クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン (講談社現代新書)
- 作者: 鴻上尚史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/04/16
- メディア: 新書
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Kindle版もあります。
クール・ジャパン!? 外国人が見たニッポン (講談社現代新書)
- 作者: 鴻上尚史
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/04/24
- メディア: Kindle版
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内容紹介
外国人の素直な目から、ニッポンの奥の深さと可能性を再発見!
花見は「クール!」だけど紅葉狩りは「クール?」
居酒屋は「クール!」だけどカラオケは「クール?」
コスプレは「クール!」だけどゆるキャラは「クール?」
だんだんやみつきになるウォシュレットと風呂。
自動販売機に日本の平和を感じ、宅配便とコンビニに驚愕する。
残業の多い日本のビジネスマンを見て、「日本人は時間に正確じゃない」と発見し、
初対面でいきなり年齢を訊く日本人に憤る。
「子どもと一緒の寝室で寝る問題」「幼い娘と風呂に入る問題」では、各国間で大議論!
今年10年目を迎えるNHK BSの人気番組『cool japan』の司会者として、
世界を旅する演劇人として、人気脚本・演出家が世界の人々と聞いて議論した。
世界の人々が日本を体験して感じた「クール!」と「クール?」と「クレイジー!」
これを知れば、日本がもっと楽しくなる。
NHK BSの番組『cool japan』って、番組開始から、もう10年になるんですね。
僕自身は、何度かしか観たことがないのですが、この新書を読んで、「もっと観ておけばよかった、かな」と思いました。
以前、『ここがヘンだよ日本人』というTBS系列のバラエティ番組があったのですけど、NHKだからなのか、あそこまで賑やかな(というか、演出の要素が強い)感じではないんですよね。
この本を読んでいると、日本がこれだけ「国際化」し、海外からの観光客が大勢やってくる時代になっても、「外国人には日本がどう見えているのか?」というのは、なかなか知る機会がないのです。
政府が推している、マンガやアニメ、フィギュア、ゲームなどの「クール・ジャパン的」なものは、一部で熱狂的に支持されてはいるものの、もっと身近なものが、多くの外国人にとっては、”Cool!”なのです。
番組が始まった当時、「日本でこれはクール(かっこいい・優れている・素敵だ)と思ったものはなに?」と質問しました。
彼ら彼女らは、「洗浄器付き便座」「ママチャリ」「アイスコーヒー」と言いました。
「ウォッシュレット」の話は、比較的よく耳にするのですが、「ママチャリ」や「アイスコーヒー」?
多くの外国では「コーヒーはホットで香りを楽しむもの」という伝統があって、一部の国を除いては「アイスコーヒー」は存在しないのです。
「温かいものを、冷やしただけ」なのですけど、実際にそれをやってみるのは、けっこう「文化の壁」みたいなものがあるんですね。
この本を読んでいて面白かったのは、政治的な思想などの「違い」ではなくて、生活習慣や、日常の人間関係での考え方の違いを浮き彫りにしていくことでした。
鴻上さんは、この番組の司会をしていて、「本気で怒ったこと」があったそうです。
それは、こんなやりとりの際でした。
晩踏みでは、定年後に働く人でかではなく、ボランティア活動をしているシニアも取り上げました。定年後に、公園や駅前にある銅像を洗って回るボランティア・グループに入っている男性を紹介しました。銅像は、鳩のフンや雨風で汚れていますから、それをひとつひとつ丁寧に洗って回る活動です。
VTRを紹介した時、オランダ人男性が爆笑しました。定年後に、社会奉仕という生きがいを見つけ、一生懸命に銅像を洗っている60代の男性の姿に大笑いしたのです。さすがに僕はムッとしました。正直に言うと、怒りさえ感じました。
(中略)
で、定年退職したお父さんが、必死で公園の銅像を洗っている姿に大爆笑したオランダ人男性を見た時も、僕は本気でムッとしました。思わず、「なにがそんなにおかしいの?」と語気荒く訊きました。
訊くよなあ、それは。
僕もその場にいたら、「なんで笑うんだ?」とムッとしていたと思います。
そうやって、定年後も社会奉仕している人を、笑い者にするなんて、失礼じゃないか。
僕だって、将来、そうなる気がするし。
オランダ人男性は笑った後、「だって、社会とつきあう前に、自分の家族とつきあうべきでしょう。社会から必要とされる人間になる前に、家族から必要とされる人間にならないと」とあっけらかんと言いました。その瞬間、僕とスタジオの日本人男性スタッフ、そしてテレビの前の多くのお父さんが「アイタタタッ」と呻いたことでしょう(はい、僕は呻きました)。
外国人たちは口々に「自分や家族のために、定年後は時間を使うべきだ」と強く言いました。「人生を楽しむのが苦手なんじゃないの?」とまで言ったマレーシア人もいました。
「家族や友達と過ごすことに楽しみを見いださないとつまらないと思う」とイギリス人が言い、アメリカ人とフランス人と中国人が強くうなづきました。
「なぜ家族に求められる人間じゃなくて、他人に求められる人間になろうとするの?」と、スペイン人もまったく理解できない顔で言いました。
スタジオにいた僕も男性スタッフも、この時だけは、しみじみと考えてしまいました。
日本の「定年」の風景は、退職当時の花束贈呈や会社を離れる淋しさやその後の生きがいの喪失や再就職探しなど、どれも外国人にはじつに不思議に映ったようでした。
うーむ。これはたしかに「つうこんのいちげき」だなあ。
このオランダ人は、「銅像を洗っていたこと」そのものを笑っていたのではなくて、「本来やるべき(であると彼らが考えている)ことを全くスルーして、銅像を洗いはじめてしまう、物事の優先順位を完全に見失っている日本人男性」に笑ってしまったのです。
家で妻が待ちくたびれているのに、自分から進んで銅像を洗わなくても良いじゃないか?と。
この話にドキッとしてしまうのは、定年後の男性のこの行為が、「定年しても社会に奉仕したい」というような善意だけではなく、仕事ばかりで生きていて、あらためて家族と向き合う時間ばかりになってしまうのが怖い、何か「立派に見える『逃げ場』をつくりたい」ということなのではないか、と想像してしまうから、なんですよね。
僕も、定年したから、家族とずっと会話をしてハッピーに暮らす、というのは、なかなか想像できなくて。
「親子が一緒に寝るかどうか」に続いて、「父親が幼い娘と風呂に入るかどうか」で大激論が起こりました。
「川の字になって寝る」ということに関しては、アジア・アフリカの外国人が「私も日本人と同じだ」と反応しましたが、この問題に関しては日本人が孤立しました。
スタジオの外国人が全員、強い拒否反応を示したのです。
フランス人女性は「フランスでは母親とはあるけれど、父親と娘が一緒に風呂に入るなんて絶対にないわ」と断言しました。アメリカ人女性は、「日本の文化としてはいいと思いますよ。でも、外国人としては絶対に受け入れられません。もし私が日本人男性と結婚しても、これだけは絶対に許さないわ」と答えました。
韓国人女性は「母親が公衆浴場に息子を連れていくことはあるけど、女の子が父親とお風呂に入るのは想像すらできません」。中国人女性もうなづきました。
外国人に「男の人は母親と、女性は父親といくつぐらいまで一緒にお風呂に入っていたという記憶がありますか?」と質問しました。
「まったくない」と即答したのはアメリカ人女性とイタリア人女性。「父親の裸を見たことはないの」とさらにフランス人女性と中国人女性。
アメリカ人女性もオーストラリア人女性も韓国人女性も父親の裸は見たことがないし、見たくもない(!)と答えました。
そりゃ、「見たくもない」っていうのは、わかるけれども。
もちろん、ある程度以上の年齢になったら入るべきではない、というのはわかるけれど、日本以外の国では、ここまで徹底しているものなんだな、と。
赤ん坊でも、ダメなのだろうか。
うちは男の子しかいないのですけど、お風呂に入れるというのはけっこう親にとっては大変なので、「女の子は赤ん坊でも母親しか一緒にお風呂に入れない」というのは、母親の負担が大きくなりすぎるような気もするんですよね。
でも、そういう「親の負担」よりも、「子どもでも、異性として見なければならないという方針」のほうが、日本以外の国では、重視されている、ということなのでしょう。
こういうのって、この番組でもなければ、なかなかわからないことだなあ、と。
まあ、わかったから何かが変わる、というものでもなさそうだけれど。
ちなみに、番組で採り上げたもののなかで、「クール」だと感じたものについて、外国人にアンケートをとってみたところ、13位に輝いたのは「大阪人の気質」だったそうです。
それほど言うのなら確かめてみましょうと、2009年、大阪でロケをしてみました。やることは簡単。外国人が、街を歩く大阪人に突然、葵の印籠を見せて「コノインロウガ メニ ハイラヌカ!?」とたどたどしい日本語で言うだけです。日本に住んでいる人ならみんな知っている『水戸黄門』のパロディーです。
呆れたことに、いえ、驚くことに、印籠を突きつけられた大阪人は、9割近い人が、「ははあ〜」と言いながら、ひれ伏す真似をしました。ロケ地が大坂城の近くだったので、ひれ伏さなかった残りの1割は大阪以外から来た観光客なんじゃないかと僕たちは想像しました。
20人ぐらい土下座の真似をしてくれる人を集めるのに、2時間はかかるかなと考えていたのに、20分で予定人数は集まりました。
東京で、事前にロケをしましたが、誰一人、やってくれませんでした。印籠を突きつけられた人はみんな、戸惑い、ポカンとし、照れ笑いをしながら「えっ? なんですか?」「印籠ですね……」「ごめんなさい」などと反応しただけでした。
僕も「やらない」と思います。
というか、9割もやるの?大阪の人って……
確かに「クール」だな大阪人……というか、同じ「日本人」でも、こんなに違うのだから、外国のことを理解するのは、至難の業ですよね。