。
だが、その常識は、通じなくなってきているようだ。
以前は、マンションを巡るトラブルといえば、騒音や共有部分の使い方など、近接しか空間で暮らしていることにともなって生じる摩擦について取り上げられることが多かった。だが、最近は、管理会社の側から契約更新を拒否される、住民が高齢化して理事のなり手がいないなど、マンションの運営そのものが立ちゆかない事態があちこちで起き始めている。管理が行き届かず、「スラム化」するマンションすらある。
プライバシーが守られるというマンションの利点は、住民たちが高齢化したり、災害が起きたりしたとき、孤立や孤独死といった問題も引き起こす。
地方の過疎地が高齢化し、集落の維持がむずかしくなっているのと同様に、まるで「限界集落」のように、コミュニティーの維持が立ちゆかないマンションが出始めているのだ。
僕が住んでいるマンションでも、数年前に、管理会社の変更があったのです。
もっと安く請け負ってくれる管理会社があるから、という理由だったのですが、僕はこれまでの管理人さんにお世話になっていたこともあって、「安かろう悪かろうになってしまうのではないか」と不安だったのです。
これまでの管理会社が悪質なところでなければ、安くなるというのは、何らかのコストを削減するか、他のところで稼ぐ仕組みになっているか、何ですよね。
この本での取材によると、都市部のマンションを中心に、これまで委託していた管理会社から管理を断られるケースが増えているそうです。
「会社の事情もあり、もう契約の更新はできません」
2020年1月、川崎市内にあるマンションの管理組合の理事長の男性は、管理会社の担当者にこう言われた。5年ほど前から契約しており、「青天のへきれき。かなりショックだった」と話す。
更新拒否の理由について理事長は、築43年と古く、管理会社にとって「うまみ」がなくなったためではないか、とみる。
このマンションの管理組合では、修繕工事の際、この管理会社からの見積金額が高いとして、他の業者に依頼することが多かった。また、修繕積立金の残高も少なく、今後の工事も見込めなかった。関係者は「こうしたことが更新拒否の理由では」と指摘する。
拒否が増える背景の一つには、管理にかかるコストの上昇がある。
マンション管理人や清掃員の最低賃金が引き上げられたことなどで、人件費が上昇。管理費に転嫁しようとしても、組合側が値上げに応じられず、さらに修繕積立金の残高が少ないことなどから、解約に至るケースが多いという。
大手管理会社の担当者は「清掃や警備などのコストが増え、日頃の管理業務では利益が出ない。その代わりに、日々の修繕工事や十数年ごとにある大規模修繕工事を請け負うことで埋め合わせる構造になっていることが多い」とし、「修繕費用の積み立てが少なく、収益を得るチャンスが少ない組合は、切り捨てることもある」と明かす。
「ひどい管理会社だ」と言うのは簡単だけれど、管理会社も商売であり、損をしてまで管理業務を請け負うことはできません。
「管理業務だけで、ちゃんと稼げる仕組み」になっていればいいのに、とは思うのですが、住民は管理費が上がるのを嫌がり、修繕工事も今のネット時代では格安の業者を簡単に探せてしまうのです。
老朽化したマンションでは、住人が減ったり、年金暮らしの高齢者が増えたりで、十分な管理費・修繕費を集められなくもなっています。
そうなると、マンションそのものの価値は下がり、他の住居を探せる余裕がある人は「脱出」してしまい、さらに「スラム化」が進んでいきます。
東京カンテイ(東京)によると、首都圏の新築マンションの管理費は、2019年までの直近10年間で約18%上昇した
とも書かれていました。
管理会社も、「管理費を安くして契約を取り、修繕工事で稼ぐシステム」の限界を感じているのです。
古いマンションのなかには、戸数も少なく、管理会社が見つからない、ということで、管理業務を住民たちが行うようになったところもあるそうです(管理業務の一部を自分たちでやる、というのも含めて)。
住民の高齢化により、認知症で自分の部屋がわからなくなってマンション内で迷ったり、マンション内に一度出た後で入れなくなる、などというトラブルも増えてきているのです。
マンション生活では、一部の顔見知り以外は、とりあえずエレベーターなどで顔を合わせたら挨拶はする、という程度の付き合いをしている人が多いと思うのですが(僕もそうです)、こういう認知症の高齢者が独居で同じマンションに住み、迷っていた場合、どうすればいいのか。
勝手に病院に連れて行ったり、施設に入ってもらうわけにはいかないし(本人は自覚に乏しいことも多いので)、だからといって、ずっとマンション内を困ってウロウロしているのを放っておく、というわけにもいきません。
立派な機械式立体駐車場をつくったものの、利用者が減って、維持費ばかりがかさんでしまうマンションも多いそうです。
取り壊すのにも、かなりのお金がかかるし、駐車場に関する問題には、利用している住人とそうではない住人の温度差が大きく、なかなか方針が定まらない。
他の住民とは、最低限の挨拶程度で、というマンション暮らしは、今後、マンションの老朽化、住民の高齢化にしたがって、難しくなってくるのです。
そんななかで、住民間での「コミュニティの再構築」への様々な取り組みがなされていることも紹介されています。
でも、正直なところ、管理組合の役職とか、住民の総会とか、趣味のコミュニティとか、「ちゃんとやっていたほうが、災害時や困った時には役立つだろうな」とは思うのだけれど、めんどくさいなあ、来るか来ないかわからない災害時のために僕の残りわずかなコミュニケーション能力を使い果たすくらいなら、有事にのたれ死んでもいいから放っておいてもらったほうがいいんじゃないか、とか、つい考えてしまうのです。
いまの僕の場合は、子どもがいるから、そういうわけにはいかないのですけど。
取材の中で、「マンション購入時のポイント」について、専門家はこんな話をされています。
マンションの購入時はどんな点を確認したほうがいいのか。「マンションは管理を買え」とよく言われるが、初期費用だけでなく、購入後のメンテナンス費用まで意識するのが大切だ。
土屋さんは手がかりとして、2022年4月から始まった二つの制度を挙げる。国と、業界団体「マンション管理業協会」がそれぞれ、新たな評価制度を作る。国の制度で組合が「認定」を受けていて、同協会の制度では上位2ランクの評価を受けていることが望ましいという。
組合の借り入れ状況や、組合がアクティブに活動しているかどうかもポイントだ。
「管理規約や管理会社の見直しを定期的にやっているのは活発な証拠。購入時に資料を見せてもらったほうが良い」と土屋さんは助言する。
川島さんによると、機械式駐車場の有無もポイントだ。平置き駐車場は維持費がかからないが、機械式の場合は多額の維持費や入れ替え費用がかかる。それに見合った使用料が設定されているか注意が必要だという。また、あまり流通していない設備やメーカーの製品が設置されていると、競争が働かず維持費が高額になった李、入れ替えの際に苦労したりすることもあるという。
マンションを中古で購入する場合には、大規模修繕や配管の更新など多額の費用がかかる修繕の実施状況と、それを反映した長期修繕計画や修繕積立金の設定状況になっているかを確認する必要がある。
「購入費用だけでなく、その後の費用がどれだけかかるのかを見越して考えることも大切です」と川島さんは語る。
これまでのマンション生活は、面倒なことは誰かが管理費の代わりにやってくれていたけれど、これからは、もっと高額な費用を出すか、自分たちでやるしかない時代がやってくることになります。
住民も、ここが終の住処と決めていて、もう、自分たちが動けなくなるまで住めればいい、年金暮らしだからお金もないし、修繕費の値上げなんてとんでもない!という高齢者もいれば、将来は転売することも視野に入れているから、ちゃんとメンテナンスをして資産価値を維持していきたい、という人もいる。
そんな、それぞれの事情を抱えている人たちが、妥協点を見出さなければ、マンションでは何も決まらないのです。
10年くらいで、次の新築マンションに住み替えられるくらいの富裕層でもなければ、マンションを買う、ということのリスクやデメリットはかなりあるのです。
そして、そのリスクやデメリットは、高齢化や少子化による人口減が進んでいくほど、大きくなっていきます。
マンション購入を考えているのなら、一度は読んでおくことをおすすめします。賃貸アパート・マンション、一戸建てもそれぞれ長所・短所があって、結局のところ、自分の好みや状況に合わせて、どれかを選ぶしかないのですが。