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大正・昭和初期に函館をはじめ国内で活躍した建築家の関根要太郎(1889～1959)、山中節治(1895～1952)、山中眞三郎(1897～1977)兄弟の設計作品、函館の歴史的建造物や風景、関根・山中兄弟の故郷である秩父、明治・大正・昭和に建てられたモダンな近代建築などを紹介します。
by ヨウタロウ研究員

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私が撮影した建築家・関根要太郎(1889～1959)設計作品

◆私が撮影した建築家・関根要太郎の設計作品

　・・・大正から昭和初期にかけてモダンな作風を武器に活躍した建築家

　暖冬と言われながら、このところ非常に寒い日々が続きますが、皆さま如何お過ごしでしょうか。冷たいからっ風が頻繁に吹く関東地方ですが、昨日の午後は電車とバスを乗り継いで、埼玉県の大宮駅から西に数キロ離れた某公園墓地に葬られている、建築家・関根要太郎(1889～1959)の墓参りをして参りました。

　実は一昨日(2月20日)は関根の66回目の命日にあたり、数年ぶりに関根の墓を訪れました。遥か遠くに関根の郷里である秩父の霊峰・武甲山を望む美しい公園墓地に関根の墓地はあります。

　戦後は埼玉県の公共建築の設計を多く手掛けていた関根。昭和34(1959)年2月初頭に上尾の現場で体調を崩し、埼玉浦和の元町に建つ自宅で療養を続けたものの、2月20日に69年に渡る生涯を閉じたと、今から20年ほど前に御遺族から伺いました。

　関根は明治40(1907)年3月に埼玉県秩父郡立農学校(…現埼玉県立秩父農工科学高校)を卒業後、18歳で郷里秩父から大志を抱き上京。明治42(1909)年2月の明治工学校建築本科卒業後は、幾つかの建築現場での実務を経て、建築家・三橋四郎(1867～1915)の建築事務所に入所します。三橋四郎建築事務所在籍時は国内の業務のほか、中国・旧満州奉天(…現瀋陽)、牛荘の日本領事館の建設のため中国に出張。帰国後はこの時の報酬を元手に、東京高等工業学校(…現東京工業大学)建築学科に選科生として入学し、大正3(1914)年7月に同校を卒業しました。

　東京高等工業学校卒業して間もなくの、大正3(1914)年の秋に関根は不動貯金銀行の子会社で、同行の店舗営繕を手掛ける〔日本建築株式会社〕という建築事務所に入社(…大正6年からは不動貯金銀行の組織改編のため、日本勧業株式会社建築部と改称し、大正9年3月に建築部は解散)。

　入社3年目あたりからは設計主任として、全国各地に建設される不動貯金銀行の店舗設計を手掛けるようになります。特に大正中期はその仕事は多忙を極めており、北は北海道の小樽・札幌、南は九州の鹿児島まで40あまりの店舗設計を手掛け、慌ただしく国内各地を巡っていたようです。

　そして不動貯金銀行の店舗建設を機に、数多くの建築設計を手掛けるようになったのが函館だった訳です。更に大正9(1920)年4月には実弟である山中節治(1895～1952)と共に、東京銀座に〔関根建築事務所〕を開設。これまで手掛けてきた不動貯金銀行の店舗設計のほか、函館や東京で商店や住宅の設計、仁壽生命という東京に本社を置く生保会社の店舗営繕など数多くの建築設計を手掛けるようになりました。関根＋山中兄弟が設計した建築作品はとてもモダンなもので、当時の建築雑誌の写真ページで頻繁に紹介される事になりました。

　大正末には実弟の山中節治は兄・要太郎の建築事務所から独立しますが、三橋四郎建築事務所時代の後輩で当時分離派建築会のメンバーだった蔵田周忠(1895～1966)がチーフデザイナーに就任。更にモダンな作品を多く制作していきます。

　東京調布の京王閣遊園地(昭和2年築)、東京本郷の不動貯金銀行白山支店(昭和2年築)、東京麹町の不動貯金銀行九段支店(昭和3年築)、東京内幸町の仁壽生命本店(昭和4年築)、東京多摩市に現存する旧多摩聖蹟記念館(昭和5年築)などモダンな作品を数多く制作しましたが、昭和6(1931)年に国内の不景気や関根の健康上の理由により事務所は解散します。

　その後、関根は長年に渡り関根の理解者であった、不動貯金銀行頭取の牧野元次郎(1874～1943)の計らいにより不動貯金銀行の営繕課長(…昭和10年代半ばには営繕部次長に昇進)に就任。これまでの銀行建築らしからぬモダンな作風から一転、クラシカルなお堅い作風に転じます。そして昭和17(1942)年に不動貯金銀行を退職するまで100以上の同銀行の店舗設計を手掛けました。現在は京都、姫路、下関に関根が設計した不動貯金銀行の旧店舗は現存しています。世間的に評価はされていませんが、関根は戦前を代表する銀行建築家の一人だった訳です。

　また戦局が厳しくなった時期に関根は、東京麹町の自宅とは別に埼玉浦和に土地を購入。戦後は浦和に自身の建築事務所を再開させます。また高齢になっていた要太郎の助手として、８歳年下の実弟・山中眞三郎(1897～1977)が関根を手伝います。

　ご遺族の話によると事務所が再開した当初は、戦後の混乱期という事もあり大口の仕事は殆どなかったといいますが、昭和27(1952)年竣工の桶川町立小学校、昭和28(1953)年竣工の上尾町役場を、〔平衡構造工法〕というローコストで建設可能な工法を用い、従来の半額近い予算で竣工させます。

　このローコスト建築の設計は、戦後の混乱期で慢性的な予算不足に苦しめられていた埼玉の地方自治体関係者から注目を集め、関根のもとには上尾、桶川のほか、羽生、両神(…現小鹿野)、大滝(…現秩父)、野上(…現長瀞)、鳩ケ谷(…現川口)、戸田、朝霞などの各市町村から相次いで役場、公立学校の校舎や体育館、市民会館などの設計の依頼が舞い込みます。低予算という事もあり、当時の写真を見ると、豪華な建築とは言い難いものが多かったようですが、所々に若い頃を彷彿させるようなモダンな箇所が見られるのも、この時期の関根作品の特徴です。

　私が埼玉県秩父出身の建築家・関根要太郎について興味を持ってから、気が付けば25年以上の歳月が過ぎました。関根について詳細な調査が殆どされていなかった事もあり、昭和50年代半ばに日本建築学会が刊行した〔日本近代建築総覧〕、近代建築研究の第一人者である堀勇良さんが執筆された〔日本建築　明治大正昭和　10・日本のモダニズム〕や、戦前に出版された建築雑誌などを参考に関根作品探しの旅は始まりました。しかし時は21世紀に入っており、函館以外は殆ど関根作品に出合えなかったのが実情です。

　そして関根晩年にあたる戦後の活動については殆ど手掛かりがありませんでした。しかし今から20年前に関根の姪にあたる秩父館(明治12年築、…秩父館は要太郎のお母さまの実家にあたる)の女主人Eさんのご尽力により、関根のご遺族にお会いする事ができ、幾つかの一次資料をお借りした事により戦後の活動の大概が判明した次第です。

　語り始めるときりが無くなるのですが、故人たちの天からのお導きか、時おり不思議な縁に恵まれる関根要太郎研究であります。残念ながら秩父館のEさんは数年前に永眠されましたが、私の大恩人の一人であります。

　この他にも多くの方のご教示や調査協力により、約25年の間に推定作品を含め18軒の関根作品に出合えました。しかし時の流れと共に幾つかの作品は解体されてしまったのが現状です。今回も既に発表した写真だらけですが、古いものは2004年から新しいものは昨年(2024年)までに撮影した関根要太郎作品をご覧ください。

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◆函館海産商同業組合事務所(函館市、設計：関根要太郎＋山中節治、大正9年築)

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◆旧亀井喜一郎邸(函館市、設計：関根要太郎＋山中節治、大正10年築)

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◆旧石塚商店(函館市、設計：関根要太郎＋山中節治、大正11年築、平成23年解体)

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◆旧仁壽生命函館支店(設計：関根要太郎＋山中節治…推定、大正10年ころ築)

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◆旧百十三銀行本店(函館市、設計：関根要太郎＋蔵田周忠、大正15年築)

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# by sy-f_ha-ys | 2025-02-22 14:22 | ◆関根要太郎研究＠埼玉 | Trackback | Comments(0)

横浜市中区山手町の横浜市イギリス館(昭和モダン邸宅再見2025)

◆旧英国総領事公邸

　・・・・昭和12年築、伝統の中にモダニズムが取り入れられた山手の西洋館

　先週末は平成末の2010年代に撮影した写真を再掲して、函館市元町に建つ旧イギリス領事館(大正2年築、現函館市旧イギリス領事館)を紹介させていただいた。20世紀前半までは世界一の国力を誇り、世界中に植民地を置いていた大英帝国という事もあり、日本国内にも東京の大使館のほか、主要な港町には領事館が開設され、東京の大使館のほか函館、横浜、下関、長崎にこの当時建てられた領事館だった建物が現存している。

　開港直後にイギリス領事館が置かれた横浜。大正12(1923)年9月に発生した関東大震災では、日本大通りにあった領事館のほか諸施設が焼失・倒壊、イギリス領事館関係者にも多くの犠牲者を出した。それから8年後の昭和6(1931)年にはその跡地に新たな領事館が再建される。

　再建された領事館は、震災を教訓に耐震と耐火に強い鉄筋コンクリート造で建てられ、石造り風デザインの重厚なデザインとなった。

　横浜の大桟橋に近く、イギリス、ロシア、アメリカの各領事館をはじめ、神奈川県庁や生糸検査所やなどが置かれ、横浜では古くから主要な地であった日本大通り。実際に横浜の旧イギリス領事館(現横浜開港資料館)を訪れた方ならご存じのように、領事館を置くには若干狭隘な土地に建てられている。そのような経緯もあり山手の丘に建設されたのが、今回紹介している英国総領事公邸だったのではないだろうか。

　英国総領事公邸の竣工は、関東大震災で横浜が壊滅的な打撃を受けてから、14年後の昭和12(1937)年のこと。構造は震災を教訓にしてか、坂下のイギリス領事館と同様に鉄筋コンクリート造である。

　領事の公邸ではあるが、接待や社交の使用目的も考えていたのだろう、1階には大規模な応接室や食堂が取られいるのも特徴の一つである。今回ご覧いただいている写真は、昨年と一昨年のゴールデンウィークと真夏に撮影したものだが、いずれもこのスペースでコンサートや会合が催されていた。

　また関東大震災前は外国人倶楽部や教会、学校、邸宅など華々しい建造物が多く建てられた山手地区。しかし震災後から昭和初めの山手はかつての勢いを取り戻す事は出来なかったようで、大規模な建造物というと山手カトリック教会(設計：J・J・スワガー、昭和9年築)、フェリス女学院やセント・ジョセフ・インターナショナル・スクールなど、僅かしかなかったようである。その中で戦時色が色濃くなった時期に建てられたのが、山手の英国総領事公邸だった訳である。

　例の如く筆者の昔話になってしまうが、この西洋館が定期的に公開されるようになったのは、記憶が正しければ平成14(2002)年のことだと思う。実はこの年、この建物より500メートルほど離れた場所に建つベーリック・ホール(旧ベリック邸、設計：J・H・モーガン、昭和5年築)の一般公開が始まり、そちらに夢中になっていたのである。スパニッシュ・スタイルを主体に、邸内もカラフルに彩られたベーリック・ホールに比べると、とても地味に思えたのが正直な感想である。

　外観は領事の公邸という事もあってか、日本各地に現存する領事館と比較すると控えめなデザイン。瓦屋根や玄関そばのアーチ窓が設けられ、外壁が白塗りという事もあってか、函館の旧イギリス領事館を連想してしまうのは筆者だけだろうか。

　あと写真左手の海側部分は使用人室や厨房として使われていた部分で、バラ園部分から見るとなかなか絵になる構成になっている。逆に玄関の裏側は少し不格好な感じになっている。

　そして館内だが躯体が鉄筋コンクリート造という事もあってか、このすぐ近くに建つ山手111番館(旧ラフィン邸、設計：J・H・モーガン、大正15年築)の館内のような木調の調度品が多く用いられることもなく、全体的には無機質な感じ。しかしトップライトの玄関室や、美しい色合いのタイルが貼られた厨房や使用人室など、とてもモダンな雰囲気が漂う箇所も多く見られる。特に1階厨房は暖色の照明の雰囲気も良く、この西洋館に訪れるたびこのスペースに長居してしまう筆者である。

　また内部調度品はトラディショナルを基調としており、それをモダニズムに融合したという感じなのだろう。大正から昭和初期にかけての日本国内における建築ムーブメントは、イギリスの建築文化は完全に黙殺されていた感が強かったが、山手の英国総領事公邸を見ていると、それが不思議に思える完成度を誇る。

　一見すると地味だが、訪れるたびに味が出てくるのがこの建築作品の面白みである。

　ちなみに冒頭にご覧いただいた写真は、一昨年のゴールデンウィークに撮影したもの。この時期になると港の見える丘公園のバラ園は、様々な品種のバラの花が所狭しと咲き、公園内はとても賑わっていた。一見すると地味目な旧英国総領事公邸も、バラとの対比がとても絵になっていた。今年もスケジュールが合えば、バラと誇り高き英国建築をセットに撮影したいと思った次第である。是非時間をかけて味わっていただきたい、美しい西洋館である。

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◆旧英国総領事公邸(横浜市イギリス館)　◎設計：大英工部総署(上海ワーク・オフィス)　◎施工：不詳　◎竣工：昭和12(1937)年　◎構造：鉄筋コンクリート造2階建て、地下1階　◎所在地：横浜市中区山手町115-3　　❖横浜市指定有形文化財

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建物裏側は少し不格好なデザイン。

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★玄関脇のエンブレム

〔GRⅥ 1937〕は当時のイギリス国王・ジョージ6世(1895～1952、国王在位：1936～1952)と、横浜山手の英国総領事公邸の竣工年数を表す。

ジョージ6世は現イギリス国王のチャールズ(1948～、国王在位：2022～)の祖父、前女王のエリザベス2世(1926～2022、女王在位：1952～2022)の父にあたる。英国王室はこの前年に国王となったエドワード8世(1894～1972)が就任1年弱で退位し、弟にあたるジョージ6世が急遽国王になった。その間もなくに竣工したのが、横浜の公館だったのである。