あるカープファンから見た、東京ヤクルトスワローズのセリーグ優勝 - いつか電池がきれるまで

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あるカープファンから見た、東京ヤクルトスワローズのセリーグ優勝


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 東京ヤクルトスワローズセリーグ優勝、おめでとうございます。
 カープファンとしては、悔しいシーズンでしたし、カープの対ヤクルト、対阪神の対戦成績をみると、ヤクルトの優勝をアシストしたのはカープだった、とも言えそうですね。
 本当に、今シーズンはヤクルト戦に勝てなかった。
 僕は40年以上カープファンをやっているのですが、ぶっちゃけ、巨人や阪神が優勝していたら、こんな記事なんて書きません。しばらくスポーツニュースやSNSはシャットアウトして、不貞腐れて時が過ぎるのを待つだけです。
 しかしながら、ヤクルトスワローズ横浜ベイスターズに関しては、なんとなく仲間意識というか、「セリーグのお金がないほうの3球団」という感覚があって、巨人阪神中日の「あちら側」(FAで選手を獲っていく側)と広島横浜ヤクルトの「こちら側」という感覚もあるのです。
 カープとヤクルトって、昔からリーグ最終戦で、お互いの応援団がエール交換をしあう光景もあって、まあ、ヤクルトさんならしょうがない、というか、金本、新井の因縁がある阪神よりはかなりマシ、という気分ではあります。
 村上春樹さんも喜んでいるのではなかろうか。

 
 正直なところ、僕はシーズン前に、ヤクルトが優勝するとは、微塵も予想していませんでした。巨人の田口投手がヤクルトに移籍したときも、「まあ、巨人だったら一軍ギリギリの選手でも、ヤクルトの投手陣だったらローテーション入り、だものなあ」って思いましたし。

 村上、山田、青木を擁するヤクルトの打線は脅威でしたが、やはり野球はピッチャー。ヤクルトの先発投手って、誰がいたっけ……おっ、石川まだ現役なんだな、あとは……和製ライアンの小川?(ヤクルトファンの方すみません)というくらいのイメージしかなく、中継ぎは「火ヤク庫」と揶揄されるくらい毎試合炎上し試合をぶち壊す、という先入観があったんですよ。
 シーズン前の補強もソフトバンクからの内川選手とか、とりあえず使えそうな可能性がある人を乱獲して、当たれば儲け、なのかな、とか。

 野球評論家も、ヤクルトを優勝どころかAクラスに挙げている人もほとんどいなかったと記憶しています。

 いや、シーズン中でも、「おお、ヤクルト、あの戦力(投手陣)で、よく頑張っているなあ(そのうち落ちてくるだろうけど)」と高をくくっているうちに、いつのまにかシーズン終盤になり、独走態勢だった阪神と、3連覇を目指していた巨人が失速していくのを横目に、10月26日にゴールテープを切りました。
 
 それにしても、ヤクルトスワローズというチームは勝負強いですよね。
 僕が記憶しているかぎりでは、ダメなときはとことんダメなのだけれど、勝てそうなチャンスが来たときには、それを逃さずに必ず仕留める、そんなチームなんだよなあ。

 前年最下位からの優勝、というのも、新型コロナ禍やオリンピックでイレギュラーな要素が多かったシーズンの影響があったとはいえ、「戦力的に劣ると言われているチームでも、モチベーションの高さやマネージメントで、『戦力が充実した金満球団たち』と互角以上にやれるのだな、監督や首脳陣、リーダーの力って、僕が思っている以上に大きいのかもしれないな」と思い知らされました。


 カープの佐々岡監督へのバッシングの声に、「しかし、あの栗林以外誰が投げても運任せみたいなリリーフ陣では、誰が監督をやってもどうしようもないだろう」と内心反発していた僕なのですが、今年のヤクルトの戦力でできたことが、なぜ、カープにはできなかったのか?と、考えずにはいられないのです。新型コロナ禍の影響もあったとはいえ、カープには日本代表の中軸になった、鈴木誠也菊池涼介に、森下、栗林を擁していたのだから、もうちょっとやれたのではなかろうか。後半は巨人が大失速したことでCS争いに少しだけ期待を持たせてくれましたが、そうなってみると、中盤のチームが低迷していた時期に、漫然と戦って負けていた試合を、もっと丁寧に扱っていたら……


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 この試合など、まさに典型的な例なのですが、「栗林の連投を避けて温存」に、僕は異存はありません。もはや「野球界の宝」ともいうべき存在であり、当時のカープが置かれていた状況で無理をさせる必要はなかった。
 同点で9回裏で、菊池保則の登板というのも、以前菊池のクローザーを試して散々の結果だったことを踏まえても「経験がある」ことを重視しての選択だと理解はできます。

 しかしながら、クローザーとして絶対的な信頼があるわけでもないピッチャーが、同点の9回裏にいきなり四球を出し、送りバントのあと、菊池涼介のファインプレーに救われたものの完全に捉えられた打球のあとに、ヒットでつながれ、最後は押し出し四球。
 出したことはともかく、なぜ、あの状態の菊池保則と最後まで「心中」したのか?

 若手に経験を積ませる、と腹を括っての起用ならわかります。でも、ベテランをわざわざ投げさせて、明らかに不調なのに替えることも考えず、ただ漫然と投げさせてサヨナラ負け。やる気あるの?としか言いようがない采配でした。シーズン序盤にも、大量リードの試合で外野を守っていた松山選手に守備固めを出さずに逆転を許し、「次に打席が回ってくるから」というコメントをしていたのに呆れたものなあ。
 あの試合での松山選手は、もう役割を十分果たしていて、あと1打席に期待するよりも、守備を固めてしっかり逃げ切るための手を打つべきだったのに。
 おかげで、松山選手も自信をなくしてしまったようにみえました。

 佐々岡監督は「いいひと」なのかもしれませんが、つねに「最善手を打つ」という意識が決定的に欠けていた。
「できること、できそうなことをやらせる」のではなく、わざわざ「できそうもないこと」をやらせて、「なぜできないんだ?」と責めていたのです。
 投手交代も、先発投手が試合をぶち壊した状況になってから、けっこうマシなリリーフを起用することが多かった。
 替えるんだったら、このタイミングじゃないだろ……試合を獲りたいならもっと早く替えるべきだし、ピッチャーに成長を促したい(あるいは、リリーフを休ませることに徹する)ならここで辛抱すべきなのに……と何度思ったことか。

 終盤、巨人とのCS争いになったときに、リーグ中盤から後半の、「Bクラスほぼ確定気分でのプチ捨てゲーム」みたいになって負けた接戦の試合のうち、2試合か3試合でもモノにできていたら、もっと際どい状況になったのではないか、と思うのです。
 多くの人は、終盤の結果が決まった試合や、競り合いになってからの勝敗をあれこれ言いがちなのですが、どこで勝っても1勝は1勝、どこで負けても1敗は1敗、なんですよ。
 あの野村克也監督は、「1年のペナントリーグのなかで、監督の采配で勝てた、と言えるのは、良くて5試合くらいだ」と仰っていました。
 でも、その5試合が、5勝か5敗かで、チームの成績というのは大きく変わってくるんですよね。


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 野村克也さんという人のすごさを、あらためて思い知らされるシーズンでもありました。
 ヤクルトの高津監督も、阪神の矢野監督も、野村さんの薫陶を受けた選手・指導者だったのです。

しかし、高津は選手から人気がある。私の教え子では珍しく人間性が良いのではないかな(笑)。野球を知っているかは疑問だが、二軍監督からスタートしたのはいい。大いに期待しています。ヤクルトの監督は宮本慎也がやるものだと思っていたが、宮本は野球はよく知っていて、言うこともすべて正しいが、歯に衣着せぬ言い方だから誤解されやすいのではないかな。今の世の中では、相手が傷つくようなことはあまり言わんほうがいい。


 この野村監督の「高津監督評」を読んでいると、野村さんは、「求められる指導者像の時代による変化」も、ちゃんとフォローしていたことがわかります。
 今の世の中の「理想の上司」の代表的な存在として、内村光良さんが挙げられることが多いのですが、いまの指導者というのは「厳しさや正しさ」よりも、「周りから愛され、この人のために頑張ろう、と思ってもらえる人柄」が重要ではないか、と僕は感じます。

 もちろん、優しいだけ、甘いだけの人に対して「この人のために頑張ろう」とは思わないわけで、その人自身が「模範」である必要もあるのですが。
 内村さんは他人にほとんどあれこれ言うことがない人だそうで、周りはその姿勢をみて、「自分も頑張ろう」とモチベーションを上げていくそうです。みんな「やらされる」のではなくて、「自分もやろうと思う」から強い。
 高津監督も、内村さんのようなタイプの人なのではないかと感じます。



 ただ、「こういうタイプのリーダーだったら、なろうと思えばなれる」ものじゃないですよね。ある意味「天性の愛されキャラ」みたいな才能が求められる面もあるし。


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 「リーダーの力」「組織のまとまり」だけではなく、「データ解析の利用」という技術的な革新も、ヤクルトの躍進を支えた面もありそうです。カープの3連覇も、黒田、新井の力は大きかったけれど、ドラフトでの自由枠制度の撤廃と積極的なドラフト戦略で、各チームの力が拮抗したことやジョンソン、エルドレッド、ジャクソンという外国人選手が「当たった」のが効いていました。そして、マツダスタジアムの開場とファンの増加で、経営状態や観戦環境が良くなり、球場にはチームを後押しする雰囲気が満ちていたことも。

 それにしても、ヤクルトスワローズの「常勝」ではないけれど、「勝てるチャンスは逃さずに勝つ」力はすごいよなあ。
 今年がコロナの影響で外国人選手の来日が遅れたり、他チームにコロナ感染で何試合も出場できない主力選手がいたり、中田選手の問題に巻き込まれた巨人が自壊していったりした「混戦模様」のシーズンになったりしたのも大きかった。


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 二桁勝利(10勝以上)も規定投球回数到達者もなしでの優勝は、まさに「適材適所」の賜物だったと思います。
 

 あと、昨日の阪神の試合を追っていて、僕は2015年のカープの最終戦、CS進出がかかった試合のことを思い出したのです。

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 前年はじめて3位でCSに進出し、甲子園を赤く染めたカープは、黒田博樹アメリカから戻ってきて、前田健太とのダブルエースで四半世紀ぶりの優勝!とファンは盛り上がっていたのです。
 しかしながら、現実は厳しく、優勝には遠い3位争い。とはいえ、あとひとつ勝てばなんとか3位でCSに出られる、というなかでのこの最終戦でした。
 ホームのマツダスタジアムでの試合で、カープの先発はエース・前田健太。対する中日は、山本昌が引退登板として打者ひとりに投げ、大野雄大投手が実質的な先発でした。

 正直、カープファン側からすれば、ホームゲームで、こちらはエースを立て、ベストメンバー。CS進出がかかっており、モチベーションも最高潮。対する中日は、山本昌投手の引退登板、というのがあるくらいで、順位も決まっており、いわゆる「消化試合」にみえました。
 山本昌投手の引退試合のお膳立てもしているんだし、中日も「どうぞ勝ってください」って感じじゃないの?

 ……甘かった。

 とにかく打てない、点が取れない。
 選手たちの「なんとかCSに」という気持ちが焦りになっているのが、画面越しに伝わってくるような試合でした。
 マエケンがなんとか踏ん張っていたものの、リリーフした大瀬良が打たれ、最後の最後で、カープファンの期待が最高潮だった1年は、CSにすら届かず、という結果に終わったのです。

 なんで「勝たなければならない理由」満載の状況で、「消化試合」の相手にこんな負け方をするんだよ、バカじゃないのか……

 あの試合のもどかしさ、情けなさをいまでも思い出します。
 あのときは、それから3年間、カープファンにとっての至福の時間がやってくるとは想像できなかった(ただし日本シリーズは除く)。


 昨日の甲子園での阪神対中日の試合、ヤクルトに追いすがる阪神としては、まさに「優勝するために、負けられない一戦」だったのです。
 ここまで最多勝の青柳投手を先発に起用し、必勝の構えだったはず。
 対する中日は順位もすでに5位か6位、という状況で、先発の小笠原投手に規定投球回数をクリアさせるため、内容・結果はどうあれ、6回まで投げさせる、というのが基本線だったと聞いています。
 

 しかしながら、試合は、阪神の惨敗に終わりました。
 先制された阪神は、追いつくために青柳投手を早々に降板させて代打を出すなど、積極的に勝ちにいったのですが、笛吹けど踊らず、という感じで、打線は沈黙。ヤクルトの胴上げを許す、「痛恨の一敗」を喫してしまったのです。

 「勝たなければならない」優勝争いをしているチームが、ホームで、「消化試合」的な相手と試合をすれば、そりゃ、モチベーションが高いほうが勝つだろう、と思いますよね。いや、思いたいですよね。
 でも、そういう試合で、情けないくらいの惨敗を喫するというのは、カープだけじゃなかったんだ……

 ファン、という立場を離れて考えてみると、「絶対に勝たなければならない」「シーズン大詰めのホームゲームで観客の大声援」なんていうのは、プレッシャーが大きくなるという負の作用も大きいのです。

 そもそも、3位争いでCSがかかっているのと、負けたら優勝を逃す、という試合では、やっぱり後者のほうが緊張もするだろうし、「大きな試合」でもある。それを考えると、勝ったヤクルトのファンの喜びよりも、あんなふうになすすべなく敗れてしまった阪神のファンの失望・絶望を想像せずにはいられません。あのカープが負けた試合での、僕のやるせなさを思い出すと。

 それと同時に、なんのかんの言っても、プロっていうのは凄いな、こんな消化試合っぽい試合でも、「本気で勝ちに行く」のだな、と感心もしました。
 昨年、菊花賞でのコントレイルとアリストテレスの直線での叩き合いをみて感動したんだよなあ。
 ああ、相手がスターホースでも、「負けてもいいや」「勝ってもらおう」なんて思わないのが勝負の世界なんだ、って。

 僕はさまざまな因縁があって、阪神は嫌いなんですが、あの試合のあと、カープマエケンが去ったあとにリーグ3連覇を成し遂げたように、昨日、なすすべもなく敗れたようにみえる阪神にとっては、これがより強くなる転機になるかもしれません。

 今年は野球にはなるべく関わらないようにしていたのですが(カープファンにとっては、坂倉の逆転サヨナラホームランと栗林の活躍や若手の台頭はあったけれど、つらいことが多いシーズンだったので)、最後にリーグを制したのが東京ヤクルトスワローズだったことには、少しだけ救われた気がしました。巨人の連覇で、やっぱり金と人気と補強か……と思っていたけれど、うまくやれば、まだ「こちら側の3球団」でも、勝負になるシーズンもあるんだ。
 
 野村克也監督は、常に言い続けていたんですよね。「弱者は頭を使わなくちゃ、考えなきゃダメだ」って。
 「どうせダメにきまっている」「もともとの能力値がちがいすぎる」
 それでもまだ、やれることはある。諦めたら、そこで試合終了ですよ、という言葉を、また思い出しました。


 ヤクルトスワローズ、優勝、おめでとうございます。


(しかし、高津監督だったら、カープが優勝できたのかなあ……なんてことも、つい考えてしまうのです。名監督だから結果を残せたのか、結果が出たから「名監督」と見なされるようになったのか……実際、野村克也さんだって、阪神では3年連続最下位になってもいますしね……)


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