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- 作者: 伊藤薫
- 出版社/メーカー: 山と渓谷社
- 発売日: 2018/01/17
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Kindle版もあります。
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- 作者: 伊藤薫
- 出版社/メーカー: 山と溪谷社
- 発売日: 2018/01/17
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内容紹介
「天は我を見放したか」という映画の著名なフレーズとは大違い、新発見の事実を丹念に積み重ね、
青森第5連隊の悲惨な雪行行軍実態の真相に初めて迫った渾身の書、352頁にもわたる圧巻の読み応え。
1902(明治35)年1月、雪中訓練のため、青森の屯営を出発した歩兵第5連隊は、
八甲田山中で遭難、将兵199名を失うという、歴史上未曾有の山岳遭難事故を引き起こした。
当時の日本陸軍は、この遭難を、大臣報告、顛末書などで猛烈な寒波と猛吹雪による不慮の事故として葬り去ろうとした。1964年、最後の生き証人だった小原元伍長が62年間の沈黙を破り、当時の様子を語ったが、その内容は5連隊の事故報告書を疑わせるものだった。地元記者が「吹雪の惨劇」として発表、真実の一端が明らかにされたものの、この遭難を題材にした新田次郎の小説『八甲田山死の彷徨』(1971年、新潮社)と、映画『八甲田山』(1977年、東宝、シナノ企画)がともに大ヒット、フィクションでありながら、それが史実として定着した感さえある。
著者は、その小原元伍長の録音を入手、新田次郎の小説とのあまりの乖離に驚き、調査を始めた。
神成大尉の準備不足と指導力の欠如、山口少佐の独断専行と拳銃自殺の真相、福島大尉のたかりの構造、そして遭難事故を矮小化しようとした津川中佐の報告など疑問点はふくらむばかりだった。
そこで生存者の証言、当時の新聞、関連書籍や大量の資料をもとに、現場検証をも行なって事実の解明に努めた。
埋もれていた小原元伍長証言から事実の掘り起こし、さらに、実際の八甲田山の行軍演習、軍隊の編成方法、装備の問題点など、
軍隊内部の慣例や習性にも通じているの元自衛官(青森県出身)としての体験を生かしながら執筆に厚みを加えた。
新発見の事実を一つ一つ積み上げながら、「八甲田山雪中行軍」とは何だったのかその真相に迫った渾身の書、352頁にもわたる圧巻の読み応え。
映画『八甲田山』は、1977年に公開されました。
当時小学生だった僕は、この映画のテレビCMで流れていた、「天はわれを見放したかーーっ!」というセリフが忘れられません。
通っていた学校でもこのセリフが流行って、みんな、ことあるごとに「天はわれを見放したかーーっ!」って叫んでいた記憶があります。
のちに映画を観て、新田次郎さんの原作『八甲田山死の彷徨』を読むと、その遭難の状況の悲惨さに、あんなふうに面白がってネタにして申し訳なかったとも思うのですが。
あの『八甲田山』のいたたまれなさは、歩兵第5連隊の悲劇が戦場でのどうしようもない状況から生まれたものではなく、「訓練」のはずだったのに、199名もの犠牲者を出してしまったことにもあるのです。
ロシアとの戦争を意識して、雪中行軍の訓練の必要性を感じていたとはいえ、訓練でこんなに犠牲者を出してしまうとは、自滅というか、藪蛇というか……
明治に起こったこの遭難事故が昭和になって再び脚光を浴びたのは、新田次郎著『八甲田山死の彷徨』と、それを原作とした映画『八甲田山』の影響によるものだった。師団または旅団命令による八甲田山への行軍、指揮が乱れ猛吹雪のなか山中をさまよう歩兵第五聯隊(れんたい)、雪中裸になって斃れる兵士、「天はわれ等を見放した」と神田大尉の悲壮な叫び、田代越えを成功させた第三十一聯隊、救助された山田少佐のピストルによる自決など、小説や映画は軍隊の愚かさを訴えていた。そして多くの人々は、それら作品に描かれた出来事がまことの真実だと錯覚をしてしまう。また、この頃から遭難事故に関する本がさまざま発行され、巷間に諸説が飛び交うことにもなった。
しかし、この小原証言の詳細が明らかになることによって、これまで遭難事故の真実とされていたことや、さまざまな俗説が覆されていく。小原証言以外にも伊東格明中尉、長谷川貞三特務曹長、後藤房之助伍長、阿部卯吉一等卒、後藤惣助二等卒ら生存者の証言、新聞記事などから真実が浮かび上がる。さらには陸軍省の文書から真実を知らされる。
今になって真実が露呈する主な原因は、遭難事故の事実が意図的に消されてしまったことにある。責任回避のため都合の悪いことは隠蔽され、あるいはねつ造されて大本営発表となった。その内容が地元の新聞に載り、青森市に派遣された東京の各新聞社特派員も、すぐさま電報で本社に送っていた。そのようなことによって、大本営発表が事実として日本中に広がったのであろう。
映画や新田次郎さんの原作でも、第五聯隊の冬の八甲田山に対しる知識と準備の不足と、第三十一聯隊の周到な用意が対比されて描かれているのですが、なんといっても、あまりにも不運な天候が災いした、まさに「天が見放した」というのが遭難の主な理由として描かれています。
ものすごく良い天気であれば、この訓練に参加した兵士たちが思い描いたように、途中で温泉につかって、酒でも一杯、という結果になったのかもしれません。
でも、この本を読むと、第五聯隊の首脳部たちが、この訓練をあまりにも甘く考え、事前の準備も下調べも不十分で、下見も予定のルートの最初のほうだけしての見切り発車だったことがわかります。
かえって雪中では邪魔になり、体力が奪われるだけだったソリなどの装備や防寒対策の不徹底(幹部に生き残った人が多いのは、冬山の知識があって、効果的な防寒具を着ていたからでもありました)、指揮系統の混乱など、読んでいるといたたまれない気持ちになってきます。
『八甲田山』の遭難は、「天が見放した」のではなく、「人が人を見放した」ともいえるものだったのです。
神成大尉は遭難事故前に予行演習をしているが、このときには田代までは進んでいない。大臣報告によると、その予行行軍時に得た田代に関する情報がこう書かれている。
「田茂木野村土民の言によれば田代に住民一家族あり時々猟夫若くは樵夫のみ彼地に往来すと」
これが作文でなければ、演習部隊は誰も田代を知らないことを意味し、作文だとしたら、残っていた五聯隊の将校らは誰も田代を知らないことを意味する。いずれにしてもその程度の情報で冬山に挑んだとしたら、小原元伍長のいうとおり無謀だったといわざるを得ない。
「まるで各県から集まった兵隊だとか……青森の地形なんか分からんですからねえ、それがもう無謀に行ったんですから。だからああいう風になってしまったんですね、あんまりあそこの地形はわかりませんでしたけれど、目標ごとに行進したわけなんですけども名前ってどうなんでしょう、田茂木野あたりまでは部落がありますから、まだ向こうは全然……」
二大隊は地形を知らず山に入ってしまったのだ。五聯隊は改変前のそれとは全く違っている。人員数の調整で盛岡連隊区以外の下士卒が若干いるものの、下士卒のほとんどは岩手県と宮城県出身者となっている。
神成大尉の「天はわれを見放したかーーっ!」という言葉が発せられたときの状況を小原元伍長は以下のように話していたそうです。
「そのときあの神成大尉は……八甲田に登ったんですね……ますます吹雪が激しいために、神成大尉が怒ってしまったんですね。『これはだめだ、これは天が我ら軍隊の試練のために死ねというのが天の命令である、みんな露営地に戻って枕を並べて死のう』とこういうわけなんでしょう。それでみんな士気阻喪したんですよ。帰るときはあっちでバタリ、こっちでバタリ、もう足の踏み場もないほど倒れたんです。……帰って朝明るくなってから夜も明けてから調べたところが210人のうちわずか60人……八甲田山に登って帰るとき、猛吹雪のため神成大尉も落胆しているような……精神的なんですね、あっちでコロリこっちで倒れる、悲惨なものですな。自分の目の前でみんなかたまってバタバタ倒れたり、それが見えるんですからね。今度私か、今度私かと思いますね」
神成大尉の悲愴に満ちた怒号は、隊員の士気を著しく低下させ、今まで耐えていた隊員の気力を一気に失わせてしまった。神成大尉は、指揮官として言ってはならないことを言ってしまったのである。
映画では、神成大尉(劇中では神田大尉)の絶望が伝わってくる名場面なのだけれど、現実では、「生き残っていた兵士たちの心を折るとどめの一撃」になってしまったのです。
たしかに、あの場にいて、指揮官にそんな言葉を吐かれては、「もうダメだ……」って思いますよね。
冬山に、土地勘がある者もいなければ、詳しい地図もない状態で、果敢(というよりは「無謀」ですよねやっぱり)に挑んだ五聯隊。遭難事故後の調査に対しても、亡くなった士官に責任を押しつけて保身をはかった上官たち。
その後、日露戦争にはなんとか勝ったものの、太平洋戦争の後半に「精神力頼み」の無謀な作戦が繰り返される芽は、このときからすでに出ていたのです。
この八甲田山の遭難のプロセスをきちんと検証し、事前の準備や予行の重要性を再認識する機会にできていれば……
こういう「隠蔽と責任転嫁、精神論ばかり」というのは、太平洋戦争の敗北とともに、日本から消えてなくなったわけではないのです。
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- 作者: 新田次郎
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