あらすじ
幼少期に交通事故で両親と妹を亡くした17歳のプロ棋士、桐山零(神木隆之介)。父の友人である棋士・幸田柾近(豊川悦司)に引き取られるが、そこから離れざるを得なくなってしまう。以来、東京の下町で一人暮らしをする彼だったが、川向こうに暮らす川本家の3姉妹のもとで一緒に食事をするように。彼女たちとの触れ合いを支えにする桐山だったが……。
2017年4本目の映画館での観賞。
金曜日の夕方からの回で、観客は30人くらいでした。
『3月のライオン』、原作は未読なのですが、将棋を題材にした作品、僕は好きなんですよね。
将棋の世界を扱ったマンガや小説って、最近また流行っているような気がします。
映画化された『聖の青春』や『月下の棋士』のように、以前から「将棋もの」はあったんですけどね。
『月下の棋士』の名人のモデルは、谷川浩司・十七世名人だと思われるのですが、最近のマンガでの主人公の「目標」は羽生善治さんっぽい棋士になっていて、時代の流れを感じます。
この『3月のライオン』にも、村山聖さんのようなキャラクターが出てきますし、将棋の小説やマンガって、実在棋士をモデルにしているものが多いよなあ。
原作を知らないのですが、桐山五段はガラケー(フィーチャーフォン)を使っているし、将棋の研究の際にもパソコンやネットを使っている場面は出てこないので、村山聖さんがまだ生きていた時代(1990年代後半)が舞台なのかと思いきや、劇中に出てきた賞状に「平成28年6月」とあって、ちょっと驚いてしまいました。
うーむ、あえてそういう世界設定にしているのでしょうけど、いまの将棋界の現実としては、ネットやコンピュータ抜きというはちょっと不自然にも感じるんですよね。
だからといって、「スマホカンニング疑惑」とか、そういうのを入れてくれ、というわけではないですけど、人間対コンピュータ、というのは、まだマンガや小説の題材にはなりにくいというか、コンピュータ将棋が強くなりすぎてきたからこそ、「人間同士の勝負の世界」がクローズアップされているのかもしれません。
この『3月のライオン』は、将棋や勝負の世界だけでなく、「家族」というのが大きなテーマになっているんですね。
親が自分の夢を子供に託すこと、才能に見切りをつけて、「他の道もあるから」と諦めさせること。
それは子供にとって、ものすごく迷惑なことだというのはわかるのです。
でも、親もひとりの人間として生きていて、その生きざまそのものが子供に影響を与えずにはいられないところはあるんですよね。
父親と同じ仕事をしている僕としては、とりあえず指針を示してくれたことへの感謝と、違う親なら、違う生き方もあったのではないか、という疑問が、いまだに心の底にあるのです。
桐山五段が、天才と周囲から呼ばれながらも、「生きるために必死に好きじゃない将棋をやってきた」というのは、「将棋が好きで、プロになりたかったけれど、努力してもアマチュアとプロの間の厚い壁を破れなかった人」にとって、「人生の皮肉」みたいなものを突きつけられたと感じるはずです。
誰かが一生懸命、ある目標のために努力をしていて、にもかかわらず、その人の才能や実力は、その世界で突き抜けることは難しいのが明白だった場合、周囲の人は、親は、どうすればいいのだろうか?
納得するまでやってみるのを、見守るべきなのか。
無理矢理にでも、ストップをかけるべきなのか。
人生が無限だったり、リセットしてやり直せるのなら、納得するまでやらせて良いのだろうけど……
テレビドラマ『カルテット』を思い出しました。
高橋一生さんが、「いかにも高橋一生が演じそうなキャラクター」で登場してるし!
あまり表には出てこないのかもしれないけれど、学問でもスポーツでも仕事でも、何か大きなことを成し遂げようとする人は、何らかの犠牲を払っている(あるいは、犠牲を払うことに頓着しない)ことが多いのです。
桐山五段は棋士としては天才だけれど、生活者としては、けっして優等生ではない。
まあ、高校生ですから、ね。
それにしても、なぜマンガの主人公には、女性が向こうのほうからどんどん寄ってくるのだろうか。まあ、今回有村架純さんが演じている人は、ちょっと勘弁してほしい感じではあったけれど。
有村さん、ほんとうにいろんな仕事をしているよなあ。
神木隆之介さんが演じていた桐山五段の繊細さと振り回されっぷりが見事だったのですが、いちばん印象的なのは、桐山くんが住んでいる部屋でした。
昔、香港で泊まったホテルが、あんなふうに川の傍に建っていたなあ。
あんなに川に向かって大きな窓があって、カーテンもないと、私生活丸見えで部屋にいると落ち着かないのでは……
昔、電波少年(雷波少年?)で、ガラス張りの部屋で生活する、という企画があったのを思い出しました。
桐山五段、まさか露出狂なのか? あるいは、プレッシャーに負けないように鍛えているのか?
原作未読の僕でも、物語に引き込まれてしまう良い映画だと思います。
出てくる食べ物をみていると、「ちゃんと手間隙かけてつくったものを食べる」って、本当の贅沢だよなあ、なんて考えてしまいますし。
観終えたあと、「続きが気になる!すぐに後編が観たい!」っていう感じじゃないんですよ。
なんというか、「今はここでひと休みして、後編が公開されるくらいの時期に続きを観ると、ちょうど良いな」という作品です。
まあ、そんなに間隔が開かずに、4月下旬に後編が観られることがわかっているからこそ、の観る側の余裕でもあるんでしょうけど。
そうそう、ひとつ驚いたのは、エンドロールのなかで、「未成年の飲酒は禁じられています。劇中の飲みものには本当はアルコールは入っていません」と断り書きがあったことでした。
「野生動物に残酷なことはしていません」とか、「食べ物はこのあとスタッフがおいしくいただきました」は理解できるのだけれど、映画の演出としての「若気の至りで、未成年がお酒をあおってしまうシーン」にも、こういうのが必要な時代になったんだなあ。
そのうち、アクション映画でも「劇中でたくさん人が殺されていますが、殺人や暴力は禁じられています。役者は実際には死んでません」とか「おことわり」を入れる時代になるんじゃなかろうか。
というか、あらためて考えてみると、高校生の『桐島、部活やめるってよ』を公衆の面前でぶん殴るマッチョな『海猿』のほうが、よっぽど「教育上良くない」ような気がする……
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