- 作者: 今柊二
- 出版社/メーカー: 亜紀書房
- 発売日: 2015/03/21
- メディア: 単行本
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内容紹介
定食評論家(と町田の一家)、アジアを食べる!!
ソウル・台北・シンガポール・バンコク・香港・沖縄!
妻そして偏食気味な娘2人と歩き、探し、食べた亜細亜の6大都市。
女子3人の買い物や水族館、遊園地めぐりに付き合いながら、
陶然たる眼で節操なく胃袋に収めつづけるあの味、この味。
地元の食堂、屋台、フードコート、コンビニ、ファミレス・・・、
日本の面影をたどりながら「大衆の味」を求め続けた定食紀行。
どこか懐かしく、どこか新しい、珠玉の定食たちに出合える本!
今柊二さんの「食べ物エッセイシリーズ」って、見かけると、つい、読んでしまうんですよね。
「食べ物」というのは、身近な話題ではありますし、美味しそうで肩が凝らない食べ物のことを考えると、リラックスできる。
読んでいると、「もうちょっと写真が上手ければ、もっと美味しそうに見えるんじゃないかな……」とか、「マンネリなんだけどねえ」とか思うこともあるのですが、そういう、ちょっとした「ツッコミどころ」みたいなのも、今さんのエッセイの魅力ではあるんだよなあ。
この『定食ツアー 家族で亜細亜』なのですが、韓国、台湾、香港、シンガポール、タイ、沖縄など、世界各国で著者が食べた「定食的な食べ物(ごはん、おかず、汁物の3点が揃っている食事)」が紹介されています。
海外のレストランでの食事というと、とくに欧米では「アラカルトかコース料理」みたいな感じになってしまうのですが、アジアでは、日本と影響しあっているところもあって、「定食的な食事」ができる場所は、少なくないようです。
さてどうするか。そうだ、海外の定食取材を家族旅行にしてしまえばいいのだ! さいわい、子どもたちの長期休暇に合わせて春と夏には1週間程度の休みがとれる。みんな旅行はわりと好きだし、食事のときだけ少し協力してもらえばいい。おお、なんともすばらしい解決方法じゃないか。わが家には娘がふたりいるが、2006年くらいになると下の子も幼稚園に入り、なんとか負担なく旅行ができるようになってきた(家族旅行において、子どもの年齢はかなり大事だ)。
かくして、翌07年春のソウルから、私と家族の海外定食旅行は幕を開けた。
もっとも、「海外旅行&定食旅行」と考えているのは私だけで、家族は単に「海外旅行」だと思っていたのか、時折不協和音が生じることもある。「えーっ、また定食を食べるの?」「子どもの写真より食事の写真が多いのはどういうこと?」と3人の女性からツッコミが入るのだ。
しかし、家族とともに旅をすることによって見えてきた「もの」も少なくなく、結果としては大変よい研究成果となった。なにより、異国の雑踏を家族みんなしてふらふらと歩き回ることの楽しさを共有できたことは、私にとっても大きなシアワセだった。
この本を読んでいて、僕がいちばん面白かったというか親近感がわいたのは、著者が奥様と娘さん2人の家族4人でアジアを旅して、「自分以外の家族の構成員たち」の意向を気にしながら、「定食調査」をしているところだったのです。
グルメライターとして、仕事としてアジアの美味しい料理を食べ尽くす、というのではなくて、家族旅行のなかで、他の3人が買い物をしているあいだに「ちょっとゴメン!」って、近くの定食屋を探索したり、ショッピングセンターのフードコートで、それらしきものをみつけて、「ここにしようよ」と一生懸命奥さんや娘さんを説得したり。
ソウルでのエピソード。
到着した日の夕方、パレスホテルからセントラルシティまで歩いてくると<麺武士>というラーメン屋を見つけた。麺だけではなく、カツ丼のようなものをはじめ、いろいろとあるようだ。チャーシュー丼がすごく気になったので入ってみたい。でも、さすがにソウルに着いて早々ラーメン屋だなんて、家族は絶対に同意してくれないだろうな、
「みなさん、パパはここで食べたいんだけど、いい?」
妻と子たちはあきらめ顔で「じゃあ、食べてくれば」と言う。(やった!)
「あのさ、あそこに<マクドナルド>があるからそこにいたらどうかな? 食べたらパパもそっちに行くから」
かくして、女子たちはみんなでまたもやプルコギバーガーを食べていたらしい。
この本に書かれている期間のふたりの娘さんたちは、上が小学校高学年くらい、下が小学校に上がるくらいで、とくに下の娘さんは、偏食が激しい時期で、なかなか食べてくれないみたいです。
ああ、うちの息子も、この時期、そうだった……
そこで、「子どもたちが食べてくれるかどうか」がひとつの大きなハードルとして立ちはだかっているんですよね。
「海外旅行にかぎらず、旅先で幼い子どもに、しっかりご飯を食べさせる」ことの悩ましさが、かなり率直に書かれていて、「定食系の食堂」に入ったあとに、あまり食べられなかった娘さんたちの希望で、『マクドナルド』に入った、というような話がたくさん出てきます。
「食」について語っているエッセイストが、こんなに高頻度に『マクドナルド』で良いのか?
……とか言うより、「そうだよね、ほんと、子どもの食事って、大変だよね……」と共感してしまうのです。
いやほんと、アジアの「定食」よりも、「家族連れという定食調査には難しいコンディションのなかで、なんとか定食的なものに近づこうとする著者 vs それを半ば呆れ、拒絶しながらも、時々はつきあってあげている家族」という構図が率直に書かれていることが、僕には印象的で。
そんなに「めずらしい」とか「おいしそう」な食べ物は、出てこないんですよ。
日本のチェーン店がアジアに進出している店の「定食」が紹介されたりもしているし、行き先も秘境とか屋台の珍しい食べ物や、特別なレストランはほとんどありません。
「旅行の際の食べ物ガイド」として読もうと考えている人がいたら、もっとそれに適したグルメガイドはたくさんあると思います。
でもこれ、「なんか読んでしまう」のだよなあ。
なんのかんの行っても、「家族旅行中に定食屋にばかり目がいってしまうお父さん」に(ときどきは無視しながらも)ついてきてくれる家族って、ちょっと羨ましくもあるし。
「うまいなあ」と独り言をつぶやきながら道ばたに立って食べていると、女3人での買い物に早くも飽きたようすの下の子どもが、すぐそばの雑貨店から出てきた。
「パパ、それ何ぃ?」
「こりゃ、焼きイカだよ。食べる?」
ひと切れ渡すと、恐るおそる口に入れてもぐもぐと食べている。
「ほかほかで甘くておいしいね。もっとちょうだい」
あれれ、この子はこれまで屋台のイカなんて食べなかったんだけど。なんだかうれしいなと思ってイカを袋ごと渡すと、手づかみでもりもり食べはじめた。自分の好きなものを子どもが喜んで食べるのを見るのはよいものだ。私はいい気分で彼女が黙々とイカを食べるさまを眺めていた。ちなみに、彼女はそれがきっかけで焼きイカが大好物となり、さらに屋台で買い食いをする行為自体にも非常に興味を示すようになった。佳きかな、佳きかな。
ああ、ふとしたきっかけで、子どもが少し成長した瞬間を見ることができるのも、旅の魅力なのかな、と。
子どもにとっては、「いろいろなものが食べられるようになる」って、成長の証みたいなものなんですよね。
正直、好みが分かれる本だと思うので、購入を検討される際には、書店で実際に手にとって、めくってみることをおすすめします。
「自分が旅行するときのための、アジアの食の情報」を求めている人には、あまり向いていないと思いますし。
僕は好きなんですけどね、今さんのエッセイ。