日下直子「大正ガールズ エクスプレス」
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『KISS』の日下直子「大正ガールズ エクスプレス」が、ギリギリで面白い。何がギリギリって、作者の迷走がギリギリ。
舞台は大正時代の裕福な女学生が通う全寮制の学校。美杉千世は、進歩派の美少女で、ジャーナリストを目指しており、壁新聞を作って同級生をアジったりしているが、今一つ成果はない。そこに飛び込んできた、よし子は借金の肩に売られた女の子で、女衒から逃げて、千世にかくまわれる。階級の差を越えて、二人が社会を変えるために……とはならない。猪突猛進の千世と、天然ボケのよし子のドタバタギャグ漫画である。
千世は、よし子とコンビを組んで、風刺漫画で賞金を目指すが、あえなく失敗。もう少し、学園内に目を向ける運びとなり、演劇部で学園祭に劇をすることになる。張り切る千世だが、周囲の同級生たちは過酷な稽古に疲れ果てて、ギブアップしてしまう。そこで千世は、自分が女性であるにもかかわらず、女性であるがゆえにバカにしていたことに気づく。そこで、自分が先頭を切って「女性の社会進出」「男並みの仕事」を彼女たちに押し付けるのではなく、裏方に回って、一人ひとりが持つ力を発揮させるために励ますようになる。こんな風に読めば、フェミっぽいというか、リブっぽい漫画のような気がしてくる。
けれど、そうした理念を訴えるような漫画ではない。あるときは、金持ちの坊ちゃまや元女衒(男性たち)に承認されることで救われるような展開を予感させるシーンもある。けれど、日下さんは、ギリギリでそれをギャグにしてしまう。千世さんは、元女衒の承認の振る舞いを無視するし、坊ちゃまはよし子を承認する振る舞いができなくらいボケをかます。日下さんは、計算や信念ではなく、「こうしたほうがいい」と思うに任せて、右に左にぐらぐらゆれながら、物語を前に進めているんだろう。私は、この作品がどっちに転ぶか、気になってしょうがない。
でも本当によかったな〜と思っている。日下さんは、前作の「ヤマありタニおり」はやっぱり苦しかった。
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私が一番好きなのは、馬場原さん。馬場原さんは、いつも脳内で少女小説を妄想していていて、キスシーンを想像しては、萌えて絶叫している。そして、大量の同人誌を刷って在庫を余らしてしまう。とてもシンパシーを感じる。自分の妄想ほど、萌えるファンタジーはない。自在に調整できるので、完璧。そして、他人の客観的な評価には堪えない。でも、そのファンタジーを共有して、エドワード(小説の登場人物)を妄想通り描いてくれるよし子がいるなんて、最高じゃない?
今号から、馬場原さんと、千世、よし子はサナトリウムに朗読にいくことになるのだけれど、この話がどう転がるのか楽しみにしている。