【読書感想】流 ☆☆☆☆ - 琥珀色の戯言

琥珀色の戯言

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【読書感想】流 ☆☆☆☆


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Kindle版もあります。

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内容紹介
青春は、謎と輝きに満ちている――
台湾生まれ、日本育ち。超弩級の才能を持つ「このミス!」出身、大藪賞受賞の異才が、はじめて己の血を解き放つ!


何者でもなかった。ゆえに自由だった――。
1975年、偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父は何者かに殺された。
17歳。無軌道に生きるわたしには、まだその意味はわからなかった。
大陸から台湾、そして日本へ。謎と輝きに満ちた青春が迸る。
友情と恋、流浪と決断、歴史、人生、そして命の物語。
エンタメのすべてが詰まった、最強の書き下ろし長編小説!


 第153回直木賞受賞作。
 日本と中国、そして、太平洋戦争後は大陸との関係に翻弄される「台湾」という土地で生きる戦後生まれの若者の半生記です。
 読んでいて、当時の台湾の「空気感」みたいなものがかなり鮮烈に伝わってくるので、台湾出身である著者の東山彰良さんの自伝なのか?と思ったのですが、現在46歳の東山さんが少しだけ上の世代のことを描いたフィクションなんですね。
 

 率直に言うと、僕にとっては、ちょっと評価が難しいというか、読んでいて何度か眠くなってしまいました。本当に申し訳ないんだけれども。
 なんだか、百田尚樹さんの迷作『錨を上げよ』みたいなんですよこれ。
 前半は、主人公の「昔のオレは悪かったんだぜ」みたいな話が延々と続き、「で、これ、どこから台湾と中国をまたにかけた『エンターテインメント超大作』になるんだろう?」と思っているうちに、「あれ、Kindleの表示では、もう70%くらいになってるんだけど……」と。
 うーむ、本当に困ったなこれは。
 台湾という国に満ちていた「気分」とか「時代背景」が、これほど切実に伝わってくる作品は滅多にないのだけれど、「エンターテインメント小説」としは、あまりにも起伏が乏しすぎるし、「ミステリ」としても、「恋愛小説」としても、「既読感があるプロット」なんですよ。
 だから、「ミステリ」として期待して読もうという人には、オススメしかねます。
 青春小説としても、あまりにも「意味ありげに登場してくるわりには、あっさり退場していく人物」が多すぎるような。
 ねっとりと青春時代や軍での生活が語られるわりには、途中からは急速にスピードアップし、『週刊少年ジャンプ』の打ち切りマンガのよう。


……と、悪口ばかり並べてしまったようですが、そういう「小説的な整合性とか効率に、あえて背を向けて、ゴツゴツした人生の断片をそのままぶつけてくるような感じ」というのが、味でもあるのですよね。
 何より、人と人がいがみあったり、憎しみの連鎖が続いていく理由みたいなものが、この作品からは切実に伝わってくるのです。
 資本主義と共産主義、国民党と共産党なんて、傍からみれば「真逆のイデオロギー」であり、お互いに「思想的に受けいれられないから、戦っている」のだと僕は思っていました。
 少なくとも「偉い人の世界を描いた小説」では、そうなっている。
 ところが、この作品のなかで、登場人物のひとりは、こう言っています。

 祖父はけっして生々しい話をしてはくれなかった。祖父が亡くなったあとに父から聞かされたところでは、祖父たちは抗日戦争のころから、つまり共産党と戦うまえから、弾薬を節約するために捕まえた敵は生き埋めにしていたということだった。
「わしらに大義なんぞありゃせんかった」と、祖父は言った。「おなじ部隊に劉貴仁というのがおったが、こいつなんかは自分の両親をいじめた共産党の一家を皆殺しにして国民党に入ってきた。みんな似たり寄ったりさ。こっちと喧嘩しとるからあっちに入る、こっちで飯を食わせてくれるからこっちに味方する。共産党も国民党もやるこたあいっしょよ。他人の村に土足で踏みこんじゃあ、金と食い物を奪っていく。で、百姓たちを召し上げて、またおなじことの繰り返しだ。戦争なんざそんなもんよ」


 大陸で、ふたつの「大きな勢力」が争うとき、その渦に巻き込まれた「普通の人びと」は、必ずしも、その勢力が奉じる思想への共感や反感で「どっちにつくか」を決めるわけではない。
 それは「庶民の知恵」だも言えるのかもしれないけれど。


 正直、ちょっと「読みにくい小説」だし、「長く感じた」のも事実です。
「あらすじ」ほどの「スケール感」もない。
 でも、たまにはこういう小説を読んでみるのも、いいかもしれない、そう思いました。
 

「こりゃあそのうち日本人の嫁がくるかもしれんなあ」
「冗談じゃないわよ、日本人なんて!」
 祖母がこのように言うのには、ちゃんと理由がある。戦争の話とはいっさい関係がない。わたしが土産に持ち帰った女子プロレスのビデオのせいなのだ。祖母はビューティ・ペアのボディスラムやダイビング・ボディ・プレスを目のあたりにして、開いた口がふさがらなかった。そのせいで、日本の女の子はみんな凶暴だと思いこんでしまったのである。余談だが、祖母のこうした偏見は後年、ダンプ松本の登場により取り返しのつかないことになる。

 こういう、懐かしい&ユーモアに満ち溢れた時代背景の描写も少なからずあって、それがけっこう楽しい小説でもあります。
 蒋介石の死に際して、台湾の人たちが受けた衝撃の強さって、今まで考えたこともなかったものなあ。
 その死による、台湾人たちの「大陸との関係の変化」への怖れ、みたいなものは、想像もつきませんでした。
 僕が世界史で習ったときには、「蒋介石って、台湾に逃れてからも、けっこう長生きしたんだな」と、ちらっと思った程度だったのだから。



ブラックライダー

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