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「ジャパネットたかた」の高田明前社長の最後の生放送、僕が住んでいる地域の地上波では観られず、こんなことになっていたというのを放送直後にネットで知りました。
観たかったなあ、これ。
個人的には、今後も2年に1回くらいは放映されるであろう『ラピュタ』よりも観ておきたかった。
いまや、ネットショッピングが一般的なものになってしまって、テレビ通販には「時代遅れな感じ」もあるのですが、『ジャパネットたかた』は、そんななかでも健闘しているようです。
これまで僕が見聞きしてきた、高田明前社長の発言のなかから、興味深いものを集めてみました。
『ダ・カーポ』610号(マガジンハウス)の特集記事「通販業界バカ売れの秘密」の「『ジャパネットたかた』高田明社長インタビュー」より。
インタビュアー:視聴者に訴える、注目されるMCのコツとは。
高田:やはり分かりやすいことが大切です。その商品の魅力がたくさんあったとしてもそれらを全部言うのではなく、大切な一つを選んできちんと伝える。そのほかの特徴もせいぜい5項目以内にしぼって話します。また、専門用語を避けて、かんたんな言葉を使って話します。これは、英語から学んだんですよ。
私は学生時代にほとんど勉強をしなかったけれど、英語だけは好きでした。卒業後も、最初は機械メーカーでヨーロッパを回りながら英語で商談をしていました。でね、あるとき気づいたんですよ。本当に大切な英単語は1000くらいしかないと。ごくわずかな基本的な単語だけで話したほうが、相手に大切なことが伝わりやすいんです。英語はね、上達すればするほどかんたんな単語だけでしゃべるようになります。この原理原則は、私たちがふだん使う日本語でも同じ。テレビショッピングのMCでも同じです。インタビュアー:高田さんは商品のどんなところに魅力を感じ、MCのときに重要視するのでしょう。
高田:私はお客さまの立場で商品をチェックして、話すポイントを決めます。けっしてカタログの通りには伝えません。カタログで強調されている商品の魅力は、ほとんどの場合、メーカー側の都合です。メーカーはね、商品の性能をお客さまだけでなく競合他社にもアピールしています。でも、お客さまにとって、競合他社は関係ありません。
例えば1200万画素の非常に性能に優れたデジタルカメラがあります。高感度高画質という意味では素晴らしい。だから、カタログにはそれが強調されています。では、使いやすさはどうか? そこに私は注目します。お客さまの立場になると、どんなに高画質でも、手ブレしやすかったり、再生に手間や時間がかかったら、いいカメラとはいえないんですよ。多くの人にとっては、900万画素であっても、使いやすくて安いカメラのほうがありがたいわけです。
私どもが行っているショッピングは、店舗販売とは違い、お客さまにたくさんの商品から選んでもらうことができません。その分、私たちは責任を持って商品を選定しなくちゃダメです。よく検討して自信を持って選定した商品を売るからこそMCにも力が入るわけです。
2012年5月4日に放送された『金スマ』に出演したときの僕の日記より。
夜、『金スマ』で「ジャパネットたかた」の社長の半世紀を観た。
長崎の小さな町のカメラ店から出発し、いまや年商1500億円の大企業となったジャパネット。
とくに印象的だったのは、高田社長の商売への情熱と、「人が来ないからこそ、生まれた工夫」の数々だった。
ビデオカメラが発売された時、近所の人の家に直接行って子どもの映像を撮り、それをテレビにつないで見せて、小さな町ですごい数のビデオカメラを売ったそうなのだが、「高田社長は、製品の機能ではなく、それによって、どう生活が変わるかをお客さんに説明していた」とのことだった。
簡単そうにみえて、技術畑の人間にはなかなか難しい事なのだと思う。
ああ、これはジョブズ復帰後のアップルの広告戦略と同じだよなあ。
『ジャパネットたかた』は、高田明社長のパフォーマンスの印象が強いのだけれど、テレビを通じてあれだけの商品を売ることができたのは、ずっと「スペックの高さ」「機能の豊富さ」で、売る側がアピールしようとしてきた電気製品を「それを手に入れることで、ふだんの生活がどう変わるか」という「買う側の視点」で観ていたから、なんですよね。
このICレコーダーの売りかたなど、まさにその典型例です。
ICレコーダーって、インタビューをする人とか、会議の録音とかに使うものだとみんな思うじゃないですか。
でも、こういう使い方を示されると、それまで興味がなかった人も「買ってみようかな」ということになるのです。
そういう人たちは、音質とか容量にはあまりこだわらず「たかた社長が紹介していたアレ」を買ってくれる。
この「商品を売る」というのではなくて、「それを手にすることによって、こんなふうに生活が変わる」ことをアピールするのは、スティーブ・ジョブズのアップルがやってきた広告戦略と同じなんですよね。
だから、『ジャパネットたかた』には、通販の会社でありながら、アップルと同じような「信者」がたくさんいるのです。
そして、アップルの武器が「クールさ」だとしたら、ジャパネットは、「情念」みたいなものを売っています。
これは10年前のインタビューなのですが、今読んでも面白い。
高田の願望は、2004年秋に放映されたテレビCM「新しい人。ビデオカメラ篇」に、象徴的に描かれている。このCMは、高田が企画段階から全面的に関わって制作された。
——テレビ画面を見つめる男の横顔。独白が流れる。
<子供の頃の自分を見て喜ぶ男は少ない。僕は今、古いビデオの中の父の姿をじっと見ている。僕を叱る顔、僕をなだめる顔、僕を見守る目。そんな父の姿は、遠い幸せな日々に僕を連れ戻してくれる>
ビデオには、若かりし頃の父親が子供達と遊ぶ古い映像が流れている。ソファに座る男のひざには、まだ幼い息子が遊んでいる。静かな独白が続く。
<子供のために僕を撮ろう>
『ジャパネットたかた』と高田明前社長って、「とても古くさくて、だからこそ、普遍的なもの」を伝え続けた人だったのかもしれませんね。
だからこそ、「引退」が、こんなに寂しい。