- 作者: 深緑野分
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2015/08/29
- メディア: 単行本
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内容紹介
1944年6月、ノルマンディー上陸作戦が僕らの初陣だった。特技兵(コック)でも銃は持つが、主な武器はナイフとフライパンだ。新兵ティムは、冷静沈着なリーダーのエド、お調子者のディエゴ、調達の名人ライナスらとともに、度々戦場や基地で奇妙な事件に遭遇する。不思議な謎を見事に解き明かすのは、普段はおとなしいエドだった。忽然と消え失せた600箱の粉末卵の謎、オランダの民家で起きた夫婦怪死事件など、戦場の「日常の謎」を連作形式で描く、青春ミステリ長編。
第二次世界大戦の連合国側の兵士として、アメリカから志願して参加したティム。
料理名人だった祖母の影響で、軍のなかでは「罰ゲームのようなポジション」として軽視されていた「コック兵」となったティムがみた「戦場の謎」の数々。
僕の席は第二ライフル小隊の列で、第二分隊班となる。そして給食当番の顔も持つ。基本的には戦闘をするけれど、食事の時間には給食当番の仕事をして、管理部という委員会の命令が最優先になる。委員会に所属するには訓練時に必要な資格を取らなければならないため、たいてい「特技兵」の階級に昇進する。病人や怪我人を保健室に連れて行ってくれる保健委員、すなわち衛生兵も特技兵だ。戦闘には参加するけれど、衛生兵は護身以外で武器を使用することを、国際法で禁じられている。
いわゆる「コック兵」というのは「兵士たちの食事を取り仕切る」というだけではなく(というか、食材などはまた別に資材部みたいなところがあるんですね)、他の兵士と同じように戦闘に参加しなければならないのです。
基本的には後方に居ていい、というのではないんですね。
それだと、あんまり得な役割じゃないよなあ(その分、一般兵よりは少し階級が上になったり、給料が高くなったりはするみたいですけど)。
これを読んでいて、医者になれば、あんまり徴兵されないし、戦争に行っても「軍医」だから、戦わなくてすむ、と思っていた子供の頃を思い出しました。
その後、「東大卒のなかで、いちばん前線で死んだ割合が多かったのは医学部卒業者だった」というのを読んで、「えっ?」と驚いたんですけどね。
戦場には、というか激しい戦闘が行なわれている場所にこそ「軍医」は必要で、他の東大卒は内地勤務が多かったけれど、医者は足りなかったので東大卒でも前線に比較的公平に送られたのだそうです。
僕は東大とは程遠い偏差値の大学卒なのですが、軍医だから安全なところにいられる、というわけでもなかったみたいです。
この作品、戦場やそこに従軍していた若者たちのことをかなり詳しく調べて書かれているな、と思ったんですよ。
もちろん、僕自身には「戦場体験」はないし、実際の戦場は、もっと救いようのないものだったのかもしれませんが、少なくとも「紋切り型の戦場ドラマで幻滅」というようないいかげんなものではありません。
僕はずっと、連合国軍は、とくにアメリカが参戦してきてからは「勝ち戦」であり、物資も豊富で、比較的ラクな戦いとしてきたのだと思いこんでいたのです。
これを読むと、ドイツ軍の抵抗はかなり激しく、ノルマンディ上陸作戦以降も地滑り的に勝利が決っていったわけではなかったんですね。
なんで日本人の著者が、第二次世界大戦の連合国側の兵士たちを描いたのだろう?と疑問だったのですが、連合国側でさえこんなに厳しい状況だったならば、南方の日本軍とかはもう、「日常の謎」どころじゃなくてミステリにできなかったのかもしれません。
著者は『バンド・オブ・ブラザース』の大ファンで、その影響を受けている、というような話もされているのですが、勝っている側がこれなら、負けている側、さらに飢えている側の状況は推して知るべし、ということなんだよなあ。
正直なところ、ミステリの「謎解き」部分としては、そんなに目新しいところは感じませんでした。
でも、この小説の魅力は、「戦場の人間模様」であり、「弾薬が飛び交わない、少しだけ後方の戦場の日常」をうまく描けていることなのです。
ヨーロッパ戦線で実際に起こった歴史的事実も、巧みに織り込まれています。
謎解きの解答よりも、ティムたちの行く末が気になって、最後まで一気読みしてしまいました。