- 作者: 小林よしのり
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2011/08/31
- メディア: 単行本
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内容説明
この国を守れ!衝撃の国防の書、登場。
『戦争論』から13年――
国家の要諦、ここに完結!
日本の国防を担う自衛隊の存在価値を今回の東日本大震災をきっかけに誰もが再認識した。さらには、尖閣諸島への中国工作船の接近などから、より自衛隊の役割が増している。
拡大する中国の脅威、迫る食糧危機、牙を剥くグローバリズム、
突きつけられたエネルギー安保――もう目を背けてはいけない!
そもそも「国防」とは何か。未曾有の国難に直面し、あらためてそれが問われている。
被災地における自衛隊の活動を中心に、領土保全、災害支援、食糧安保と多岐にわたるテーマで論じる。
読んでいて、「ああ、こんなことは知らなかった、勉強になったなあ」というところと、「これはちょっと強引に普段の小林さんの主張と結びつけすぎているんじゃないか?」というところと。
僕にとっての小林よしのりさんの本というのは、以前は前者の割合がほとんどだったのですが、最近は後者の「やりすぎ感」あるいは「まず結論ありきで、強引に読者の不快感や恐怖感を煽っているように思われる記述」の割合が増えてきました。
この『国防論』については、自衛隊員の実際の生活や訓練の紹介はすごく印象的(閉所恐怖症ぎみの僕は、潜水艦には絶対に乗れないなあ、と思いましたよ。スペースが無いため、魚雷の横に寝たりするらしいですし)で、彼らにあらためて畏敬の念を抱きましたし、今回の震災で自衛隊員が果たした役割と、現場で彼らが受けたであろう心の傷も再認識させられました。
自衛隊に対して、「武器を持たない、大規模な災害救助隊にすれば良いのではないか」という声(僕もそんなことを考えていたのですが)に、「今回のような大災害で、インフラが崩壊している場所に長期間「駐屯」して活動できるのは、そういう事態を想定して訓練されている『軍隊』だからこそ」という話には、頷かざるをえませんでしたし。
また、TPP(環太平洋パートナーシップ)での「アメリカの最大の標的は、日本だ」、そして、「韓国がよく引き合いに出されるけれど、韓国はGDPの8割が貿易の国(日本は2割)、しかも、現在の韓国の失業率は16%にものぼっている」という話にも考えさせられました。
いくらサムスン電子が好調でも、韓国の人たちは、それで幸せになっているのかどうか?
そして、それを日本が真似するべきなのか?
でも、原発問題に「日本の核武装のためには、原発廃止は危険な面がある」という意見には、「それはちょっと……」ではあります。
ちなみに、小林さんが引用されていた資料では、「日本は原発がある現状からであれば、原爆1個に3年、核ミサイルまで5年で作れる」とのことでした。
……お互いに相手を殲滅するような核戦争になったとしたら、「3年」って、「100年後」と、あまり変わりないような気がします。「手遅れ」という点においては……
「そういう可能性を持っておくべき」だということなのかもしれませんが、そのために原発を「維持」しておくのはあまりにバカバカしい話です。
小林さんも原発の危険性、デメリットは描かれていて、「日本がいま、核武装の覚悟を持たないのであれば、将来への布石として」という前提で考えておられるようですが、「原爆」って、所持しているだけで「原発」と同じようなリスクを抱えている面もあるわけで。
(ちなみに僕は日本の核武装には絶対反対です。日本には被爆国としてのメッセージを、世界に発し続けてもらいたいと願っています)
「中国の反日感情」について、ネットでの書き込みを多数紹介されていますが、匿名掲示板での他国への失礼な発言は、日本でも多々みられます。
いわゆる「ネット弁慶」たちの無責任な発言に踊らされて、それが相手国の「公論」であると紹介するのは、賢明ではないでしょう。
小林さんは、この本のなかで、
「戦争と平和」これは対立概念ではない。
戦争は外交の手段であり、平和は国内外の状態のことです。
したがって、「戦争」の反対の手段は「交渉」「話し合い」であり、「平和」の反対の状態は「無秩序」ということになります。
と書いておられます。
でも、それがわかっていながら、この本のなかで小林さんは「たぶん戦場に行くことはない有名作家」が、「戦争経験のない若者たちに、戦争で大義を果たすという理念の甘美さを訴えかけている」のです。
以前御紹介した吉本隆明さんの話にありましたが、「僕たちは、もっと『自分の立場』から、物事を見たほうがいい」。
こういう本は、あくまでも「指導者からみた『格好いい生き方』が描かれている」のだということも、頭に入れておくべきです。
僕たちの大部分はガンダムに乗れるわけじゃなくて、ジムとかボールに乗って、「じゃまだ!」とシャアに蹴っ飛ばされて爆死するのだから。
(もうひとつ言っておくと、ジムとかボールの乗員ですら、戦場では「エリート」なんですよ。ほとんどの兵士は、モビルスーツには乗せてもらえない)
この本、いろんな意味で「勉強になる」のは事実です。
でも、「小林よしのりの独善化」「一般的な読者との乖離」がさらに強まっていることを確認させられる一冊でもありました。
こういうふうに、自衛隊のこととか、戦争のこととかを、真っ向から描いている(あるいは、描くことが許されている)人は、ほとんどいません。
ただ、この「わかりやすさ」を鵜呑みにしないほうが良いだろうな、とも考えずにはいられませんでした。
あの大震災を、「自分の主張を証明するため」に利用する人は、なんだかすごく胡散臭い。某都知事とかもね。