2012年 05月 05日
ロシア科学アカデミ-の総合遺伝学バビロフ研究所は、大惨事でどれほど遺伝的障害が発生するのか、その予想数を発表している83);1988年からのUNSCEAR(放射線の影響に関する国連科学委員会)レポ-ト84) によれば、北半球のすべての汚染された国々の集団線量は総計600,000人SV(訳注:下記参照) と推定され、この40%、つまり240,000人SVは旧ソ連に降り注いだ。出産年齢の人々は人口のおよそ40%である。したがって、集団線量のおよそ40%は将来世代に悪影響を及ぼすことになる。それは汚染された国々全体では240,000人SV(訳注:600,000人SV×40%)であり、またチェルノブイリ地域(旧ソ連)に限ると96,000人SV(訳注:240,000人SV×40%)になるだろう。 (訳注:人SVとは人数×被ばく線量〈シ-ベルト〉のことで、ある集団での放射線健康被害の発生数を推計するための統計手法のひとつである。たとえば、3万人の集団が被ばくしたとする。その線量は2万人が1ミリシ-ベルト、1万人が2ミリシ-ベルトであったとすると、集団線量は2万人×1mSV+1万人×2mSV=4万人mSVということになる。1件のがん過剰死を生みだす線量が仮に100ミリシ-ベルトだとすると、4万人mSV÷100mSV=400人、すなわち、がん死が400人増えるということになる。集団の全員が同量の放射線を浴びる必要はない。遺伝子被害についてはまた別に計算された線量が用いられる。なお、以上の数値に関しては理解を容易にするために用いたもので、実際とは異なることをお断りしておく) この基本デ-タをもとに、事故よる遺伝的被害がどこまで拡大するのか推測することができる。多因子的遺伝病もリスク評価の対象に入れた場合、旧ソ連の汚染された国々では、第一世代の遺伝的被害は1,200人~8,300人と予測される(訳注:この数字を算出するには遺伝的被害を発生させる線量はどれほどなのかを知る必要がある。元論文に記載があるはずだが、入手できず詳細は不明)。今後予期される遺伝的被害の約10%が第一世代に生ずる-すなわち、これらの国々でその後の世代も含めるとこの10倍の12,000人~83,000人の遺伝的被害が生ずるという計算になる。北半球の汚染された国々全体では、第一世代では合計で3,300人~23,000人(訳注:おそらく原文の数字は誤植で、3,000人~20,750人が正しい。これは〈1200人~8300人〉×100/40で求められる)になり、数世代の長期でみると10倍の30,000人~207,500人になるだろう。 驚くべきことだが、このUNSCEARの見積もりではヨ-ロッパでの集団線量がチェルノブイリ地域のそれより高く出ており、必然的にヨ-ロッパでの遺伝的被害者の数は、チェルノブイリ地域のそれよりも高くなると推定される。この理由は主として人口密度がヨ-ロッパではチェルノブイリ地域よりもとても高いことにある。 UNSCEAR自身も同様の計算を行い、次のように述べている。ヨ-ロッパで318,000人SVの集団線量があり、上に挙げられた条件下ではヨ-ロッパの第一世代の遺伝的被害者は1,800~12,200人になるであろう(訳注:あのWHOの1部門のUNSCEARでさえ、これほどの被害数を予測していたとは驚きである)。さらに、その後の世代も含めるとヨ-ロッパで合計18,000~122,000人の遺伝的障害が発生すると考えなければならないことになる85)。 チェルノブイリ原子炉事故のあと1週間ほどで多くのドイツ人がウクライナ各地から旧西ドイツに避難帰国した。彼らの染色体を分析したところ、驚くべきことに染色体異常(奇形の原因となる)が明らかに増えていた。なかでも無動原体の染色体異常は2動原体異常のおよそ2倍もあった。まれな環状染色体も見つかったこの検査を受けた人々の多くは会社の仕事でウクライナに出張し、チェルノブイリから約400キロメ-トル遠方に住んでいた。血液検体は1986年5月に採取され、全血培養による検査が行なわれた87)。 (訳注:染色体を顕微鏡で見るとアルファベットのXのような形をしている。このXの交わる中心部を動原体という。無動原体とは染色体の端がちぎれた小さな断片で動原体を有しない。2動原体とは2個のXが両手をつなぐようにくっついた状態をいう。3個くっつくと3動原体ができる。環状染色体とは1個のXの端と端がくっついて2個のリングができる状態をいう。いずれの場合もXの端が放射線などでちぎれると起きやすくなる)。 ベラル-シのラジウクらの調査では、在胎5~12週の胎児を調べたところ奇形が増加していた(訳注:もとの論文を入手できないので診断方法は不明だが、流産した胎児を調べたかあるいは胎児エコ-による診断と思われる)88)。また、彼は1985年から1994年まで10年間の先天性奇形の頻度を報告している。それによると、ベラル-シでは1985年に出生1,000人対して12.5人の先天性奇形の発生があったが、事故後の1994年では1,000人に対して17.7人に増えていた。また、1991年から奇形を診断するため胎児エコ-検査が妊娠早期に行われるようになった。ラジウクの考えでは、超音波検査のあと1,551例に人工妊娠中絶が行われたことを考慮すると、17.7人にこの数字を加算する必要がある。すると1994年は1,000人の出生または妊娠に対し22.4人の奇形があったことになる。その数字は10年前のおよそ2倍である。奇形の主なものは無脳症、脊椎2分症、口唇口蓋裂症、多指症そして四肢筋委縮症であった89)。 ペトロヴァらの調査(ベラル-シ)では、先天性奇形のほかに貧血の子どもたちも増えていた90)。 チェルノブイリ事故から9ヶ月後の1987年、ベラル-シでは21トリソミ-(21番目の染色体が1個多く計3個あり、臨床的にはダウン症という)の新生児が増加していた。ザトゼピンらは1981年から2001年までの11年間の調査デ-タをもとにこれを見つけ出した。彼らは、チェルノブイリ事故との時間的関係性から1987年1月のダウン症の増加は、チェルノブイリからの放射性降下物によるものと推定した(訳注:出産日から推定すると受精したのは事故とほぼ同時期となる。もし、この時期に放射線などで障害を受けると染色体数に異常が生ずる恐れがある)。他の要因、たとえば出生前診断で過剰に診断されたとか、高齢出産などの原因は除外された91)。 モスクワ大学とレスタ-大学の研究者は、かつて両親が原子炉から半径300キロメ-トル以内に暮らしていた79組の家族を集め、血液サンプルを採取し検査した。彼らが驚いたことには、1994年の2月から9月に生まれた子どもたちに突然変異のケ-スが2倍に増えていた。遺伝学者の考えでは、検査されたのはわずか2歳の子どもであり(訳注:事故から8年後に生まれており被ばく量は比較的少ないと考えられる)、この変異は親の生殖細胞の遺伝的変化によるものだと説明している。 オ-スティンのテキサス大学デビッド・ヒルズ教授は、チェルノブイリ石棺のまわりに棲む野ネズミは高濃度に汚染されたエサを食べて生きていることに注目した。そして、そのネズミの被ばくが突然変異に及ぼす影響を調べた;“突然変異の割合は正常の実に10万倍にもなっていた”(訳注:ネズミでこれだけのことが起きており、人で突然変異が起きていても何の不思議もない、ということを言いたかったのだと思う)92)。 ゴドレヴスキ-は、ウクライナのルヒニ-地区で調査し、新生児の日齢7日までの罹病率と先天的発達異常について報告した。罹病率は1985年には出生1000人に対し80人だったが、事故後の1995年には4倍になった(元論文では図に示されている)。発達異常の絶対数は1985年に4人だったが1989年には17人、1992年には33人と高く変動したが、1996年には11人に低下した93)。 ヴラジミル・ヴェルテレッキ-(米国南アラバマ大学)はロヴノ(訳注:現在名リウネ)地域の先天性奇形の発生率とその地域分布を調査した。この地域では北部が南部より明らかに高度に放射能汚染されていた。神経管欠損症(訳注:胎児奇形のひとつで、脳や脊髄のもととなる神経管が作られる妊娠4週~5週ころに生ずる。代表的なものに無脳症がある)の頻度は出生10,000人あたり22人とヨ-ロッパに比べて非常に高かった(ヨ-ロッパ平均:9.43人)。そして、南部より高度に汚染された北部では神経管欠損の割合が有意に高いことがわかった;出生10,000人に対して南部18.3人、北部27.0人であった(オッズ比1.46、95%信頼区間1.13-1.93) 94)。 これらの論文以外にも多数の報告がある(表4)。 同様にK.スペルリングの調査でもチェルノブイリ事故から9ヶ月後のベルリンでダウン症の急激な増加を認められた。1987年1月、西ベルリンで正常では2~3人であるはずのダウン症の出生が12人であった。この数値は偶然ではなく、“有意に高い”ものであった98)。これら12例のうち8例は受胎の時期がベルリンでの放射線量の増加が最高であった時期と一致した99)。彼らはこれらのデ-タをさらに詳しく分析し、1987年のダウン症の発生率の増加を再確認し、British Medical Journal誌上で発表した。この分析で得られた数値はきわめて正確なものであった。 彼らはその原因が放射性I-131ではないかと推測した。それはI-131の半減期が約8日であることや1986年春に環境や空気中および食物にI-131が極めて高濃度に存在したからである。今もって議論されているのは、卵巣と甲状腺に相互作用があるか、あるいは卵巣そのものにI-131が蓄積されるのかということである。かなり以前の研究であるが、ダウン症やその母親は甲状腺機能亢進症(クラ-ク1929)や自己免疫反応(フィアルコウ1964)のような甲状腺疾患にかかりやすいとの報告がある100)。(訳注:この報告とI-131・ダウン症を結び付けるのは少し無理があるかもしれない) ベルリンでの調査に続いてスペルリング教授はドイツ国内の40の人類遺伝研究機関で国家的サ-ベイ(調査)を開始した。1986年から28,737例の出生前染色体分析をしたところ、393例で常染色体数が増加していた。そして、そのうち237例は21トリソミ-だった。チェルノブイリ事故の数日後に受胎した胎児では、この頻度がもっとも高かった。そして、放射能汚染がよりひどかった南部ドイツではそれが顕著であった101)。 ベルリンでのスペルリング教授のダウン症に関する研究は、のちの再分析で正しいと認められた。フランスのフォントネ・オ・ロ-ゼにある核放射線安全防御機関のペレ・ヴェルガ-は、放射性被ばくとダウン症の原因となる染色体異常の発生の可能性について、胎児被ばくや母体年齢も考慮に入れた上で、入手できた論文を再分析した102)。そして、放射線被ばくがダウン症のリスクファクタ-である可能性は否定できないと結論した(訳注:この最後の一行は訳者が要約を読み、追加したものである)。 チェルノブイリ事故が起きた1986年、ハンブルグでは2,500g以下の未熟児や早産児数が過去30年で2番目に多かった。この数字には早産児同様未熟児も含まれている。ハンブルグ議会は議員のウルズラ・カベルタ・ディアスの質問に答えて次の情報を公開した。1981年から1985年まで低出生体重児は1,000人当たり平均60人だった(1982年は65人)がチェルノブイリ事故の年には67人になった(訳注:有意差はないかもしれない)103)。 旧東ドイツでは流産および16才以下の死亡例はすべて剖検をすることが法律で定められている。チェルノブイリ事故以降、放射線被ばくに典型的な先天性奇形もまた増加した。イェ-ナで登録された先天性奇形は1985年に比べ、1986~87年には4倍に増加したが、その後はまた低下した。増加の主なものは中枢神経系や腹壁の奇形であった104)。旧東ドイツで登録された先天性奇形を分析すると口唇口蓋裂は1980年~1986年に比べ1987年には約9.4%の増加がみられた。これは放射性降下物の影響がもっとも大きかった北部の3地区でより顕著であった105)。 1987年の西ベルリンの年間健康報告によると、死産児では奇形の発生が倍増していた。四肢の奇形がもっとも多く、次いで心臓や尿道の奇形そして顔面裂の発生もまた増加した106)。 バイエルンの南部地方は放射性降下物による汚染が比較的高かった地域だが、1987年末の時点(これはセシウムによる妊婦への被ばく量が最高となった7ヶ月後である)での先天奇形の発生率がバイエルンの北部地方よりおよそ2倍高かった。1987年11月と12月の調査では、バイエルンの地区ごとの先天奇形発症率は地表でのセシウムの汚染レベルと高い相関性を示した。A.ケルブラインとH.キュッヘンホフは南部および北部バイエルンにおける先天奇形発生率と妊婦のセシウム被ばくの影響が7ヶ月遅れで現れたことに時間的関係性があることを明らかにした。 汚染のひどかったバイエルンの24の地区では、1987年11月と12月の先天奇形発生率が汚染の少なかった24の地区のおよそ3倍であった。汚染がもっともひどかった10の地区ではもっとも少なかった10の地区に比べ先天奇形発生率はおよそ8倍であった。(オッズ比7.8 p<0.001)この結果は死産の増加率と類似していた。 バイエルンはチェルノブイリの事故以前から先天奇形のデ-タを有する唯一の州である。このうち1984年から1991年のデ-タはバイエルン開発環境省の指示で、見直し調査が行なわれた107)。H.シェルブらはチェルノブイリ事故のあとに先天奇形発症率が増加したこととバイエルン地区の地表のセシウム汚染レベルとのあいだに相関性があることを見出した。彼らは事故前の1984年~1986年に比べ、事故後の1987年~1991年に先天奇形、特に口腔顔面裂のグル-プが増加していることを見出した108)。 シェルブとヴァイゲルトの2番目に重要な仕事は、環境省の指示のもと、バイエルンで得られた奇形のデ-タを分析したものである。彼らは事故後の1986年10月から1991年12月のあいだにバイエルンで先天奇形が1,000例から3,000例過剰に増えたと推計した109)。著者らは、この数値は1kBq/m2あたりの死産リスク(0.5~2.0%)と同等であると見積もっている。慎重に解釈し、セシウム134と137の外部線量のみを考慮したとしても、これは1.6/(1mSv/a)の相対リスク係数があることを意味している。このことは生殖障害に関しては比較的高い閾値が存在するという意見とは相矛盾する110-112)。 事故のあとに体内被ばくした子どもでは知能レベルが低下するという悪影響もみられた。ノルウェ-での最近の調査によると、放射性降下物でもっともひどく汚染された地域では思春期になった子どもたちの認知能力が低いという結果であった。 妊娠8~15週でチェルノブイリ事故に遭い、そのあとも放射性降下物で汚染された地域(ノルウェ-国内)に住み続けた妊婦たちがいた。彼女たちから生まれた子どもたちは思春期になった時点でIQ値が低いことが明らかになった。オスロ大学の精神科医スベルドヴィック・ハイア-ヴァングとそのグル-プは思春期の認知能力に対する低線量胎内被ばくの影響について最近の論文で報告した。これはスカンジナビア精神医学会の雑誌Scandinavian Journal of Psychologyに発表された。この論文のおかげで、以前に報告されたスウェ-デン(ア-モンドら2007)やウクライナ(ニャ-グら1998)、ベラル-シ(ロガノフスキ-ら2008)からの報告内容が正しいことが実証された113)。 追記:チェルノブイリ事故-ヨ-ロッパに住む動物への影響 ドイツではチェルノブイリ事故後、ヒトのみにならず動物にも奇形(形体異常)が観察された。そして動物では常態的に奇形が報告されている。ギ-セン大学遺伝学部門にはチェルノブイリ事故後1年の間に8千匹にも及ぶ奇形の標本が集められた。その標本の多くはこれまでに見たこともない奇形であった。バイエルンやコルシカ島では、牛の流産や早産が増え、両目のない子豚、3本足の鶏、足のないウサギ、毛のない羊や片目だけの羊、一部分の皮膚が欠損した仔馬、コルクスクリュ-のような足の子山羊などが観察された。 また、畜産家の中には、40%以上もの若い動物が死亡したとの報告する者もあった。山羊は放射線に最も敏感な動物である。1987年、交配したにもかかわらず多くのは妊娠しなかった。さらに、流産、早産、死産、問題のある誕生、嚥下反射の欠乏や、小さな肢、もしくは大きな肢、甲状腺の問題、早期の死やかなりの奇形が観察されと報告された。これらのデ-タはライン地方、ザ-ル地方、ザ-ルプファルツ郡、ラインプファルツ郡からのものだが、(明るみになると困る)家畜家からの圧力があったにも拘らず、何度も報告された114)。 1987年、南ドイツで山羊の雌雄同体、死産、奇形が増加していた。山羊畜産場から無作為に133牧場がえらばれ、チェルノブイリ事故の前後で集計が行われた。この調査には拘束はなく、チェルノブイリ事故前の890出産と事故後の794出産とで比較調査された。一腹からの出生匹数は1.93匹あったものが1.82匹と減少した。雌雄同体の発生率は2.2%だったものが3.4%と増加した。死産率は4.66%から5.77%へ増加、奇形による死亡率は0.93%から1.32%へ増加、生まれてきたものの奇形の割合は0.31%から1.10%へ増加した。これらの悪化は、主としてチェルノブイリ事故による放射性降下物の影響によると思われた115)。 コーネリア・ヘッセ・ホネガ-はチェルノブイリ事故以前から動物のストレスによる奇形を描くことを職業としてきた。その科学的かつ詳細な描写は動物の遺伝的障害を視覚的に印象深いものとしている。彼女は事故後も多くの年月を費やし、メクラカメムシ(カメムシ亜目)の各種奇形を描き、記録してきた。そして、原子力施設の付近で捕らえたカメムシ類の奇形も記録してきた。彼女の描写は芸術的かつ印象的であるばかりではない。すぐには気付かないかもしれないが、放射線障害に関心を向けさせ、事はとても重大であると感じさせるであろう116)。 イギリスでは、チェルノブイリ事故後19年たってもいまだに、放射能汚染での規制が379の牧場(家畜業者)、20万頭の羊、7万4千ヘクタ-ルで継続している。同様の規制がスウェ-デン、フィンランド、アイルランドでもトナカイを対象に行われている117)。2002年のヨ-ロッパ委員会からの報告では、ドイツやイタリア、スウェ-デン、フィンランド、リトアニア、ポ-ランドに生息する野生生物・植物、イノシシ、鹿、マッシュル-ム、野イチゴや魚からも高濃度の1kgあたり数千ベクレル以上のセシウムが確認された118)119)。 4.3 他の国々 1987年初頭、悪いことに西トルコ地方で先天性奇形が増加した。黒海の西に面したデュズジェ地方で、1986年11月に10例の無脳症の新生児が生まれた。デュズジェ地方で開業をしているファルク・テゼルによると、これまでに無脳症例はたったの3例であった。この奇形以外にも神経管閉鎖不全が多く報告されている120-126)。 中枢神経系の欠損や四肢の奇形を代表とする先天性奇形の増加は、フィンランドの汚染地域でも確認された。デンマ-クやハンガリ-、そしてオ-ストリアでも中枢神経系の欠損が数多く観察された127)。 ブルガリアのプレヴェン地方では、心臓、中枢神経系の異常、そして多発奇形が観察された。1980年から1993年にかけて、クロアチアの大学では死産や28日以内に死亡した未熟児の剖検を行なった。その結果、チェルノブイリ事故後、明らかに中枢神経系の奇形が増加していた128)。 L.ザグゼンらによると、1986年8月から12月のフィンランドで未熟児出生率が増加した。未熟児の母親たちは、妊娠1か月から3か月にかけてちょうどチェルノブイリ事故の放射性降下物で強度に汚染された地域に住んでいた。同時に、L.ザグゼンらは、フィンランドでの放射能汚染は、満期産児には影響を及ぼさない程度であったと結論している。しかし、この報告からは胎生期の放射線汚染により先天的奇形が増加したかは不明であり、また、フィンランドの汚染地域での障害児の頻度についても不明であった129)。 J.ポフル・リュ-リングらはチェルノブイリ事故の影響としてオ-ストリアのザルツブルグに住む人々のリンパ球を用いた染色体損傷の研究結果を報告した。1987年、チェルノブイリ事故の結果、人が被ばくした放射線量は以前と比べて15%から68%の幅で増加していた。実際の放射線レベルは、中央値が年間0.9ミリグレイから、事故後には年間2ミリグレイに増えたが、リンパ球の染色体損傷はチェルノブイリ事故後6倍に増加していた。さらに高濃度で放射能汚染された場合は染色体損傷の頻度は減少していた。このポフル・リュ-リングが示した容量/効果曲線は、他の研究者たちの報告と一致していた130)。 チェルノブイリ事故後、スコットランド131)とスウェ-デン132)もベルリンやベラル-シと同様にダウン症が突然増加した133)。 ホフマンは予測モデルによって計算された最新の論拠-チェルノブイリから隣国に降った放射性物質は量がとても少ないので目に見えるほどの影響を及ぼさない-は間違いであると主張した。実際、ウクライナ、ベラル-シ、ロシアでチェルノブイリ事故後、染色体の異常が起きたことが証明されている。生物学的放射線測定法により、(計算による)集団の放射線被ばく量は過小評価されていることが明らかとなった134)。
by fujinomiya_city
| 2012-05-05 00:51
| 本「チェルノブイリの健康被害」
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