- 作者: 森川智之
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2018/04/21
- メディア: 新書
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内容紹介
声で魅せる――
日本中の女子をお世話してきた「帝王」であり、
30年以上もトップを走ってきた実力派が語る。
『ズートピア』のニック、『FFVII』のセフィロス、『マトリックス』のキアヌ・リーブス、『スター・ウォーズ』のユアン・マクレガー、そしてトム・クルーズ……心惹かれたあの声も、やっぱり森川智之だった。
歌にダンスにグラビアと、いまや大人気の職業となった声優。しかし、プロとして生き残れる者はごくわずか。この本では、1987年のデビューから30年
ああ、森川智之さんのファンの編集者が、森川さんの魅力を伝えようと思って一生懸命つくったんだろうな、という新書でした。
声優という仕事について書かれているというよりは「プロフェッショナル 森川智之の流儀」という内容で、声優になるための方法とか、裏話的なものを期待している読者には、ちょっと肩すかしだと思います。
もちろん、それが悪いというのではなくて、「声優はそんなに甘いものじゃない」とか「私はこうして声優になった」という本はこれまでに何冊か出ているので、今さら「声優だけはやめておけ」と大塚明夫さんの二番煎じをやっても意味はないでしょうし、森川さんは声優事務所の社長であり、専門学校も運営しているので、声優志望者にあんまり厳しいことも言えないですよね。
森川さんの話を読んでいると、声優というのは、タレントとしての華みたいなものが求められるのと同時に、声という「音」を制御する技術が求められる仕事だということがわかります。
プロの声優は一音一音にこだわります。僕はよく「1ミリ、2ミリを変える」という言い方をします。それくらい細かなところの音を調整して、声を発しています。もしかすると聞いている人には、ちがいが分からないときもあるかもしれません。それくらいこだわります。
自分の声をどう変えたら聞く人の印象がどのように変わるのかということを、常に意識する必要があります。なぜかというと、プロの声優は同じ声を何度も再現したり、演出の微細なリクエストに応えたりする必要があるからです。自分の声が相手の指示によってどう変わったのかを理解できなければ、声のコントロールができていない証拠です。
今は技術も進化しているので、いくつものカットを編集して良い部分だけを結びつけることもできます。実際、完成品はそのように作成されていることがほとんどです。しかしそれも、安定した音声表現が可能な技術をもった人の声でないと、うまくつなぐことができません。やはり必要なのは声をコントロールする職人技です。
これまでたくさんの役を演じているからといって、いろんな役の声がごちゃ混ぜになったりすることはありません。それぞれの役に合ったそれぞれ異なる声が、当時の役作りの中で生み出されてきています。技術が衰えていなければ、どの役の声も再現できるのです。
多くの人が留守番電話などで録音された自分の声を聞いて、「あれ、こんな声だったっけ?」と感じたことがあるはずです(僕もあります)。
話す内容についてあれこれ考えたり、写真うつりが良くなるように表情を研究したりする人はいますが、自分の声色やしゃべりかたを普段からコントロールしている人って、そんなにいないですよね。
もちろん、アナウンサーや講師など、人前で話すことを仕事にしている人は、それなりにトレーニングしているのでしょうけど。
あらためて考えてみると、僕も「さっきと同じようにしゃべって」と頼まれたときに、それをきちんと再現できる自信はまったくないのです。
やっぱり、プロってすごいな、と。
声を出す技術だけでなく、記憶力とか「耳のよさ」も必要なのです。
ちなみに、森川さんはもともと体育教師志望だったのが、学生時代に大きな怪我をしてしまい、友人に「おしゃべりだし、声が大きいから、声を使った仕事についたら?」とすすめられて、この道に入ったそうです。
「声優になりたくて仕方がない!」というような憧れがあったわけではない、と述べておられるのです。
それが、森川さんの自分を客観的にみる力につながっているのかもしれません。
森川智之さんは、トム・クルーズの吹替えでも有名なのですが、そのきっかけになったのが、スタンリー・キューブリック監督の『アイズ ワイド シャット』という映画でした。キューブリック監督は、生前、日本語吹替え版の製作を認めていなかったそうです。
亡くなられたあと、世界中でキューブリック作品をソフト化して売る際に、遺族の許可が出たことによって、はじめて日本語吹替え版が作られることになり、主演のトム・クルーズに声をあてるオーディションに合格したのが森川さんでした。
この現場が、ものすごく厳しいものだったことを森川さんは振り返っています。
2時間から2時間半の映画の吹替えを収録するとき、僕らは10時に集まり、お昼休憩をはさんで20時から21時くらいには終わることが多い。遅くなる場合があっても、せいぜい一日がかりです。
しかし、『アイズ ワイド シャット』は僕だけで1週間かかりました。もちろん1週間といっても、丸々一日収録した日もあれば、他の仕事の都合で5時間しか収録できない日もありました。ただ、5時間かけて台本1頁しか進まなかったり、前回の収録が気に入らないからといって同じ時間をかけて撮り直したりということもありました。
レオンはアクターズスタジオで学んだ役者でもあります。だからか、僕に対しても同じ役者として接していました。そして、要求もとても高度なものでした。
一般的にはスタジオの中にマイクが三本ほど立てられていて、三、四人で同時に収録するんですが、『アイズ ワイド シャット』では一人ずつ、しかも動きを交えての収録でした。吹替えの声優は声だけを演じればいいのがふつうですが、ここではそうじゃないんです。ベッドシーンだとスタジオにベッドが置いてあり、トムと同じような格好をしてセリフを話すんです。ベッドに横たわり、映像を見て、マイクに向って話す。いくつものことを同時にやらなくてはいけなくて。僕はしまいにセリフをすべて覚えてしまいました。覚えないとできなかったからです。
セリフをしゃべると、レオンが言うんです。
「おまえ、今何を考えてしゃべったんだ」
森川さんは、何度も、声優の仕事は「演じること」だと強調しています。
そして、「声優になりたければ、アニメばかり観ていたりゲームばかりしていてはダメだ」とも仰っているのです。
受け手、消費者ではなく、「演じること」を身につけるためには、どうすればいいのかを考えてほしい、とも。
あと、「教える立場」としての経験をもとに、こんな話もされています。
声優になりたいと思うのであれば、必ず日本語力を身につけてください。
学生の方であれば、国語の成績でトップを目指してください。
声優というのは毎日、文章と付き合う仕事なんです。
僕らの演技の土台となってくれる台本は、アニメーションでも音声でもなく、文章で書かれています。僕らは毎日文学とお付き合いしているので、離れることはできません。
アニメやゲームばかりに意識がいっていると、このことに気がつかない人が多いんです。
そして、自分が声優を志したときになってようやく、書いてあることをスラスラと読むことも内容を正しく理解することもできないことに気づくのです。
教科書の文章を正しく理解できる子どもが少なくなっているというのは、ニュースにもなっていました。日本社会全体で、「日本語力の低下」という事態が生じています。そうなると今後は、学校でトップになるくらいのつもりで日本語力を磨いておかないと、台本を正しく理解できないのではないかと危惧せざるをえません。
ここでも、「教科者が読めない子供たち問題」か……
森川さんは体育会系で運動ばかりやってきて、読書はほとんどしていなかったそうですが、声優になったあと、本をたくさん読み、勉強もしたと仰っています。
台本を理解できていなければ、「作者や脚本家・演出家の意図に沿って演じる」のは難しいのは当たり前ですよね。
声優というと、声質とかルックスが大事だと思われがちだけれど、職業として続けていくためには「国語力」が必要なんですね。
これは、声優だけの話ではないのだけれど。
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