バブル真っただ中の、1980年代後半の静岡。友人から合コンに誘われ、乗り気ではなかったが参加することにした大学生の鈴木は、そこで歯科助手として働くマユ(前田敦子)と出会う。華やかな彼女にふさわしい男になろうと、髪型や服装に気を使って鈴木は自分を磨くのだが……
2015年13作目。
平日のレイトショーで観賞しました。
観客は僕も含めて5人。
ちなみに僕は原作既読です。
原作を読んだのは、もう7年前になるんですね。
あの原作を、どうやってトリックがバレないように映像化したのか、気になっていました。
参考リンク(2):【読書感想】イニシエーション・ラブ(琥珀色の戯言)
さすがに読んだのが7年も前となると、ディテールは忘れてしまっていたのですが、原作を読んだときに、この作品の「仕掛け」にはものすごく感心したので、大まかな流れは記憶にあるんですよね。
どんでん返しのためのどんでん返し、ではなくて、この作品のテーマというか、人間のA面B面みたいなものが、一挙に浮かび上がってくるのです。
最後の5分全てが覆る。あなたは必ず2回観る。
というのがこの映画のキャッチフレーズなのですが、原作を読んだことがあると、最初からその「2回目」を観ているような心境ではありました。
ラストはとっても親切なので、たぶん、原作未読でも「2回目」は観なくていいはず。
観ながら、「もし原作を読んでいなかったら、この映画の仕掛け、僕は気づいただろうか?」とか考えていたのですが、うーむ、どうかなあ……「違和感」くらいはあったかな。
やっぱり、映像にすると、「さすがにこれは……」と思うところもあるのだけれども、それは「原作を読んでいたから」なのかもしれないし。
ちなみに「ラストが原作と違う」と宣伝されていますが、「違うけど、原作を読んだことがある人が、それだけを目当てに観るほどの『違い』ではない」とは思います。
というか、僕はラストに関しては原作のほうが好きだし、この作品のテーマみたいなものに沿っていると感じたのだけれども、そこは良く言えば「及第点映画請負職人」、悪く言えば「堅実だけど『大傑作』も『大駄作』も撮れない(撮らない)小さくまとまった映画をつくる人」、堤幸彦監督としては、「映画として、座りのいい感じのオチ」にしたかったのでしょうね。
でもさ、あそこでそんな「交錯」が起こると、『イニシエーション・ラブ』じゃないと僕は思っています。交わらないから、良いのではないか?
とりあえず、「ネタバレ厳禁」だと冒頭でもアナウンスされていますし、僕もこれから観る人たちの楽しみを奪うつもりはありません。
ネタバレされたあとに『シックス・センス』を観ても、やっぱりつまらないじゃないですか。
ただ、この映画、トリック云々は別として、前田敦子さんの存在感が素晴らしいんですよ。
前田さんって、けっして、劇団員的な芝居の上手さを持っている人じゃないのだけれど、この映画に関しては、前田さんがマユを演じているというより、「マユって、前田さんみたいな女の子だったのかもしれないな」って、思えてくるのです。
役柄を演じるというよりは、役柄を自分のほうに引き寄せてしまう、それが前田敦子さん。
木村文乃さんは、むしろ、「しっかり演じている」のですけどね。
前半の前田敦子さんのマユをみていて、僕は「こんなにわざとらしく迫ってくる女、地雷っぽいよな……」と思っていたのです。
僕も見栄えがしない、モテない人生を送ってきたので、「自分に近づいてくるような女性は、何か『訳あり』なんじゃないか?」と疑うクセがついてしまっていて
こちらが入れこんでしまうと、貢がされたり、マグロ漁船に乗せられたりしてしまうのではないか、って。
それでも、「ああ、この前田敦子さんに騙されて、一時期でも『そういう関係』になれるのなら、最終的に何もかも失ってもいいかもしれない……」と感じてもいたのです。
なんというか「本心」と「演技」の境界が、すごく不明瞭なんだよなあ、前田さんって。
それは、前田敦子さん自身が、「そういう存在」だからなのかもしれませんね。
「ベッドシーンがある!」とか言われていたのが、「ああ、あれはたしかに『ベッドシーン』だけどな!橋本愛さんは『寄生獣』であんなに頑張っていたのに、『恋愛映画』でこの程度とは……」っていうレベルのシロモノだったことには、あえて注意を喚起しておきたい。
いやほんと、この映画の前田敦子さんの「何を考えているのかわからない感じ」「したたかさと脆さの同居」って、他に誰が演じられるだろう?って思いますよ。
というか、「演じている」のか「素でやっている」のか。
個人的には、こんな前田さんを観られただけで、映画代の元は取れたと感じました。
この映画の「もうひとつの主役」は、バブル華やかなりし頃、1980年代の情景描写です。
当時流行った音楽がBGMとしてたくさん使われており、あの時代に10代後半を過ごしていた僕にとっては、ものすごく懐かったのです。
クリスマスイブに彼女と「初めての夜」を過ごすために、一生懸命アルバイトをしてためたお金で、シティホテルを必死に予約しようとしていた同級生とか、いたいた!
「かっとびスターレット」あったあった!
C-C-B!
思えば、あの時代というのは、それまでの「恋愛=結婚」というような価値観が崩れていき、男女交際のきっかけも、女性の側がイニシアチブを握ることが増えてきた時代でした。
原作を読んだときには、「トリック」ばかりが印象に残っていたのですが、こうして映像化されてみると、「バブルの時代は、男女関係の変化のターニングポイントだった」ことを思い出します。
「カンチ、セックスしよ!」も、この時代だった。
原作未読で、この映画を観ることができる人は、ぜひ、原作を読まずに観て、「わかった」かどうか、僕に教えてください。
そういえば、原作を読んだとき、僕は鈴木にけっこう腹が立ったんですよね。ひどい男だ、って。
そして、女のほうもなんだかなあ、と。
でも、今回の映画を観ていると、悪意がなくても、人と人は傷つけあってしまうことが往々にしてあるのだ、こういうのもしょうがないよ、とスッと受け入れられたのです。
それは、大人になったのか、それとも、諦めることに慣れたのか。
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