チェインクロニクルから学ぶスマートフォンRPGのつくり方 (星海社新書)
- 作者: 松永純,4Gamer.net編集部板垣翔平・飯田美和,セガゲームス
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2018/09/27
- メディア: 新書
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内容紹介
スマートフォンRPG制作の極意と物語創作論
ゲームジャンルにおいて、映像や音楽などあらゆる要素が凝縮された「総合力の結晶」と言われる「RPG(ロールプレイングゲーム)」。その核とも言うべきプレイヤーの感情を揺さぶる「物語」を、スマートフォンRPGに初めてもたらした先駆けにして革命的傑作』――『チェインクロニクル』。本書は本作総合ディレクターである著者が、スマホRPGだからこそできる最適な物語体験のための設計や、チームでゲームを作る組織制作論、クリエーターの意欲を刺激し続ける方法など、いまなお実践し続けるスマホRPG制作の極意を余すところなく語りきった一冊です。次代を担うゲームクリエーター、そして物語創作を志すすべての方に本書を捧げます。
僕は、学生時代、ゲーム制作者に憧れていたのです。
いまから30年くらい前、パソコンやファミコンで「テレビゲーム」の洗礼を受けた世代には、「ゲームをつくってみたい」という人が大勢いて、その中で「選ばれし者」たちがいま、ゲーム業界でちょうど中核を担っているくらいの年齢層なんですよね。
いまは、テレビゲーム黎明期のように、ひとりでゲームをつくれる時代ではなくなってしまったけれど(例外はあるにせよ)、ゲームをつくっている人の話は、やっぱり面白い。
ただ、この本を手にとって、僕は少し後悔したのです。
ああ、僕はこの『チェインクロニクル』を一度もプレイしたことがなかった……
プレイしたことがある人にとっては、著者の話というのは、「ああ、あのエピソードのことか!」と自分のゲーム体験にあてはめて楽しめると思うのだけれど。
まずは「チェインクロニクルとはなんぞや?」と思っている人達のために説明しておくと、このゲームは2013年にサービスを開始したスマートフォン向けのRPGです。私は企画の立ち上げ時期である約7年前から原案、メインゲームデザイン、そしてゲーム全体のディレクションを担当してきました。
チェインクロニクル(以下チェンクロ)はコンシューマRPG(家庭用ゲーム機のRPG)、の中でも王道のJRPGの面白さをスマートフォンで体験できるようにしたいと思い作った作品でして、中でも物語の要素に注力してきました。たくさんの登場人物たちと出会い、仲間となって紡いでいく”絆”をテーマに、ユグド大陸の真相とつながる書物”チェインクロニクル”の謎に迫る、大長編の王道ファンタジーストーリーを描いています。
開発当初はコンシューマRPG的な遊びを一年保てれば上々、頑張って二年ぐらいは戦えるゲームだろうと考えていたのですが、世に出てからいろいろと奮闘した結果、このたび五周年という節目を迎えさせていただくことができました。そこでこの機会に「スマホRPGを作ってみたい」「どうやって作っているのか気になる」と思っている同業者や学生の皆さんに向けて、チェンクロならではのノウハウを取りまとめることを決めました。
本書では当初あった出来事を併記しつつ、開発開始前の土台作り、開発初期から運営のスタート、物語の効果的・効率的な露出方法、その後の五年にわたっての話を、ゲーム作りの中でも”スマホRPGならではの苦労”の角度から触れていきます。
この本を読んで、「こんな『スマートフォンRPG』っぽくない、ガチャばっかりでもなくストーリー重視の、昔ファミコンやプレイステーションで遊んでいたようなストーリー重視のRPGがスマートフォンにもあったのか、知らずに損した!」と、アプリをインストールしに行ったんですよ。
でも、いまは『チェインクロニクル3』になっていて、やっぱりガチャがアピールされていて、「うーん、今から参入するのは、ちょっとつらいな……」と、そのまま帰ってきました。
もっと早いタイミングで『チェインクロニクル』のことを知っていたら……と悔やまれます。
とはいえ、『チェインクロニクル』で遊んだことがない僕にとっても、いまのスマホRPGって、こんなふうにつくられているのか、という流れや制作者が何を考えているのかがわかって、なかなか楽しめる本なのです。
コンセプトはとにかく大切です。コンセプトとはすなわち「ゲームの一番の魅力、面白いポイント」です。ゲームを作る際は、最初にコンセプトがなんなのかを具体化しておかなければなりません。そしてチェンクロのコンセプトは”自分だけの仲間との出会いと物語”を生み出すこと。さらに具体化するなら、それを実現するため、「カードが生きたキャラと感じられるゲームにする」という一文がそれにあたります。
注意すべきは、コンセプトはなるべく短くするということです。可能なかぎり一行でシンプルで具体的に。これがとても大事です。なぜかというと、コンセプトの役割はゲームを開発・運営している最中に「今、自分達が作っているものは一番面白いポイントをちゃんと押さえているのか」を確認するためのものだからです。
本作ではクエストやガチャで新キャラクターを手に入れた際、「こんにちは。私はこういうものです。よろしくお願いします」という挨拶のシーンが挿入されます。新しい仲間ができたら、その場で挨拶されたほうがグッとくるだろうと考えてのことです。
プレイの熱というのは感情と異なる操作を挟んでいるうちに冷めてしまい、そのまま放置されれば「ガチャで当たった喜び」と「キャラが仲間になった喜び」は合致せずに断絶されてしまいます。新しいキャラクターを手に入れ、別のタイミングで手持ちのカードリストを眺めて、そこからまた別画面でキャラクターを確認し、ようやくストーリーを読んだときに「こんにちは」と言われても、ここに体験の連続性はありません。古くから愛されている名作RPGにだって”挨拶もせずに気づいたらパーティに加入していた仲間”なんていませんしね。
この「新キャラクターを入手した際に挨拶のシーンを挿入する」というのは、初期の構想にはなかったと著者は述べています。
テストプレイ中に「キャラクターが生きている感じがしない」ので、これを入れてみたら、劇的な効果があったそうです。
プレイヤーの感情移入度というのは、ほんのちょっとしたことで、大きく左右されるのです。
では、自己紹介ムービーみたいなのが何分間も続けば良いかというと、「鬱陶しい」としか思われないんですよね、きっと。
スマートフォンで遊ぶ場合には、家庭用ゲーム機のときよりもいっそう、「操作しているときの心地よさ」が大事になります。
スマートフォンのゲームで批判されがちな「ガチャ」に対して、著者はゲームをつくる側として、こんなふうに述べています。
悪いところを挙げると、それはもちろん、人によってはお金を使す。ユーザー側の立場だと「会社が儲かってるんだから、お前が綺麗ごと言うな」と思う人もいるでしょう。事実、私はゲーム会社に勤める身ですから、ガチャの収益も含めた各ゲームの売上のいくばくかを給与として受け取っています。そのうえでゲーム開発者として
見たとき、やはりお金を使いすぎてしまうガチャには多大なマイナス面があると感じています。というのも、ガチャがあることによって、ゲームプレイで受け取れるお金と満足度のバランスが”いつまで経っても平行線”になるからです。例えばコンシューマゲームに1万円を払い、たっぷりと遊んで楽しんだプレイヤーの満足度は1万円を払ったという意識を超えて上昇し、「このゲームはすごく楽しかった」という記憶に昇華されていきます。作品によっては大満足までたどり着くことでしょう。
ですが、ガチャありきのスマホゲームはいつまで経っても大満足のボーダーを超えられません。決まった金額分を楽しむわけではなく、ゲームプレイに応じてお金を投入するため、プレイして楽しいなと思ったら、もっと楽しく感じるためにガチャを引く流れになります。5万円払ったんだから、10万円払ったんだからと”楽しさの要求値”は延々と高まっていきます。そして、いつしかプレイヤーの気持ちが追いつけなくなると、支払ったお金のぶんだけ失望に変わる。それが開発者として見たときのガチャの恐ろしさです。
スマホゲーム、とくにガチャによる課金が欠かせなくなっているゲームの場合には、プレイヤーが飽きるか、お金が続かなくなるか、儲からなくなってそのゲームのサービスが終了となるか、というのが「終わり」の主なパターンになるわけで、いずれにしても、「綺麗な別れ」にはなりづらいのです。
逆にいえば、「儲かる状況でありさえすれば、その世界はどんどん新しくつくられていく」というメリットもあるわけですが。
スマホRPGって、どんな人たちが、どんな思いでつくっているのだろう?
拝金主義者たちがガチャで重課金プレイヤーたちから搾取してウハウハ、みたいな感じなのだろうな……
そんなふうに感じていた人(というか、僕もそう思っていました)に、読んでみていただきたい一冊です。
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CHAIN CHRONICLE 5th Anniversary ORIGINAL SOUNDTRACK(ALBUM3枚組)
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