【読書感想】涙香迷宮 ☆☆☆ - 琥珀色の戯言

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【読書感想】涙香迷宮 ☆☆☆

涙香迷宮

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涙香迷宮

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内容紹介
明治の傑物・黒岩涙香が残した最高難度の暗号に挑むのは、IQ208の天才囲碁棋士・牧場智久! これぞ暗号ミステリの最高峰! いろは四十八文字を一度ずつ、すべて使って作るという、日本語の技巧と遊戯性をとことん極めた「いろは歌」四十八首が挑戦状。そこに仕掛けられた空前絶後の大暗号を解読するとき、天才しかなし得ない「日本語」の奇蹟が現れる。日本語の豊かさと深さをあらためて知る「言葉のミステリー」です。「このミステリーがすごい!2017」第1位!


 『このミス』2017年版第1位!
 ということで早速読んでみました(ミーハーなので)。
 この本のオビには「驚け!」と書いてあるのですが、確かに僕も驚きました。
 『万朝報』というゴシップ誌のさきがけみたいなのを創刊し、『ああ無情』(レ・ミゼラブル)、『巌窟王』(モンテ・クリスト伯)を翻訳し、江戸川乱歩にも大きな影響を与え、囲碁に連珠にビリヤードなど、「趣味と名がつくものには、ほとんど手を出していた」という黒岩涙香の多才っぷりは本当にすごい。


 そして、この本の作者の竹本健治さんも、すごい人だなあ、って。
 竹本さんは、この本を書くために、「いろは四十八文字を一度ずつ、すべて使って作る」という「いろは歌」を四十八首以上も自作しておられます。
 意味が通じるものをひとつつくるだけでも大変な作業だと思うのですが、こんなことができる人が今、この世の中にいるのか!と驚くばかりです。
 なんて言語能力なんだ……


 しかし、率直に言うと、僕はこの本、「読み物」としては、全然面白くなかったんですよね。
 うん、たしかにすごい、こんなにたくさん、「いろは歌」をつくって、涙香に関する知識を集め、囲碁五目並べに対する知識も詰め込んで。
 僕は48首の「いろは歌」を、最初はひとつずつ吟味して読もうとしていました。
 でも、頭に入ってこないし、「いろは歌」って、「それをつくる技術はすごい」のだろうけど、観賞する作品としてはそんなに「深い」とか「作者の背景が感じられる」ものではない。
 映画のエンドロールのスタッフの名前みたいなもので、「そこにあるのだから読まなくては、意味を見いださなくては申し訳ない」ような気分にはなるのだけれど、大真面目にやろうとすると疲れるだけで、結局、「わからないものは、わからないな」という結論に達し、読み飛ばしてしまうのです。


 「謎」は豪華絢爛なのだけれど、「謎解き」「事件」の経緯に関しては、「古き良きミステリ」という感じで、「えっ、事件の結末って、これだけなの?」って、拍子抜けしてしまいます。
 探偵役の天才囲碁棋士・牧場智久とその恋人・類子は高校生なのですが、この類子さんの喋りかたや行動が、1980年代後半に高校生だった僕からみても、「こんな高校生、僕の高校時代にも絶滅してたぞ……」というアナクロなもの。
 登場人物がみんな「牧場くんすごい!天才!」とひたすら崇め奉るという気持ち悪さ。
 それこそ、黒岩涙香江戸川乱歩の時代の「探偵小説」を再現した、ということなのかもしれませんが、なんというか「すごいことをたしかにやっているんだろうけど、自画自賛が鼻について、うんざりしてくる」のですこの小説。
 小道具はものすごく豪華なんですよ。
 でも、「作家の努力と才能をアピールするだけの小説」じゃないのかこれは。
 利休の茶道具でもてなされるとしても、「これ利休なんですよ、すごいでしょう。やっぱり利休っていうのは……」と延々と自慢されながらだと、居心地悪いよね。


 『ノックス・マシン』が1位だったときも感じたのですが、どうも『このミス』に投票している人たちって、「ミステリマニアにしかわからない符牒」を高く評価しがちなのではなかろうか。
 あれはそういうランキングだ、と言われればその通りで、「一般向け」を意識しすぎると、毎回、米澤穂信宮部みゆき東野圭吾、みたいなランキングになってしまうのでしょうし、こういう「尖った作品」が1位で、話題になることには意義があるのでしょうけど。

 
 黒岩涙香の大ファンだとか、「言葉遊び」が大好き、という人は、面白く読めると思います。
 僕みたいな「『このミス』1位だから読んでみよう!」というミーハー層には、「よくこんなの書けたなあ、すごい、驚いた!……でも、あんまり面白くない」です。
 そもそも、「バカにもわかるエンターテインメント」なんて求めてないんだよ、って人のための作品なんだろうな。


 たしかに『このミステリーがすごい!』であって、『このミステリーが面白い!』じゃないものね。


このミステリーがすごい! 2017年版

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