- 作者: 伊賀泰代
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/11/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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Kindle版もあります。
- 作者: 伊賀泰代
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/11/25
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内容紹介
かつて日本企業は生産現場での高い生産性を誇ったが、ホワイトカラーの生産性が圧倒的に低く世界から取り残された原因となっている。生産性はイノベーションの源泉でもあり、画期的なビジネスモデルを生み出すカギなのだ。本書では、マッキンゼーの元人材育成マネジャーが、いかに組織と人材の生産性を上げるかを紹介する
この本の著者の伊賀泰代さんが書かれた『採用基準』も読みました。
fujipon.hatenadiary.com
『採用基準』は「リーダーシップ」についての本なのですが、僕は書かれていたこのエピソードがものすごく印象に残っているのです。
日本では、大きなプロジェクトが行われることになると、すぐに「誰がリーダーになるのか(なるべきか)と話題になります。大事故が起こって深刻な問題の解決が必要になった際にも、難局を乗り切るために強いリーダーシップの必要性が叫ばれます。このように日本人にとってのリーダーシップとは、特殊な出来事が起こった時に必要なものという認識が強く、「日常的に誰もが発揮するもの」とは考えられていません。
そしてそういった重要なプロジェクトのリーダーになるのは、有名人であったり第一人者と呼ばれる専門家であったりと、傑出した人ばかりであるため、「一般の人はリーダーになる機会などない。リーダーシップは一般人には無関係なスキルである」、といった誤った受け止め方が定着しています。
しかし本来リーダーシップとは、そういった特殊なイベントを前提としない概念です。それは普通の人によって日常的に発揮される、ごく身近なスキルなのです。
たとえば、マンションの管理組合の会合にお菓子の持ち寄りがあったとしましょう。会合が終わり、帰り際になってもテーブルの上にはお菓子や果物が残っています。貸し会議室なので残していくわけにもいきません。お菓子の数は全員分には足りないので、ひとつずつ分けるのも不可能です。みんながそれをすごく欲しがっているわけでもありません。
この時、「このお菓子、持って帰りたい人はいますか。お子さんがいらっしゃる方、どうぞお持ち帰りくださいな」と声を上げる人が、リーダーシップのある人です。
僕はいまでも、どちらに決めても大きな問題はないはずのことに「出しゃばりな人」と言われるのを気にして誰も口火を切らないとき、この「管理組合の会合のお菓子の話」を思い出して、少し勇気をもって発言するようにしています。
実際に感じ悪いヤツだと思われているかもしれませんが、それで自分の時間もみんなの時間もムダにしなくてすむのだから。
伊賀さんは、ものすごく説明が上手い人なんですよね。
うまく説明されて、そうか、そうすればいいのか!ってわかったような気がするのだけれど、後で冷静になって考えてみると「自分にはそれを実行するだけのスキルやモチベーションが無い」という事実に落ち込んだりもするわけです。
それでも、まずは「現実とその対処法を知る」ことから、すべては始まります。
伊賀さんは、マッキンゼーのコンサルタント、そして人材育成部門のマネージャーとしての経験から、日本企業や日本社会と米国系の企業や社会には、ふたつの大きな違いがあると感じるようになったそうです。
ひとつは、前述した「リーダーシップ」。
そしてもうひとつが、今回のテーマである「生産性」だったのです。
マッキンゼー入社当初は、海外メンバーの圧倒的な生産性の高さに何度も驚かされました。それは単に「頭がよい」「仕事が速い」という話ではありません。
やるべきことの優先順位を明確にし、優先順位の低いことは大胆に割り切ってしまう判断の潔さや、常に結論を先に表明し、無駄な説明時間や誤解が生じる余地をそぎ落としてしまう直截なコミュニケーションスタイルなど、その働き方にはあらゆる場面において、少しでも生産性を高めようとする強い意志が感じられたのです。
それは上司が帰らないと自分も帰れないといった雰囲気や、ひと言も発言しないまま黙々とメモをとるだけの会議参加者、そして、枝葉末節にこだわり延々と意思決定を引き延ばす生産性の低い議論などとは対極にある働き方です。
それだけではありません、リスクをとることを躊躇しない姿勢の根底にも生産性の意識があります。彼らが既成概念を排してゼロベースで考えようとするのは、それによって生産性が大幅に上がると計算しているからです。
ビジネスにおけるリスクは「できる限り避ければよいもの」ではありません。それによって得られる成果との比較において許容されるか否かが決まるのであり、もし極めて大きなリターンが期待できるなら「積極的にとりにいくべきもの」として認識されます。つまり、「生産性が大幅に上がるなら従来のやり方に固執する必要はない。リスクをとることも厭うべきではない」というように、生産性をさまざまな場面における判断基準として使っているのです。
日本では「生産性を上げる」ために、コストを削減することがまず意識されるのですが、それだけでは限界があるのです。
だから、労働時間を上げたり、労働者を増やしたりする以外の方法で、成果を増やすために何ができるかを考えなければならない。
時間や人をどんどん投入しても、それに見合った「成果」が得られることは少なく、むしろ生産性は下がり、働いている人が疲弊してモチベーションも下がっていく。
残業代をもらうためだけに会社に残っているような人は、「生産性の向上」とは対極の存在なんですね。
それでも、「あいつはいつも定時に帰りやがって」と、自分が勤務時間中に集中していなかったにもかかわらず、陰口を言う人もいて、同調する人も少なくない。
だいぶ、そういう雰囲気も変わってきたみたいではあるのですけど。
生産性を上げるためのふたつの方法、「成果を上げる」と「投入資源量を減らす」には、さらにそれぞれを達成するための手段として改善(インプルーブメント)と革新(イノベーション)というふたつのアプローチが存在します。つまり生産性を上げる方法は、全部で四種類、存在するのです。
伊賀さんは、この四種類についても、具体例をあげて丁寧に説明されています。
日本では工場での効率化が世界的にも有名になった一方で、その成功に頼りすぎて、手を動かさない仕事で「生産性」をあげるための工夫や努力が不十分になってしまったとも考えられます。
「生産性」を意識していくためには、上司や組織の「評価基準」を変えていくことも大事なのだと伊賀さんは仰っています。
勤務評定や研修制度だけではなく、ふだんの接し方についても。
たとえば、スタッフが徹夜して仕上げてきた資料の出来がとてもよかったとしましょう。それを見て「すごいな! よく頑張った!」と上司が褒め、高い評価を与えれば、そのスタッフは次も徹夜をします。それを見ている周りのスタッフも同じことを始めます。この上司の言葉は「仕事の出来と、徹夜をして頑張ったこと」をセットで褒めていると解釈されてしまうからです。
これでは結局のところ、組織の意思として長時間労働を推奨しているのと何も変わりません。そうなれば、育児や介護など家庭の事情がある人は、「自分はこういう職場では高い評価を得にくい」と考えてしまいます。
そうではなく、上司は部下に「資料はよくできている。すばらしい。ところでこれは、いったい何時間かけて作ったんだ?」と問うべきなのです。
「徹夜しました」と言われたら、「徹夜!? じゃあ、おとといからやってるから全体で30時間くらいかけたのか? なるほど、今回の資料は本当にいい出来だから、次はこのレベルの資料が15時間くらいでできるようになったら一人前だな。そうなったらすごいと思うよ」と褒めるべきなのです。
反対に、ごく短い時間で仕上げたと言われたら、「それだけの時間でこのレベルの資料を完成させられるなんてすばらしいな。どういうやり方で情報収集や分析をやっているのか、ぜひ次の会議でみんなに方法論を共有してくれ」と褒めればよいのです。
日常的にこういう褒め方をしていれば、本人はもちろん、それを耳にする全スタッフが「どうやったらより短い時間で高い成果を出せるようになるか」と考え始めます。職場の全員に生産性の意識が芽生えるのです。
そうか、上司の評価のしかたひとつで、職場の意識を変えることができるのか……
逆に、どんなに部下が「生産性」を上げようとしたとしても、「とにかく長時間がんばったヤツが偉い」という上司のもとでは、それを実行しづらくなる、ということなのです。
こうして言われてみれば「なるほど」と思うのだけれど、現場では、つい「よくそんなに長い時間がんばって仕上げたな、よくやった」って褒めたくなるものですよね。
というか、「頑張った人」を手放しで褒めないと、部下に嫌われるのではないかと怖れてしまう。
でも、それを続けていたら、部下の働き方は、「より長時間働くほう」にシフトしていくのです。
仕事をやっていく上で、身近な上司に評価される、というのは大事なことですから。
今の日本では、こういう「評価する側の意識改革」が、いちばんのネックになっているのかもしれません。
僕はずっと「産休や育休は当然の権利だと思う。でも、現場としては、ただでさえギリギリの仕事量なのに、その人の仕事もみんなで分担しなければならないのはキツい」という理念と現実のギャップを感じていました。
そういう現実に対して、伊賀さんはこんな解決法を提案しています。
最悪なのは誰かが休みをとることになったとき、その人の仕事をそのまま”他の誰かに適当に割り振る”ことです。これは、「残りの四人に25%長い時間働いてもらって問題を解決しよう」という方法ですが、これでは残ったメンバーはたまりません。働くモチベーションや組織へのコミットにも悪影響が出てきてしまうでしょう。
たとえ数カ月とはいえ、ひとりメンバーが抜けるのは大きな負担です。だからこそ、こういった機会をとらえ大幅に生産性を上げられる「業務仕分け」を導入すべきなのです。この場合、休暇をとる人だけでなく、他のメンバーの仕事も含めて部門全体の仕事の中から「かかっている時間や手間に比べ、価値の低い仕事を割りだし、やめてしまえないかと検討します。
5人がそれぞれ自分の仕事の10%を廃止できれば、合計で0.5人分の仕事が減るのですから、ひとりが休みをとっても、残りの0.5人分の仕事をどう皆で支えるかと考えればよくなります。
なくせない仕事についても、「これを半分の時間で行える方法はないか」と考えます。IT化や得意な人への集約、得意な人から苦手な人へのスキル移転など、方法はいろいろあるはずです。
正直なところ、この本を読んでいると、「素晴らしい内容だけれど、これを実行できるのは、マッキンゼーのような極めて優秀な人材が集まっている組織だからなのでは……」とも思うんですよ。
同じシステムとスケジュールで練習しても、すべてのサッカーチームがバルセロナになれるわけじゃないだろう、と。
でも、参考にできるところも少なからずあると思うし、そこで「うちはマッキンゼーじゃないから」って投げ出すよりは、マッキンゼーのいいとこ取り、のほうが建設的なはずです。
少なくとも、「ダラダラ長時間働くことを上司が評価する習慣」が改善されるだけでも、だいぶ違うと思うんですよね。
ただ、部下としては、自分なりにがんばっても仕事が終わらないにもかかわらず「お前は生産性が低い」なんて言われたら、けっこうつらそうです。
そこで「それならもっと早く終わらせてやる!」って、向上心に火をつけられる人ばかりだったら、良いのだろうけど。
- 作者: ちきりん
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
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