アメリカ国内に出回っている銃は約3億丁、自殺を含めて年間3万人超が銃の犠牲となっているという。たびたび行われてきた規制も結果的にはザル法であり、効力を発揮しているとは言えない。
背景には、銃の販売業者や愛好家の集まりである全米ライフル協会(NRA)の政治への圧力と、国民の武器保持の権利を定めた憲法修正2条の存在がある。その一方、ダグラス高校の事件の直後に高校生たちが銃規制を求める声を上げたのを皮切りに、全米各地で大規模なデモが繰り広げられ、銃規制を巡る議論は近年になく高まってきているようだ。
2016年に公開された『女神の見えざる手』(ジョン・マッデン監督)は、銃規制法案を巡って暗躍する女性ロビイストの姿を描いたタイムリーな作品だ。
おびえる女から立ち向かう女へ?
ロビイストとは、「政府の政策に特定の影響を及ぼすことを目的として政治活動を行う個人」のことだが、アメリカにはロビイストを擁するロビー会社がいくつもあり、さまざまな政治団体の依頼を受けて政党や議員、マスメディアに働きかけ、時には世論を動かし、法案などの重要な政治的決定に影響を与える役目を負っている。
映画は、生え抜きのロビイストとして業界に名を知られるエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)が、ロビー活動における不正の嫌疑で、スパークリング上院議員による連邦議事堂での聴聞会に召喚されているシーンから始まり、次いで3カ月と一週間前に飛んでこれまでの経緯が語られていく。
業界大手のコール=クラヴィッツ&ウォーターマンに所属するエリザベスのもとに、ある日、「新たな銃規制法案に対抗するため、女性向けの組織を作りたい」と、銃擁護派団体の代表者が仕事を依頼してくる。「おびえる女から立ち向かう女へ」というマッチョなキャッチコピーに爆笑し、鼻であしらうエリザベス。彼女の態度に怒った上司デュポンは、解雇をほのめかす。
その夜のパーティの後、反対陣営の銃規制法案賛成工作に携わる小さなロビー会社、ピーターソン=ワイアットのCEO、シュミットからの勧誘を受けて、エリザベスは移籍を決意。
チームメンバーのうち4人がついてくることになったものの、部下のジェーンは残留し、エリザベスの同僚だったコナーズのチームで銃規制法案廃止の仕事に就くことに。エリザベスは重要な仕事にあたって、もっとも信頼を置いていた部下と図らずも対立関係という、大きな緊張を抱えることになる。