ああ、なんかわかるなこれ。
というか、僕は最近(というか、ずっと)やさぐれた人生をおくっているので、純愛ドラマを観ても、「どうせこいつらも一緒に生活するようになったら、便座の蓋が上がってた!」とかで毎日喧嘩して日常にうんざりすることになるんだがね」としか思えなくて。
くっついてしまったら、あとはもう、そこにあるのは「生活」ですよ本当に。
なんてイヤな滑り出しのエントリなんだ!
この感想は、「感情移入できないのもわかるし、それでも、作品としての質の高さは認めている」というもので、「うん、わかるわかる」と僕は思ったのです。
共感できないけれど、クオリティが高いコンテンツだというにはわかる、そして、共感できない自分自身の変化のほうに、むしろ戸惑ってしまうって、僕はよくあります。
以前僕が書いた、映画『サマーウォーズ』の感想とか、まさにそんな感じです。
fujipon.hatenadiary.com
これもけっこう批判されたのですが、あるコンテンツへの向き合い方というのは、受けて側の事情とか背景って絶対にあるわけで、そういうのを無視して、「客観的な評価」が自分にはできる、という人の「批評」って、僕は好きじゃありません。
それって、神様にしかできないんじゃない?
映画でいえば、脚本とか絵(映像)のクオリティ、声優(役者)さんの演技で「出来映え」とか「完成度」を判断することはできると思うのです。
たぶん良い作品なんだけど、自分には合わなかった、ということは、しばしば起こりうる。
そこで、「客観的には良い作品だと思う」って書くのか、「僕は苦手だった」と告白するのか。
僕は後者を選ぶことにしています。
ただし、なるべくその「背景」みたいなものも提示しているつもりです。
冒頭のエントリのブックマークコメントを読んでいて、僕はなんだか悲しくなりました。
b.hatena.ne.jp
見ず知らずの方にはちょっとキツい言い方かもしれませんが、ツマラン映画の見方ですね。自分と同年代、同じ様な境遇の人物が居ないと感情移入出来ないとなると、楽しめる作品、どんどん減っていきません??
きわめてまっとうな感想。いいおとながいつまでも高校生の恋愛バナシに共感しろってのもムリがあるハナシのような
ブックマークコメントでも賛否両論、という感じなのですが、そもそも、他人の感想に「それはツマラン映画の見方だ、とか言ってしまう人って、何なの?(id略)。
こういう「ネットでマウンティングしないと死ぬ病」みたいな人のほうが、生きててつまんないんじゃなかろうか(個人の感想です)。
僕自身、年を取って、環境が変わって、物事の見方が変わったな、と思うことはたくさんあるのです。
前にも書いたことがありますが、中学生くらいのときって、『どろろ』で醍醐景光が天下取りのために自分の子どもを生贄に差し出したり、『項羽と劉邦』で、劉邦が逃げるときに馬車を軽くしようと自分の子どもを馬車から突き落としたり(御者がその都度拾いあげるのですが)するのを読んで、「そりゃ、天下のためなら、自分の子どもを売り飛ばす人間がいてもおかしくはないわな」っていう感覚があったんですよ。
でも、自分が大人になって、子どもがいる身になってみると、「この子と引き換えに天下をやるぞ」とか言われてもそんなの交換できないし、人質に取られたら、どんな悪いことでもやっちゃうんじゃないか、と思うようになりました。
僕はそんなに「子ども愛」が強いほうでもないと思うのだけれど、それでも、こういうものなのか、と。
『君の名は。』って、僕にとっては、感情移入できない作品なんですよ。
カッコいい男の子と旧家のかわいい女の子。
学生時代にそんな恋愛などとは縁遠かった僕は、青春映画や恋愛小説がいまでもすごく苦手です。
「ただしイケメンに限る、だろ」って言いたくなってしまうので。
あんなのに感情移入できるのは、「恋愛強者」だけだろ、って思っていました。
ジブリも『耳をすませば』や『魔女の宅急便』は苦手。ただ、『ナウシカ』は大好きなんですよ、なんだ僕はロリコンのオタクなのか、うーむ……
今回、もう40代半ばになって『君の名は。』を観て、けっこう感心してしまったんですよね。
そう、コンテンツ慣れしたオッサンは、「感動」はしないけど、「感心」するようになるんだ。
「ああ、感情移入はできないけど、よくできた作品であることは認めるよ。好きな人はたまらんでしょうねえ」
渡辺文雄さんか!
そういう自分に最初は戸惑うかもしれませんが、そのうち慣れてきます。ちょっと寂しいけど。
このくらいの年齢になると、もういまさら10代の恋愛を取り戻すことができないことにようやく気付いてくるし、教科書的な10代の恋愛をしてきた人というのは、実はそんなに多くはない、ということもわかってきます。
率直に言うと、現実での恋愛の記憶がなくても、こういう誰かが描いた恋愛経験みたいなコンテンツを観た経験があれば、それで代用して良いんじゃないか、と思えてきました。
恋愛経験のアウトソーシング!
フィクションを僕の人生の外付けハードディスクにインストールだ!
そんなの、どっちも「過去の記憶」でしかないのだから、実体験がないことにコンプレックスを抱き続けるよりは、他者の純愛物語を「自分の記憶」にしてしまえばいい。
いくらなんでも、大きな災害に遭った人の記憶をインストールして、あたかも自分も被害者であるように振る舞うのは正気じゃないと思うけれど、こういう「美しくて、誰にも迷惑をかけないような代用記憶」を有効利用することは、そんなに悪いことじゃないはず。
結婚しない人が増えているのは、経済的な面が大きいのだとしても、こういう「人生経験のアウトソーシング化」が、現実の体験よりも「快」であることを多くの人が悟ってしまったからなのかもしれません。
むしろ、『君の名は。』を観て、思い出せるような「失われた青春の記憶」があるだけでも、ちょっと羨ましいよ……
なんかもう脱線しまくっている話だし、僕がこの年になって気付いたことを、多くの人はもっと若い時期に気付いているのだろう、と悲しくなってきます。
もっと若い頃から、開き直って、いろいろインストールしておけばよかったな……
そういう意味では、よい時代になったものですね、本当に。
僕なんか、レンタルビデオ屋が近くにあって、自由に出入りできるようになったのは、大学に入ってからなんだぞ!
(もう何が何だかわからないくらいに、いろんなものを呪っている)
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