- 作者: ちきりん
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 2016/11/25
- メディア: Kindle版
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Kindle版もあります。
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内容紹介
仕事よりも、自分優先で生きる
方法を教えます!残業ばかりで限界の管理職、正樹。
家庭と仕事の両立に悩む母親、ケイコ。
働きづめのフリーランス、陽子。
会社が伸び悩んできた起業家、勇二。多忙で余裕のない4人の物語からわかる「忙しさの本質」と「日本で働く人たちの問題点」とは?
そして今、世界中で進みつつある「大きな変化」とは?
2つの視点から明らかになる、1つの重要な概念と方法論。超人気“社会派ブロガー"が「現代を生きぬくための根幹の能力」を解説する、大好評シリーズ第3弾!
ちきりんさんの新刊。
今回のキーワードは「生産性」です。
「生産性を上げる」っていっても、それは企業とか「働かせる側の都合」みたいなもので、いかに人間を効率よく働かせて稼ぐか、っていう話じゃないの?って思ってしまいますよね。
僕も正直、そんなふうに斜に構えて読み始めたのですが、実際は「ひとりひとりが効率よく時間を使うためには、どうすればいいか?」ということ、まさに「自分の時間を取り戻すには、どうすればいいのか」が、書かれている本なのです。
冒頭に、こんなデータが紹介されています。
2016年、厚生労働省は初めて「過労死等防止対策白書」を作成しました。現状を把握し対策を考えるのほいいことですが、問題はそれほど深刻化しているのです。
同白書によると、仕事を理由のひとつとする自殺は年間2000人以上、業務による心理的負荷を原因とする精神障害は、労災請求件数だけでも1500件と15年前の7倍です。当然、労災など請求できず、仕事を原因とするうつ病で苦しむ人の数は、これより
桁違いに多いはずです。
最近は政府も「働き方改革」と称して長時間労働を是正しようと動き出していますが、「働く時間を短くしましょう」「はい。そうしましょう」と言って問題が解決できるほどコトは簡単ではありません。
そうなんですよね、「労働時間を短くしましょう」「家族との時間を大切にしましょう」「趣味を持ちましょう」と言われても、「じゃあ、具体的にどうすればいいんだよ、目の前の仕事が減るわけじゃないのに!」って言い返したくなります。
ちきりんさんは、「今後の社会を人生を楽しみながら生きていくために身につけるべき根幹の能力」をテーマにこの本を書いたと仰っています。
今回の本では、ふたつの異なる視点からこの問題にアプローチしました。個々人が直面する超多忙な生活からの脱出方法について考える視点と、今の社会で急速に進みつつある変化の本質に焦点を当てた視点です。
この本を読んでいると、自分の「非効率的な働き方」を反省するのと同時に「近い将来、人間の仕事そのものがどんどん機械やコンピュータに奪われて、働かなくてよくなって(あるいは、仕事がなくなって)しまうのではないか」とも思うんですよ。
働くことで、かえって他の人の足を引っ張ってしまうような人には、働かなくても生活できるくらいのお金を渡して(ベーシックインカムなど)、労働から「退場」してもらう、という未来もありうる、というのは、理屈としてはわかるのだけれど、「なんか居心地が悪いなあ」と感じずにはいられなかったのですけどね。
人間が身体を動かす仕事というのはどんどん減っていくのはまちがいない(「小売店の販売員」というのは、今後もっともコンピュータによって代替されるであろう仕事だそうです)。
そして、多くの「頭脳労働」とされているものも、コンピュータによって置き換えられていくだろうと考えられます。
計算で電卓に勝てる人がいないのと同じように、特許や法律の判例など、膨大な資料の中から必要な情報を見つけ出すといった仕事で、人工知能化した検索エンジンに勝てる人など存在しません。会計や監査など財務系の仕事も同じです。天気予報はもちろん、医療分野でもレントゲンやCT画像の診断など、デジタルデータを分析して結論を導くといった仕事において、人間に勝ち目があるとは思えません。
2016年の夏に報道されたあるニュースは、多くの人を驚かせました。血液の癌と診断され東京大学医科学研究所に入院した60代の日本人女性の治療にあたり、医師は2種類の抗癌剤を処方します。しかし回復は遅く、敗血症など重い副作用も発生しました。
そこで医師は、2000万件もの癌関連の医学論文が入力されたIBM開発の人工知能ワトソンに女性の遺伝子情報を読み込ませました。するとワトソンはわずか10分で女性の病気が「二次性白血病」という特殊なタイプの癌だと診断。抗癌剤の変更を提案してきたのです。そして医師がその抗癌剤を使ったところ、なんと女性は数ヶ月で回復、隊員することまで可能になりました。これは人工知能により患者の命が助かった日本で初めての臨床例と言われています。
この話、僕も耳にしたとき「ああ、もうこんな時代になったのだなあ」と思ったんですよね。
実際、どんな優秀な医師でも、2000万件の論文なんて一生かけても読めるはずもない。
もちろん、人間の臨床症状というのは言語化しにくいものがあるし、そもそも、実験や症例報告をもとにデータベースをつくるのは現時点では人間にしかできないので(ちなみに、血液の癌というのは、遺伝子変異についての研究が進んでいる分野です)、すぐにどんな癌でもワトソンに任せればいい、というわけにはいかないでしょう。
それでも、人間の医者として「診断することの難しさ」を経験してきた立場からみると、そんなに遠くない時代に「ビッグデータによる診断」のほうが、平均的な医者のそれよりも優位になる時代が来るのではないか、と予想せずにはいられないのです。
裁判だって、「判例主義」ならば、ワトソンにデータを入力すれば、すぐに判決が出る、という時代になる可能性は十分にあります。
あとは、人間側がそれを受け入れることができるか、という話だけですが、生まれたときからコンピュータに接してきた世代には、「むしろ、その方が『公正』だ」と考える人が多くなるのではないかと思うんですよね。
もう、人間がやるべきことは、コンピュータの管理と「遊ぶこと」だけになってしまうのではなかろうか。
まあ、すぐにそんな時代になるわけでもないので(ただし、そんなに遠い未来でもないような気もします)、とりあえず、よりよく今を生きるためには、「個人として、生産性を上げる」ことが求められているのです。
それには「全部をやるのではなく、優先順位の高いものから進めていく」ことや「自分が苦手としているものは、それを得意としている人に任せる」ことを意識すれば良いのです。
実は、「そもそもすべての仕事をやる必要はない」と考えるだけで、仕事の生産性を大幅に上げることができるのです。
どんな人にも、そしてどんな職場でも、極めて価値の高い重要な仕事と、それほど価値の高くない仕事があります。それらを「すべてやろう」と考えると、なぜか「大して重要ではない仕事」ばかりに時間が使われます。
というのも、多くの場合「重要で価値の高い仕事」は、「やれば終わる仕事」ではないからです。それらは、しっかりと考え、あれこれと試行錯誤し、いろいろな方向から検討して初めてなんとかなる仕事であり、それでも結果が出るとは限らない仕事です。反対に「どうでもいいような仕事」「優先順位の低い仕事」のなかには、「やれば終わる仕事」「時間をかければ必ずできる仕事」がたくさん含まれています。
このため全部をやろうとすると、ほとんどの人が最初に「やれば終わる仕事」に手をつけます。「どうせ全部の仕事をやらないといけない。だったら、まずはさっさと終わるものからやろう」と考えるからです。
ところが多くの場合、そういう仕事をやっている間に時間はどんどん減っていき、結果としては最後に残った難しくて重要な仕事に割り当てられる時間は、ごくわずかなものになってしまいます。
これは、仕事の段取りとしては最悪です。本来は常に「価値の高い重要な仕事」から手がけ、それらに十分な時間をかけたあと、残った時間で価値の低い仕事に手をつけるべきです。ところがそうすることは簡単ではありません。
「すべての仕事をやる必要がある」と考えていると、「この仕事は重要だけれど、簡単には終わらない難しい仕事だ。だからこの仕事に先に手をつけたら、他の仕事が終わらない可能性がある」という不安に襲われるからです。
ああ、自分のことを言われているようで、読んでいてつらかった……
いくつも仕事を抱えてしまうと、「とりあえず簡単に終わりそうなもの」を片付けて、スッキリしてから難しいものに取りかかろう、と考えてしまうんですよね。
やっぱり「終わった!」っていうことがわかりやすい仕事のほうが、モチベーションを上げやすい。
でも、簡単なはずの仕事も思ったほどスムースには進まず、時間はどんどん無くなっていく。
実際は、「価値の低い仕事」は、少々遅れても、あるいは、いざとなったらやらなかったり、先送りにしてもそんなに問題はないはずなのに「とりあえず何か終わらせた気分になりたい」から、そちらに手をつけてしまうのです。
こういう考え方って、本当に大事だし、思い返してみると「効率的に仕事をしている人」は、たしかに「仕事の優先順位」を大事にしているのだよなあ。
これを読んでいると、ちきりんさんは「生産性向上マニア」で、「そこまで効率を上げることにこだわるのは、そういう趣味を持たない、僕のような、いいかげんな人間にはキツいな」とも感じます。
ただ、これを参考にして少しでも工夫することで、自分の時間を作れる可能性はありますし、少なくとも「もうちょっと自分の時間がほしい人」にとっては、この本の代金と読むためにかかる時間は「生産性がかなり高い」のではないかと思うのです。