- 作者: 篠賀典子,芹澤健介,北條一浩
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2016/12/05
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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内容紹介
私設図書館、古本屋、ひとり出版社…etc.
「本が好き」な女性たちが選んだ、
「本にかかわる」自分らしい生き方――
南三陸の廃校で、瀬戸内の小さな島で、東京の下町で……。
本にまつわる仕事を自分で始めた女性たちの決断と、本にかける思いとは。
全国の個性派女性オーナー書店や本がつないで誕生したコミュニティも紹介!
全国各地、それも「都会とは言えない場所」で、新刊書店や古本屋、図書館など「本を地元の人たちに届ける仕事」をしている女性たちに取材したものをまとめたものです。
こういう本を読むと、本好きとして心強く感じるのと同時に、いち社会人としては、「こんな儲かりそうもないことができるのは、とりあえず赤字にならなければいい、っていう境遇にいるからだよなあ」って、ちょっと斜に構えてしまうところもあるのです。
「好きなことをやってみる」って言ってもさ、家族がいて、子どもを学校に通わせなければいけなかったら、なかなかそういうわけにはいかないんだよ、って。
でも、この本には、彼女たちの「意識の高さ」「自分探し」だけではなく、迷いとか葛藤みたいなものも収められているのです。
岐阜で『徒然舎』という古書店を経営している深谷由布さんは、こんな話をされています。
少ない予算で深谷さんが探し当てた物件は、目抜き通りから離れた住宅街の一角。外観がごく普通の住宅で、玄関のドアを開け、スリッパを履いて上がるようなスタイルの店だった。ささやかながらもようやく自分の「城」をもつことができた深谷さん。しかしここでも、おそらく男性ならしなくても済むであろうイヤな思いにさらされ続けることになってしまう。
「夢を実現させることのできた恵まれた女性、という視線で見られてしまうんです。もちろん、いろんな人の支えがあって自分がいるわけだし、恵まれてる部分もあると思います。でも、実際に面と向かって、“主婦の道楽なんでしょ?”と言われることもあるんです。これで食べていかなくちゃいけないわけじゃないし、そのうえ好きなことができていいわね、と思われている。おしゃべりだけしに来て全然買ってくれないとか、話がいつのまにか説教になっている年輩の男性とか。そしてまた口惜しいことに、家賃プラスほんの少し手許に残るくらいの利益しか出せていなかったのも事実。“道楽でしょ?”と言われて、堂々と“違います!”って言い返せなかった自分がみじめでした」
ああ、僕もこういう「説教する年輩の男性」になりそうだ……
あらためて考えてみると、いまの世の中で、田舎で書店を経営するとか、島での図書館の運営なんて、赤字垂れ流しにはならないとしても、大儲けすることはどうやっても難しい。
でも、「半ば道楽」みたいな感じで、「それで食べていくためやお金儲けのためではなく、生きがいとしてやりたい人」がいるからこそ、いろんなところに「本が届く」という面もあるんですよね。
もちろん、理想からすれば、まっとうな商売であれば、それなりの利益が出るべきなのでしょうが、そうすると、どうしても、切り捨てられてしまう地域や人も出てくるのです。
「みんなの役に立つ道楽」であるならば、少なくとも悪いことではないはずなのに。
大小さまざまな島が浮かぶ瀬戸内海。
香川県・高松港からフェリーで揺られること約40分、航路の先にぽっこりした形のコミ山(標高213メートル)が見えてくればそれが男木島だ。周囲はわずか4.7キロ、現在の人口は181人(2016年11月現在)。
小豆島や直島などと並んで「瀬戸内国際芸術祭」の舞台になっているので、その名前を知っている人も少なくないはずだが、数年前までは過疎化や高齢化に歯止めがきかない、いわゆる“限界集落”の様相を呈していたという。
「2014年の春にわたしたちが家族で移住してきた頃は、一番若い島民でも60代という感じでした」
そう話してくれたのは「男木島図書館」を運営している額賀順子さん。
「男木島図書館」がユニークな図書館として全国から注目を集めているのは“小さな島の私設図書館”ということだけではない。実は移住相談の窓口にもなっていて、島へ移住を考えている人の相談に乗ってくれるのだ。
こうした活動の甲斐もあり、額賀さんが移住してからわずか2年の間に、男木島へ新たに移り住んだ人たちの数は実に39人! 島民全体の20%を超えるというから驚きだ。
そして、いま「男木島図書館」は、新住民ともともと住んでいる島民をつなぐコミュニティスペースにもなっている。
こんな小さな島に図書館をつくっても……と考えてしまうのですが、小さな島だからこそ、「本があるところに、人が集まる」という面もあるのです。
また、山の小さな集落につくられた書店には、ピクニック込み、というお客さんがやってきて、本を買ってくれるのだとか。
SNS時代になって、「面白そうなこと」を多くの人に拡散しやすくなりましたし、「不便な場所にあるからこそ話題になる、印象に残る」こともあるのです。
東日本大震災で大きな被害を受けた宮城県南三陸町で、本を楽しむためのイベントなどを行っている「みなみさんりくブックス」の栗林美知子さんは、こう仰っています。
「普通の生活をしていると本を読むのって当たり前のことですけど、実は、本を手に取れるというのはすごいことなんだなって。いま一緒にやってるメンバーも、震災で大切なものをたくさん失って、それでも毎日の生活を送る中で、みんな本を読む時間をすごく大切にしてる。それから町の人に、ようやく本を読めるようになったと言ってもらえたり、はじめて会う人と好きな本のことを笑って話せたり。……ここに来るまで時間はかかったけれど、やってよかったなと思えるし、メンバーのみんなもそう感じてくれてると思う。
「本を手にとれる、本の世界に入り込める」のって、確かに、精神的にも環境的にも落ち着いていればこそ、なんですよね。
その一方で、本には「非日常のなかで、束の間の日常を感じさせてくれる」ところもあるのです。
東日本大震災のときに、一冊の『週刊少年ジャンプ』をたくさんの子どもたちが回し読みしていたのを思い出します。
AmazonやKindleはたしかに便利だけれど、紙の本、そして、本がたくさんある空間にしかできない役割はまだあるのかもしれないな、と考えさせられる一冊でした。