Kindle版もあります。
<あらすじ>
法曹の道を目指してロースクールに通う、久我清義と織本美鈴。二人の過去を告発する差出人不明の手紙をきっかけに不可解な事件が続く。清義が相談を持ち掛けたのは、異端の天才ロースクール生・結城馨。真相を追う三人だったが、それぞれの道は思わぬ方向に分岐して――?
「ミステリが読みたい!」2021年版(早川書房)国内篇3位&新人賞受賞。
「このミステリーがすごい!」2021年版(宝島社)国内編3位。
この本のオビには「王様のブランチ」で大反響!というコピーが書かれているのですが、たしかに、「良くも悪くも『王様のブランチ好み』の本だな……」という印象ではありました。
「法廷もの」好きの僕にとっては、350ページを一気読みしてしまうくらい、続きが気になるミステリだったのと同時に、「なんか芝居がかった話だな」とも思っていたんですよね。
授業でも実習でもないのに、わざわざ「法廷ごっこ」をやる底辺ロースクールの優秀な学生たちなんて、「何その歪んだ意識高い系」みたいな感じですし。
ただし、読み進めていくと、「芝居がかった話」というのは、ある意味、この作品の個性でもあるんですよね。最後まで読んで、「それも著者の計算通りだったのか?」と、してやられた気分にもなったのです。
正直、トリックとか物語の流れに関していえば「予想をこえるもの」ではありませんでしたし、いろんな伏線っぽいものが散りばめられているにもかかわらず、うまく回収できていないものもありました。まあ、あまりにきちんと伏線が回収されすぎると、かえって「上手すぎて、なにか物足りない」気もするのですけど。
こういう作品は、あれこれ書けば書くほどネタバレになってしまうし、できれば、予備知識をあまり入れずに読んでみていただきたいのです。
さまざまな事情があったにせよ、そんなふうに他人を犠牲にするのはひどい、とは思うけれど、それは僕がつねに「自分がなりふり構わずに生きていくしかない立場」にいなかったから、なのかもしれません。とはいえ、ウルトラマンが怪獣を倒すためには、民家をぶっ壊し、一般人が下敷きになっても「仕方が無い」のか?赤の他人からすれば「それくらいの犠牲が出るのはしょうがない」「犠牲になった人は運が悪い」で済むのかもしれないけれど、犠牲になった側は、そう簡単に割り切れるものではないですよね。
この作品の場合、犯人はウルトラマンを例に出すのが申し訳ないくらい、利己的な人間だったわけですし。
そして、この物語を読むときに、日本の司法では、起訴されたら99%が有罪になるということ、警察や検察という組織は、よほどのことがなければ、自らの誤りを認めず、ときには組織を守るために事実を隠蔽してきた、ということを知っていたほうが、より「切実に伝わる」はずです。
なぜ、こんなことをやったのか、あまりにリアリティがない、と感じる人が多いかもしれないけれど、僕は「ここまでやらないと、おそらく『なかったこと』にされてしまうであろう、日本の司法の現実」が描かれていると思います。
僕自身は、酷い犯罪を行った人間には厳罰で臨むべきだと考えていますし、死刑にも賛成です(もちろん、死刑やむなし、という犯罪がなくなれば、それがいちばん良いのだけれど)。しかしながら、人が人と裁くのに「完璧」などありえない、と考えずにはいられなくなるのです。
登場人物のキャラクターや行動にはリアリティを感じないのだけれど、こんな「非現実的」なことをやらないと、暴けない「人が人を裁くことの問題点」がある。
これ、読み終えて冷静に考えてみると、相手は誰でもいい、という悪意の前では、どんな人間も「やられ損」にしかならない、ということですよね……
fujipon.hatenadiary.com
※この本を読んでおくと、『法廷遊戯』で描かれていることが理解しやすいのではないかと思います。凄いノンフィクションです。