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捜査資料は以上です。警部補どの! [昭和ガラクタ箱]

P1030925b-3.jpg  昭和ガラクタ箱―23
捜査資料は以上です。警部補どの!
書籍を越えた書籍-①
フロリダ警察、シュワッブ警部補の捜査ファイルシリーズ

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 こんにちは。「時計仕掛けの昭和館」館長のsigです。 iPadの発売で、電子書籍が話題に登っていますね。そうしたデジタル出版の最先端に接するにつけ、いわゆる「書物」と呼ぶ、紙に活字で印刷したアナログ出版が懐かしくなったりもします。
 今回は2回にわたって、iPadには絶対真似の出来ないアナログならではの楽しい出版物をご覧いただくことにしましょう。

●アナログ出版も捨てたものじゃない
 さて、そんな紙製出版物なのですが、1982年にとても風変わりな書籍が出版されました。前に立体絵本などを見ていただきましたが、これはある意味で、アナログでありながらバーチャル・リアリティ(VR)ともいえる不思議な書物です。
 それは読者自身がフロリダ警察のシュワッブ警部補と一体化して、困難な殺人事件を解決するという疑似体験が味わえるものなのです。

 もちろん、文字と写真だけで構成されたものですからVRとは言えませんが、書籍としては型破り。発想を変えるとこんなこともあり得るのかと、いっぺんに魅了されました。
 残念ながら日本人の発案ではなく翻訳されたものです。元は1979年から1980年にかけてイギリスで刊行されたもので、原案はジョー・リンクス。著者はデニス・ホイートリー。訳者は土屋政雄氏によって、「マイアミ沖殺人事件」「誰がロバート・プレンティスを殺したか」「マリンゼー島連続殺人事件」の3冊のシリーズが刊行されました。

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●悲劇のヒロインか謀略の中心人物か。20世紀半ばの感覚がたまりませんねえ。

●発想の転換がもたらした、超リアルな殺人事件簿
 この書籍の体裁……版元は「操作ファイルスタイルの推理小説」と名づけていますが、書籍のように見えても決して小説などではありません。
 それは、事件の関係者や被疑者の写真、事件現場の検証写真、現場に残された髪の毛、マッチ棒、あるいは手紙類、切手、切符、事件を報道する新聞など、いろいろな証拠物件がそのまま綴じ込まれている捜査ファイルそのものなのです。そして、手がかりを与えてくれる大事な情報が、聞き取りや尋問などで得られた調書です。

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●事件現場に残された金髪と黒髪、マッチ棒、吸殻

 著者も言っています。 「このファイルには、一般の推理小説のように読者を惑わすような記述はどこにもない。写真と物的証拠、調書という真実あるのみ」と。
 読者はそれを読んで関係者の相関関係を掴み、それぞれのアリバイを検証し、現場の状況、残された証拠物件などを手がかりとして事件の真相に迫っていくのです。
 書籍の最後は袋とじになっていて、自分で事件を解決したあと、開封して確認するようになっています。

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●あなたはこの誘惑に勝てるか。

●写真から証拠物件まで、本物そっくりの手作り感
 この書籍の魅力はもちろん、自分の手で殺人事件を解決するところにあるわけですが、もうひとつの魅力は、まるで本当にあった事件のように見せている演出のリアリティです。
 このシリーズ3作の時代は、1936年から1938年に設定されています。
 
 おそらく、捜査ファイルの随所に綴じこまれているタイプで打った手紙は、戦前に実際に使われていたタイプライターで打ったものでしょう。
 また、関係者の肖像写真や現場の証拠写真なども当時のカメラで撮影され、現像されて印刷されたものと思われます。
 事件を伝える新聞記事も、この事件のために編集され、印刷されたものです。日本語版では同じ紙質とレイアウトで日本語に翻訳された新聞が添付されているという念の入りようです。

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●事件を報道する新聞記事。日本語訳(左)がそっくり1部付属している。

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●左/新聞記事で示されている関係者の相関図
 右/ゴミばけつから発見された、破られている不倫現場の隠し撮り写真

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 それから登場人物。殺害される悲劇のヒロインをはじめ、どこかうさんくさい人物など、たくさんの人物は俳優を使って撮影したものでしょう。更に事件現場はどこかのお屋敷を借り切って、しかるべき調度品や小道具を運び込んで撮影されたものでしょう。これはもう、1本の映画を作る場合となんら変るところはありません。
 
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●殺人で使われたヒ素入り錠剤を包んだ紙も、
 このようにファイルに綴じこまれている。

 また、血痕の付いたカーテンの切れ端や、毒殺に使った薬剤を包んだしわくちゃな紙に至っては、製作者側の気持ちの込め方が伝わって来て、思わずにんまりせずにはおられません。
 そんな訳でこのシリーズは、究極の大人のおあそび。<真実そのものに仕立て上げられた虚構の世界にだまされる楽しさ>……というと、おっと、ここでまた虚構を真実のように演出している「魔法の王国」、ディズニーの世界に結びついてしまったりするのですが。

●ところで…
 私にこの3つの事件シリーズは解決できたか。ご想像の通り。とうてい私はシュワッブ警部補どころかアシスタントにも及ばないままでした。ページをめくってその時代の雰囲気に浸るだけで楽しいものですから。だからこの3つの殺人事件は未解決のまま。書籍の最後の袋ページも、未だに綴じられたままです。 
 こんなに手のかかった書籍を思い切った廉価(各冊2800~2500円)で出版した中央公論社の英断に拍手を惜しみません。 この項、つづく

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コメント 45

あら!みてたのね

こんにちは・・・お久しぶりです。
過去記事押し逃げお許しを。。。
いつもお越しいただきnice&コメントありがとうございます。^^;
by あら!みてたのね (2010-06-13 11:04) 

puripuri

リアリティーに富んでいて、本当の事件を本にされたものかと錯覚してしまいます。
本には付属の物がついていますね、今のようにビニールで包まれていたのかしら?
そうでないとパラパラめくると大変な事になるのでは?と思ったのですが・・・
手の込んだ本は、日本では作られないでしょうね・・・これからも。
sigさんが解決されるのは5年後?10年後でしょうか・・・
by puripuri (2010-06-13 14:00) 

アヨアン・イゴカー

爆発的に売れそうな本ではありませんが、話題性のある書籍であることは間違いないですね。
舞台や映画の小道具集のようなものにも思われました。(もしかすると、小道具を見ていた人が、書籍の形にして販売したら、リアリティがあると考えたのかのしれませんが。)

by アヨアン・イゴカー (2010-06-13 16:02) 

sig

xml_xslさん
NO14Ruggurmanさん
よーじっくさん
c_yuhkiさん
takemoviesさん
kurakichiさん
うつマモルさん
          こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-13 17:20) 

sig

あら!みてたのねさん、こんにちは。
いえいえ、覗いていただけるだけでうれしいですよ。
いつもniceをありがとうございます。
by sig (2010-06-13 17:21) 

sig

fuzzyさん
okin-02さん
          こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-13 17:22) 

sig

puripuriさん、こんにちは。
この本には、電報も手紙も証拠写真も地図も、基本的には綴じこんであります。髪質もサイズも印刷インクも違いますから、手作業で寵愛しなければならないでしょうね。実物大の新聞、破かれた写真、マッチ棒などは、ビニール袋に入って、袋は綴じこまれています。
こんなに手のかかる製本ですから、それなりにアナログならではの楽しみを与えてくれます。
電子出版では真似の出来ない部分ではないかと思います。
by sig (2010-06-13 17:29) 

sig

レオぱぱさん
kaika-tさん
         こんにちは。ご来館ありがとうございます。

by sig (2010-06-13 17:30) 

sig

アヨアン・イゴカーさん、こんにちは。
この本は多分採算ベースには乗らなかったのではないでしょうか。これは中央公論社が見せた心意気だと思います。
今、電子出版を目指している出版社に、アナログでこれだけのものがあったのですよ・・・これに匹敵する楽しい本を作ってください、と言いたいのです。
ほんとうにこの本の発案者は、舞台や映画の関係者かもしれませんね。
いつもコメント、ありがとうございます。
by sig (2010-06-13 17:39) 

sig

eternityさん
花火師さん
          こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-13 17:40) 

くまら

一瞬本当の事件かと思っちゃいました。
画面で文章が読むのが苦手です
by くまら (2010-06-13 19:20) 

tomickey

今だからこそアナログ出版物がとても嬉しくていろいろ買ってしまいます~
付録とかも心惹かれます(^_-)
by tomickey (2010-06-13 21:21) 

mito_and_tanu

こんばんは。
写真が掲載されているだけと思ったら、本当に綴じこんであるんですね、サイズの違う資料や、ビニールに包まれた証拠物件を閉じこむなんて、とんでもない手間ですね。。。
by mito_and_tanu (2010-06-13 23:14) 

sig

くまらさん、こんばんは。
まさに、ほんとの事件簿を手にした感じなんですよ。
その「本気のあそびごころ」がうれしいですよね。
手作り感100%。電子出版では絶対に味わえない質感ですね。
目のためにもいいでしょうね。笑
by sig (2010-06-13 23:14) 

sig

ヨタ8さん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-13 23:15) 

sig

tomickeyさん、こんばんは。
こういう本、楽しいですよね。
やはり書物という手触りからして、手になじみますし。
電子出版の時代になりましたから、こういう書物が一方では人気が出るのではないかと思って紹介した次第です。
昔の雑誌の付録も楽しかったですね。
いつもコメント、ありがとうございます。
by sig (2010-06-13 23:19) 

sig

mwainfoさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-13 23:19) 

sig

mito_and_tanuさん、こんばんは。
そうなんですよ。すごいでしょう、この凝りよう。
完璧に本物再現を目指していますね。
仰るとおり、普通の製本では作れませんから、よくこの価格で販売したと思います。
読者を楽しませてあげようと、大真面目でこういったものに取り組む姿勢がうれしいですよね。いつもコメント、ありがとうございます。
by sig (2010-06-13 23:23) 

hayama55

おはようございます。
これまたマニアが喜びそうな企画本ですね。
私も刑事になりきれそうです。
でも推理力0だから無理だなぁ。
by hayama55 (2010-06-14 07:36) 

sig

flutistさん
路渡カッパさん
sanaさん
Ja-Kou66さん
ブラザーボブかきもとさん
          こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-14 10:00) 

sig

hayama55さん、こんにちは。
ね、たのしいでしょう。
おおまじめで大嘘をつく・・・こういうの大好きなんです。このあそびごころが楽しいですね。私も推理には弱いのですが、この趣向がいいですね。
by sig (2010-06-14 10:02) 

sig

りぼんさん
ほりけんさん
          こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-14 10:03) 

Esther

わぁ〜、こんなんあったんですか〜。ミステリは昔よく読んでました。黄金期のミステリが好きです。興味津々。復刊してくれないかな〜。(もう絶版でしょうね
by Esther (2010-06-14 14:40) 

OMOOMO

凄いですね。小物も添付してあるとは。。今じゃ、
出来る業じゃないですね。確かに遊び心というか
心意気というか、手の込んだよき時代のよき創造物
でしたね、袋とじ、気になります。
by OMOOMO (2010-06-14 17:31) 

響

推理ゲームの先がけのような本ですね。
自分で謎を解くと言うのが当時からあったとは斬新です。

by (2010-06-14 19:04) 

sig

kakashisannpoさん
めぇさん
toramanさん
dorobouhigeさん
          こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-14 19:16) 

sig

Estherさん、こんばんは。
Estherさんは推理ものがお好なんですね。とても理知的なセンスが求められますからね。
私は推理ものが好きというより、こういう「あそびごころ」満載のアイディアがすきなんです。
だから、読んで犯人を捜すことよりも、書棚にあるだけで気持ちが豊かになるんですね。
by sig (2010-06-14 19:20) 

sig

OMOOMOさん、こんばんは。
でしょ、でしょ。
iPadは最先端テクノロジーですが、この手触り感は真似できることではありませんよね。
iPadも好きですが、紙の書籍はアナログならではのところもあるということなんですよね。
by sig (2010-06-14 19:24) 

sig

響さん、こんばんは。
このやり方でひとつ、「長崎軍艦島殺人事件」を作ってくれませんか。
by sig (2010-06-14 19:26) 

sig

とらさん
m6324さん
yannさん
makiさん
八犬伝さん
ふぢたさん
soneさん
          こんばんは。ご来館ありがとうございます。

by sig (2010-06-14 22:57) 

sig

ChinchikoPapaさん
やまさん
mrimoさん
            こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-15 09:02) 

sig

hi-ragiさん
kontentenさん
釣られクマさん
Yubarimeronさん
thisisajinさん
          こんにちは。ご来館ありがとうございます。

by sig (2010-06-15 17:15) 

gyaro

うわっ、この書籍すごいですね!
錠剤や指紋までとはかなり驚いちゃいました。
めっちゃコレクションしたい。。。。
(今更遅いのでしょうけど。。)

これはiPadなんかではできないでしょうし、
表現されたくもない気がしますね。
写真も含めて紙ベースのモノは不滅であって欲しいものです。

iPadなどの出現でなんでも電子化され書籍関連も、
ますます痛手を受けるのでしょうか。
写真ひとつとってもギャラが軒並み下がっているそうですが、
それだけ予算も苦しいって事なのでしょうね。。。^^;

少ない予算でも良い物を作ろうとしている人たちを
もっと応援できればなと思います。

あ、以前の記事のレスもありがとうございました^^
動画、今後もいろいろ遊んでみます。
イベントの押さえるポイントというのもやはりあるのですね〜☆

長々と失礼しました。

by gyaro (2010-06-15 23:06) 

sig

gyaroさん、こんばんは。
忙しいのにたくさん読んでくれてありがとう。
別にiPadが嫌いではないんです。欲しいけど買えないんです。笑
それはともかく、この本、いいでしょう。ほんと言うとあまり読み込んでいないんです。こういうものはそばにあるだけでいいんですよね。

写真のギャラ、下がってるんですか。由々しき問題ですね。私がビデオ作ってる頃はスチルのキャメラマンがうらやましかったものです。彼らは2~3日で仕事が終わってしまうのに、ビデオの演出というのは企画-シナリオ-現場監督-編集-完成試写まで短くて2ヶ月かかるんですからね。1日あたりの効率は悪いと思いますよ。

たくさんコメント、うれしいです。
このブログ、あと2~3回でお仕舞です。
by sig (2010-06-16 00:49) 

路渡カッパ

凝りに凝ってますよね、めっちゃその気にさせてくれる!
続きが早く見たいのですが・・・
>このブログ、あと2~3回でお仕舞です。
って、容量がもう目一杯なんでしょうか?
by 路渡カッパ (2010-06-16 01:03) 

sig

こぐまねさん
PENGUINGさん
ぼんぼちぼちぼちさん
         こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-16 12:58) 

sig

路渡カッパさん、こんにちは。
カッパさんもこういうのお好きでしたか。共通点ありますね。
はい、このブログはそうしたいと思います。
ブログとはどんなものかが一応分かりましたから・・・なんちゃって
最後に書くつもりですが、腱鞘炎の悪化が第一原因。第二は自分史として書き終えたことです。ちょうど1ギガに近づいたことが実際面のきっかけです。また、他にやりたいことをこの2年半、何も出来ずに居たということもあります。カッパさんにはいつもご愛読、コメント、ありがとうございました。
by sig (2010-06-16 13:07) 

sig

あんれにさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-17 09:28) 

いっぷく

電子化が進む中で出版界に革命的な波が押し寄せているようですが、
アナログ愛好者も数多く居続けます。
こんな遊び心を持った出版物はうきうきさせてくれますね。
by いっぷく (2010-06-17 14:18) 

sig

いっぷくさん、こんにちは。
こういうものがなぜかすきなんですよ。
いっぷくさんもそうではないかと思っています。笑
こういったものの味わいとか、素敵さとかを分かっていて、デジタルも楽しんでいきたいですね。
by sig (2010-06-19 09:39) 

sig

4geさん
みかっちさん
          こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-19 09:40) 

sig

furukabaさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-19 15:36) 

sig

Greenさん、こんばんは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-19 22:57) 

sig

チョコシナモンさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-06-22 14:51) 

sig

kimikoさん、こんにちは。ご来館ありがとうございます。
by sig (2010-07-11 11:57) 

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