ナマケモノの体表でしか生きられない蛾、ナマケモノガとは? | エピネシス

ナマケモノの体表でしか生きられない蛾、ナマケモノガとは?


27815: sloth in tree flickr photo by Panegyrics of Granovetter shared under a Creative Commons (BY-SA) license

動きが非常にゆるやかなことで知られるナマケモノ。
「どうやって自然界で生き残っているのかわからない」動物のトップクラスに数えられており、私たち人間からみるとその一挙手一投足を手助けせずにはいられません。

しかし、ナマケモノには私たち以外にも手助けをしてくれる存在がいます。なんと、その正体はナマケモノガ(Sloth moth)と呼ばれている蛾の一種です。

ナマケモノガ(Sloth moth)

ナマケモノガは、ナマケモノの体に生息する蛾の総称で、Bradypodicola属やCryptoses属などいくつかの種類が知られています。

この蛾の多くはナマケモノの毛皮に似た模様を持っており、ある調査によれば1匹のミツユビナマケモノに120匹以上、そして複数の種類のナマケモノガが住み着いていたこともあるのだそう。


この画像には少なくとも8匹のナマケモノガが写っています。
Pyralidae: Cryptoses choloepi on Bradypus variegatus flickr photo by Kristof Zyskowski & Yulia Bereshpolova shared under a Creative Commons (BY) license

ナマケモノガはナマケモノの体を住処とし、ナマケモノの分泌物や少量の藻を食べて生活しています。

この蛾はただ一方的にナマケモノに寄生しているわけではありません。
ナマケモノの毛には細かい小さな溝がいくつもあり、この溝のなかで水分が程よく保持されて藻類や菌類などの小さな生態系が作られていますが、ウィスコンシン州大学の研究により、体に住み着いている蛾の数が多いほどナマケモノの毛に存在する窒素量が多く、より多くの藻類が育つという関係性が明らかになっています。

この藻によってナマケモノはより緑色になり、ワシなどの大型猛禽類から身を隠すことができるようになります。


27820: sloth just hanging out flickr photo by Panegyrics of Granovetter shared under a Creative Commons (BY-SA) license

ナマケモノガは、一方的にナマケモノの体に寄生しているのではなく、どうやら複雑な共生関係にあるようです。

体についた藻は「サプリメント」のように利用している可能性も

しかもなんと、この藻はナマケモノが「サプリメント」として普段の食事を補っている可能性もあるといいます。

ウィスコンシン大学の研究によると、この藻はナマケモノが消化・代謝することができ、その化学組成を分析したところ、ナマケモノが通常食べる葉に比べて3~5倍の脂肪分を含んでいることが明らかになりました。

同大学の研究者はおそらく藻をグルーミング(毛づくろい)により摂取しているのではないかと説明していますが、ナマケモノはおもに大きな爪をくしのように使って毛づくろいを行っており、毛を舐めるような習性は知られていません。

例えば夜間に毛を舐めて藻を摂取していたり、皮膚から吸収するといった形で利用している可能性はありますが、藻類を食べているかどうかはまだまだ議論の余地があるといいます。

ナマケモノのフンから生まれ育ち、ナマケモノの体で暮らすナマケモノガ

では、ナマケモノガはどういった生活環を持っているのでしょうか。
興味深いことに、ナマケモノガはナマケモノのフンのなかからふ化します。

フンから生まれたナマケモノガの幼虫はフンのなかでフンを食べて成長し、やがて成虫になるとナマケモノの体に住み着きます。

そしてメスのナマケモノガはオスをみつけて交尾した後、ナマケモノが週に1回、排泄のために木から地面に降りたときにナマケモノの体から離れ、ナマケモノの新鮮なフンに産卵します。


Terra Mater 『Why Sloths need Moths to Grow Food on their Fur』 -Youtube-

孵化したナマケモノガの幼虫はフンのなかでフンを食べて成長し、成虫になると再び宿主となるナマケモノを探すのです。


A syndrome of mutualism reinforces the lifestyle of a sloth -THE ROYAL SOCIETY-

ナマケモノの”命がけ”の行動、もしかしたらナマケモノガのため?

そもそもナマケモノが木から降りて排泄をする行動は、もともとのナマケモノらしからぬ、奇妙な行動と考えられてきました。樹上で暮らす以上、排泄は木の上から行えば済む話だからです。

にも関わらずナマケモノは、1日に消費するカロリーのうち8%という貴重なエネルギーを消費してわざわざ木から降り、排泄して登るというとんでもない労力を費やし、自らの身を危険に晒します。

2014年のウィスコンシン大学の研究によると死んだナマケモノの半数以上が排泄時に捕食者から襲われて死んでいました。ナマケモノが現代まで生き残ってきた理由はただ一つ―――樹上で生活しているからです。

ただでさえ木の上にいても、空からやってくる大型猛禽類や木登りができる大型ネコ科動物に襲われることがあるのに、地上にいるとあっては信じられないほどあっけなく、どんな肉食動物にも捕まってしまうでしょう。地上にいるナマケモノほど簡単に捕まえられる獲物はいません。

ではなぜ、ナマケモノはわざわざリスクを冒してまで木から降りて排泄をするのでしょうか。現在、最も有力な説はなんと「ナマケモノガのため」です。

樹上から排泄を行えばフンはバラバラと落ちてしまいますが、地上に降りて排泄を行うことでフンがきれいにまとまり、ナマケモノガの幼虫にとっては良い住処となります。

また、ナマケモノガの成虫も排泄の際にフンに直行できるため、より確実に産卵することができるというわけです。

ただし、緑色になることでどこまで保護効果があるのか、さらに毛についた藻はナマケモノにとって利用できるのかは分かっておらず、ナマケモノガのために命のリスクを冒してまで木から降りるという話には、まだまだ議論の余地がありそうです――


Hanging from a Branch flickr photo by Eric Kilby shared under a Creative Commons (BY-SA) license

Reference
A syndrome of mutualism reinforces the lifestyle of a sloth -THE ROYAL SOCIETY-
Terra Mater 『Why Sloths need Moths to Grow Food on their Fur』 -Youtube-Can Moths Explain Why Sloths Poo On the Ground? -NATIONAL GEOGRAPHIC-

この記事へのコメント

名無しさん

ナマケモノは体のコケを食べるってどっかで聞いたことあったけどまだ証明されとらんかったのか

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