【読書感想】辺境メシ ヤバそうだから食べてみた ☆☆☆ - 琥珀色の戯言

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【読書感想】辺境メシ ヤバそうだから食べてみた ☆☆☆

辺境メシ ヤバそうだから食べてみた

辺境メシ ヤバそうだから食べてみた


Kindle版もあります。

内容紹介
ヒキガエルジュース、ラクダ丼、超熟納豆、胎盤餃子……
辺境探検家がありとあらゆる奇食珍食に挑んだ、驚嘆のノンフィクション・エッセイ。

・ジャングルのゴリラ肉ってどんな味?
・恐怖のスパーリング・エイ料理ホンオ
・「世界最高のビールのつまみ」の意外すぎる正体
・“女性用絶倫食材”カエルの子宮の効果とは?
・トン族は「ヤギの糞のスープ」を食べる!?

人類最後の秘境は食卓だった! 抱腹絶倒の食の冒険ノンフィクション決定版。


 冒険ノンフィクション作家・高野秀行さんの「食の冒険」エッセイ。
 世界各地の「ほとんどの日本人は、一生口にすることがないであろう食べ物」を高野さんは次から次へと制覇していくのです。

 ゴリラとかチンパンジーを食べるって、『ザンキゼロ』(註:スパイク・チュンソフトから出ているTVゲーム)じゃあるまいし……

 僕のような偏食家かつ、直に対する冒険心がない人間にとっては、読んでいるだけでお腹いっぱいというか、ちょっと気分が悪くなってくるような食べ物がたくさん紹介されています。
 高野さんは、最初にこう書いておられます。

 子供の頃から胃腸が弱く、好き嫌いも多かった。
 動物の内臓(モツ)や皮、キノコ(特にシイタケ)、香辛料の効いたもの、漬け物や外国のチーズなど、ちょっとでも見かけがグロテスクだったり、臭かったり、クセがあるものは全然受けつけなかった。
 それが一気に変わったのは大学探検部の遠征でアフリカ・コンゴへ行ったときだった。やむをえない事情から、サル・ゴリラ・ヘビなどの野生動物を片っ端から食べるはめになった。他に食糧がないから、食べないわけにはいかない。当時は毎日のように「こんなものも食うのか」と驚いていた。
 でも、いざとなれば食べられてしまうし、けっこう美味かったりもする。
 これが人生における「食ビッグバン」となった。
 コンゴから帰ると、好き嫌いは一切消滅していた。シイタケやモツなど、毛がからまったチンパンジーの肉に比べたら鶏のささみのように素直な食品に思える。食の可動域が極端に広くなったのだ。
 もし関節の可動域が急に広がれば、誰もがいろいろなことを試してみたくなるにちがいない。上海雑技団のように背中をそらせて足の間から顔を出してみたり、針金細工のように複雑なヨガのポーズをとってみたくなるだろう。


 なんというショック療法!
 好き嫌いが多い子どもは、コンゴに連れていくと良いかもしれませんね……って、これはあまりに極端すぎるかも。
 でも、「もともと偏食だったからこそ、なんでも食べられるようになった自分が新鮮で、あれこれ試してみたくなる」というのは、わかるような気がします。
 急にモテるようになった人みたいな感じだったのかな。
 僕はモテるようになったことも、偏食から卒業できたこともないので、あくまでも推測ですが。

 高野さんの場合は、好奇心と同時に、世界の辺境を旅してきて、現地の人たちとのコミュニケーションを円滑にすすめるために「出されたものはとにかく口をつける」ことを自分に課していたそうです。
 この本で紹介されているもののなかには、見かけがグロテスクだったり、衛生上リスクが高いのではないかと思われたりするものもあるのですが、高野さんは、ためらわずに口に入れてみるのです。
 その直後に、「現地の人でも、それはナマじゃ食べないよ」なんて苦笑されながら。


 大学探検部時代のアフリカのコンゴでの話。
(高野さんもこの本のなかで注意されていますが、食事中あるいは食直前・直後の方はご注意ください(というか、あとで読んだほうがいいですよ))

 私たちはここで前述したゴリラ、チンパンジーの他、オオトカゲ、ワニ、カワウソ、巨大なスッポン、ニシキヘビなどを口にしたが、最も頻繁に食べたのはサルである。
 もちろん、私たちも初めから喜んでサル肉を食べていたわけではない。
 いちばん最初、村の人たちがサルを獲ってきたとき、正直「げっ」と思った。サル料理はまず焚き火で毛を焼くところから始まる。毛がすっかり抜け落ちると、白い皮膚が露出する。このときサルは、大きさという肌の色といい、人間の赤ん坊か幼児にそっくりなのだ。
 しかもぶつ切りにして塩と唐辛子で煮込んだ肉は、「サル臭い」。食べたことのない人でもなんとなく「サルは臭そう」と思うだろう。で、実際かぶりつくと、本当にイメージ通りの臭さなのだ。”不潔な獣臭”とでも言おうか。
 初めは閉口したが、二、三回食べると慣れた。赤身でコクのあるゴリラやチンパンジーの肉とは全然ちがい、白身のあっさりした肉で、鶏肉に似ている。ぶつ切りにして煮込むと、匂いさえ嗅がなかったらチキンの煮込みと区別がつかないかもしれない。私同様、初めは嫌々食べていた探検部の仲間たちも、どんどんサル肉が好きになっていった。


 「人間の赤ん坊そっくり」なんていうのを読むと、いかん、それはいかん!と思うのですが、人というのは、そういうのにも慣れてしまうのでしょうね。
 人が人を食べることができない、というのは、そういう規範を植え付けられてきたから、というだけのことかもしれません。
 この本にはいろんな料理の写真も掲載されているのですが、サルって、たしかに人間に似ているんですよ……
 そのほかにも、虫やらタランチュラやら蛇やら、見ているだけで「うへーっ!」と逃げ出したくなります。
 高野さんは、こういう食べ物を、淡々と食べ、その味や食感について書いています。
 見かけはさておき、美味いものは美味いし、不味いものは不味い。
 

 中国南部、広西チワン族自治区に住むトン族には、「ヤンピー」という料理があるそうです。
 その料理の名前を案内してくれた人が翻訳アプリに入れたら「ヤギの糞のスープ」という日本語が出てきたのです(実際はヤギではなく羊の料理)。


 で、「糞」って、あの糞を食べるの?

 翌日の午後、その店にべーレイの料理を見に行った。いまだに「糞」が何を指すのか不明だったが、店主の秋さんによれば「胃の中のもの」だという。
 厨房のポリバケツに入ったそれは、黒っぽい緑色をしていて、本当に草食動物が消化している最中の草という感じ。ということは……ヤギの糞ではなくゲロだったのか!
 バケツの中に手をつっこんですくうと、草の繊維がひっかかって浮かび上がる。このどろどろした液体を丁寧に手でぎゅうぎゅう絞りながら、ザルで濾過する。秋さんは、青臭い匂いがうっすら薫る濾過された液体をそのまま中華鍋にあけると、強火でガンガン熱した。驚いたことに、この黒緑の液体には一瞬も水を加えない。ただ、トン語で「ラオカオ(米の酒)」と呼ばれる焼酎をごく少量入れただけだ。
 十分に煮えると、火を止め、液を別の鍋に移したが、このとき何ともいえない異臭が鼻をついた。青臭いだけではない、動物的な何か、あるいは排泄物的な何かが上記と一緒に立ち上ってくるのだ。


(中略)


 呆然としたまま、食卓で味見すると、案の定、強烈。前回はタデとかドクダミに似た葉とか、苦みや渋みの強いハーブを大量に入れていたが、今回はなし。汁自体も抹茶のような細かい粉、つまり草の食物繊維が浮遊していて濃厚。そして、すごく辛くて苦い。


 読んでいるだけで、胃がムカムカしてきた皆さま、ごめんなさい。
 この「胃液スープ」飲んでしばらくすると、「なんとなく胃がすっきりしてきた」そうです。
 錠剤や粉の胃薬なんて存在しなかった時代の「健康食」だったのでしょうね。
 糞とゲロとどっちがマシか?なんて言われたら困るけど。
 

 読んでいると「虫料理」くらいだと、「今回はおとなしめだな」なんて思ってしまうくらい、自分の食の常識が揺らいでくる本です。
 こういう切り口から、高野秀行ワールドに入ってみるのも、面白いかもしれませんね。
 「食わず嫌い」じゃ、もったいないから。


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