- 作者: 牧野知弘
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/08/20
- メディア: 単行本
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Kindle版もあります。
- 作者: 牧野知弘
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2015/09/04
- メディア: Kindle版
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内容(「BOOK」データベースより)
東京五輪を前にマンション価格は上昇中。だがその裏で管理費や修繕積立金の滞納、相続権の拡散など多くの問題が生まれつつある。空室急増でスラム化する大規模マンション、高齢化で多発する孤独死、中国人に牛耳られる理事会…全国600万戸時代を迎えたマンションに未来はあるのか。
今度は、マンションまで大崩壊か……
昨年出版された、同じ著者の『空き家問題』を読んだ僕としては、「それじゃいったい、どこに住めばいいんだろう……」と暗澹たる気持ちになりました。
ずっと賃貸、という選択肢を著者は勧めているようにも読めるのですが、現実問題として、高齢になると、部屋を新しく借りるのも難しくなる、というのも耳にしますし。
「憧れの一軒家」が、「お荷物」になる時代は、すぐそこに迫っているどころか、すでにもう、そうなっているのです。
僕の周囲にも「田舎に実家があって、いまは両親が生活しているけれど、自分たち兄弟の生活の基盤は都会で、将来、実家をどうしようか悩んでいる」という人が少なからずいるんですよね。
でもそれは「資産」だから、羨ましい、と思えたのは昔の話。
誰も住まないし、借り手もない。売ろうにも売れないのに、固定資産税はかかるし、手入れもしなくてはならない、という「実家」が「負担」になってしまっている人は多いのです。
いや、田舎の過疎化している一軒家ならそうかもしれないけど、タワーマンションなら、投資としてもイケるんじゃない?
まだまだ「不動産信仰」みたいなものは根強い。
一軒家は無理だし、「家賃を払うだけで、後には何も残らない賃貸生活」よりは、ちょっと無理をしてでも、マンションくらい、それも、交通の便の良い場所のタワーマンションなら、大丈夫なんじゃない? 最近のタワーマンションはスポーツジムとかもあるし、窓からの眺めも最高だし……」
そう考えている人は、不動産屋のモデルルームで「仮契約」の書類に印鑑を押す前に、ぜひ、この新書を読んでみていただきたいのです。
日本の人口は減っていき、少子高齢化が進んでいくなかでも、新しい住居はどんどん建設され続けています。
とくに、都心のタワーマンションは、東京オリンピック特需もあって、いまや新築マンションの4分の1くらいの戸数を占めているそうです。
高齢化、過疎化といえば「田舎」のこと、だと思われがちなのですが、著者は、人口移動の「新しい潮流」について、こう仰っています。
首都圏で個人住宅の空き家が全国を上回る勢いで増加しているのは、人口の都心部への回帰現象がその原因のひとつとなっていることを指摘しましたが、取り残された首都圏郊外の状況はどうなっているのでしょうか。
たとえば、神奈川県はJRでは東海道線、京浜東北線、南武線、横浜線など、私鉄では小田急電鉄、東急東横線、田園都市線、相模鉄道、京浜急行電鉄など数多くの路線が走り、東京に通勤する住民の足となってきました。
ところが、最近県内にあるJRや私鉄の各駅からバス便の戸建て住宅街に異変が起こっています。人口増加のストップと住民の高齢化です。
横浜市の金沢区と栄区を例にとってみましょう。ここの住民の多くが、JRの京浜東北線や京浜急行電鉄を利用して東京方面に通勤しています。昭和40年代後半から50年代にかけて、公団や大手不動産会社などが山を切り開き、戸建て分譲事業を展開した首都圏における典型的なベッドタウンです。
この2つの区(金沢区と栄区)、典型的な「東京のベッドタウン」の人口構成を1999年と2014年で比較してみると、どちらも、満15歳から64歳までの人口(生産者人口)が10〜15%低下し、満65歳以上の高齢者人口は、金沢区が13.5%から24.9%、栄区では12.1%から27.5%まで上昇しているそうです。
ちなみに、高齢者の人口比率の全国平均は、25.1%。
横浜でも「高齢化」が進んでいるなんて、九州在住の僕は、想像していませんでした。
オシャレな街、というようなイメージしかなくて。
両区の駅からバス便の戸建て住宅エリアになると場所によっては人口がこの15年間で20%以上も現象しているエリアが出始めています。原因はこの家で育った子女が都心にマンションを買い、親の家には戻ってこないからです。現代の忙しい働き手は、東京へ1時間半以上もかけて通勤するという選択はせずに、都心部のマンションで一人暮らし、または夫婦共働きで子供を保育所に預けて暮らしているのです。「郊外に住む」という選択は物理的にもありえなくなっています。
いっぽうで人口の都心回帰の現象を裏付けるように、2014年東京都中央区の生産年齢人口は、全体人口のなんと71.8%を占めるに至っています。15年前の横浜市栄区の状態です。中央区はいまや働き手が多い、「活力溢れる街」に生まれ変わっています。
これまで日本経済を支え、大量の東京への通勤者を受け入れ、家族を育ててきた首都圏郊外は多くの街がその役割を終え、今や全国平均を上回る「高齢者の街」へと変身しているのです。
都心部に若い人が集まり、郊外に高齢者が取り残される。かつてドーナツ化現象と呼ばれ、鉄道沿線に沿って放射状に拡散した人口は「逆回転」を始め、都心部に収斂していることがデータの上からも裏付けられているのです。
この「人口の逆回転」を支えている要素の一つが「タワーマンション」と呼ばれる、大型で戸数の多いマンションの建設なのですが、2020年の東京オリンピックに向けて、人件費や円安による建設資材の高騰で、今後数年の間に、マンションの分譲価格は20〜30%も上昇するという観測もあるそうです。
気をつけなければならないのが、マンション価格の上昇が建物建設費の値上がりを主因としていることです。価格が上昇するということはマンションに対する需要が盛り上がっているからと考えがちなのですが、実情はやや異なります。主因が建設業界の構造的な問題に帰属するからであり、原価が上昇せざるを得ない中での値上がりであることに留意しなければなりません。建物の価値は経年で下落していくものです。したがって建設費の上昇に基づいた分譲価格の高騰は、今後の資産価値の上昇を約束することにはつながりません。
このように、製品でいえば原価に相当する土地・建物の価格に間接費用が上乗せされた新築マンションは、不動産価格という意味で必ずしもお買い得とはいえないのです。これを喜んで買うという行為は、車を新車で買うという行為とほとんど同じ動機と言ってもよいのかもしれません。つまり、見栄やプライドに近いものなのです。
住宅が量的に十分に供給されていないマーケットにおいては、新築物件を購入していくことはある意味で「やむを得ない」行為と言えますが、住宅ストックが満ち足りてしまった現代において、いつまでも「割高」である新築マンションを追い求めるという行動は、やや理解に苦しむことともいえます。
不動産のプロの間でよく話題になるのは、マンションは築5年から10年の中古マンションを購入するのが一番お得ということです。設備機器はほぼ最新のものであるし、まだ修繕や更新は必要としません。建物はすでに存在するので、新築物件を買う際のような「青田買い」に伴うリスクもありません。
たしかに「新築を買う」という精神的な充足を抜きにしてしまえば、比較的新しい中古マンションを買うというのは、合理的な選択なのかもしれませんね。
多くの新築マンションは、実際の完成形がみえないまま、イメージ図とモデルルームをみて購入されているわけで、一生ローンを払い続ける買い物としては、けっこうなギャンブルではあります。
僕自身も分譲マンションに住んでいるのですが、この新書を読んでいて痛感したのは「自分の代で『住みつぶす』つもりで使用するのがマンションのもっとも合理的な住みかたなのだな」ということでした。
「税金対策としてマンションを買いませんか?」なんて電話、いまでもときどきかかってくるのですが(どこで電話番号を調べてくるのだろう……)、ああ、そんなもの買わなくてよかったなあ、と(買えませんけど)。
マンションの主な価値は「建物」であり、その建物は、経年劣化が進んでいきます。
一軒家であれば、所有者の権限で「リフォーム」なり、「更地に戻す」なりできるのだけれど、マンションとなると、大勢の住人の意向がなかなかまとまらず、建物が古くなっても「お金がないから」と建て替えもできなくなってしまうのです。
マンションの世帯主は高齢化し、相続したがる人もおらず、「ゴーストタウン化」していく一方。
自分が高齢で、子供たちに相続する予定もなく、年金暮らしだとしたら、そりゃ「このマンションの資産価値を高めるため、あるいは長い間住み続けるために、改修工事を!」と呼びかけられても、「このままでいいよ」って言うのもわかるんですよ。
高齢化により、そういう「住みつぶせればよい」という住民は、今後も増えていくはずです。
マンション管理会社に勤める私の友人が語るには、
「クレームを言ってくる住民は昔は子供のいない夫婦や独身者だったのですが、今は違います。子供は育って独立して社会人になったような高齢者が言ってくるのです。中にはお孫さんもいらっしゃるだろうに。身勝手に自分の権利ばかり主張する人が本当に多くなっています」
マンションという共同社会は建物内だけでなく、建物の周囲も含めて一定の社会のルールの中で営まれるはずのものです。ところが、最近特徴的なのは、コミュニケーション能力に欠けたクレーマーが高齢者に目立つようになっていることです。高齢になるといろいろなことが煩わしくなったり、社会からの疎外感、孤立感が高じてうつ病を発症する人も多いようです。
こうした高齢者が主体となった老朽化マンションでは、コミュニケーションがうまく機能しなくなっているのです。大規模修繕などを提言しても、経済的な事由はあるのでしょうが、とことん反対して議論に参加しない高齢者も多いと聞きます。
ましてや、空き住戸が増え、住民も少なくなったマンションでは問題はさらに深刻なものとなります。空き住戸となっている区分所有者との連絡もままならない中、マンションに取って本当に必要な修繕や建て替えといった議論がそもそも叶わない状況に陥っているのです。
このことが行き着く先は共同体の崩壊です。みんなが勝手に生きる、他人のことはどうでもいい。建替えなどの議題があがると、色をなして反対する高齢者がよく口にするセリフがあります。
「ワタシは死ぬまでここに住むんだ。ほっといてくれ!」
「わしの眼の黒いうちは勝手なマネはさせない。出て行ってくれ!」
テレビドラマにでも出てきそうなセリフですが、こうした発言者の多くは、もはや共同体の構成員として発言する資格はありません。
マンション住まいのメリットとして、一戸建てに比べると、隣人との人間関係に気を遣わなくてもすむ場合が多い、というのがあります。
しかし、マンションの場合は、より多くの人と利害を共有する関係になってしまうこともあるのです。
もし自分が独居・高齢で、そのマンションを相続する予定もないにもかかわらず、建て替えに必要な費用を頭割りで請求されたら、「個人的には、拒否したほうが得をする」はずです。
それが「マンションという社会全体の利益」に反するとしても。
いまでも、「管理費を払ってくれない居住者」は、けっこういるようですし。
僕も数年前、持ち回りで、住んでいるマンションの役員をやったのですが、その中で、「管理費延滞者への対策」が毎回議題に挙がっていました。
ああ、こんなことまで管理組合がやらなければならないのか……と驚いたんですよね。
住んでいる人の経済状態にも違いがありますから、仕方が無いことではあるのでしょうけど……
そもそも、マンションというのは、「そこを仮住まいとして、一軒家を建てようと思っている家族」から、「自分は住まずに、資産としての運用を考えているひと」「ここを終の棲家にするつもりの独居高齢者」まで、たくさんの人が同居しているわけで、意思統一というのは大変難しいのです。
ちなみに著者は「タワーマンションの価値は『眺望』くらいで、それも1週間で飽きる」と述べています。
実際に住んでみると、夜景に感動するのは入居直後だけで、朝の出勤時にはエレベーターが来ないし、洗濯物は外に干せないし、もし災害が起こったときに、何十階もの高さを水の配給のために上り下りするのは現実的ではないし……と。
人は生きているかぎり、どこかに住まなければならないわけで、こうして、一軒家はダメ、分譲マンションもダメ、賃貸は金銭的、あるいは住み替えがしやすいというメリットが大きいけれど、入居できるか、ずっと住み続けられるかどうか不安、というのを知ると、年を重ねていくことがつらい社会になっていくなあ、と嘆息せずにはいられません。
ここでは紹介しきれない、「現在、そして近い将来のマンション事情」が、歯に衣着せずに書かれている新書ですので、もし、何千万円もするマンションを購入しようと考えているのであれば、その決断の前に、この1000円もしない新書を読んでみることをオススメします。
- 作者: 牧野知弘
- 出版社/メーカー: 祥伝社
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