ソーラーパネルで動くLoRaWAN®基地局のその後 | IIJ Engineers Blog

ソーラーパネルで動くLoRaWAN®基地局のその後

2020年11月16日 月曜日


【この記事を書いた人】
m-ohnishi

2016年にIIJにJoin。現在はLoRaWAN(R)とカメラを中心としたIoT企画を担当しています。農業IoTとカメラの融合でみんなを楽しく楽にすることを日々考えています。

「ソーラーパネルで動くLoRaWAN®基地局のその後」のイメージ

IoTビジネス事業部のm-ohnishiです。

前回のブログ「ソーラーパネルで動くLoRaWAN®基地局をスマート農業向けにDIYで設置してみた(前編後編)」から早いもので7ヶ月経ってしまいましたが、皆様いかがお過ごしでしょうか?

後編の最後で触れたパッケージ化は、こちらのプレスリリースでご案内して2020年6月にカウスメディアさんから販売開始しました。忙しさにかまけてブログに書かずじまいになってしまってすみません。その後、設置性や通信性能改善の取り組みを行いましたので、遅ればせながら今回のブログで新パッケージのお話とあわせてご紹介したいと思います。

設置が大変なので治具作ってみた

カウスメディアさんで販売しているDIYソーラー基地局のパッケージには以下の3つがあり、さまざまな場所に対応することで設置スペースを確保しやすくなっています。

  1. 圃場脇用パッケージ
    平坦でない場所でも、土中の石や砂利が少なければ設置できる。設置はちょっと大変。
  2. 空地用パッケージ
    平坦であれば、土中の石や砂利が多い場所でも設置できる。設置が簡単。
  3. 斜面用パッケージ
    圃場脇や平坦な場所が確保できない場合でも、南向き斜面に設置できる。これも設置が簡単。

空地用と斜面用はカウスメディアさんの方で製作されたソーラーパネル架台を同梱することで、小さい金属杭だけでソーラーパネルを地面に固定することができます。そのため、土中の石や砂利が多い場所でも金属杭の打ち直しが簡単です。ただし、20cmを超える浸水には対応できず、雑草や成長した稲穂による影の影響を受けやすいという弱点もあります。

圃場脇用は1m程度までの浸水や積雪にも対応し、雑草や成長した稲穂による影の影響も受けにくいので、設置スペースが確保できれば最もおすすめできるパッケージです。ただし、前回のブログ後編で説明したように1.5mから2mの太い単管パイプ4本を正確に垂直に地面に打ち込む必要があり、一般的な両口ハンマーでの正確な打ち込みはめちゃんこ大変です。また、3-4名は必要なので、少人数の農業経営体の場合、自分たちだけで設置するのは困難です。

そこで、2名でも短時間で設置できるように設置性を改善することにし、圃場をお借りしてソーラー基地局を実際に設置しながら効率の良い設置方法を検討する設置性改善検討会を実施しました。当日は残念ながら雨が降っていましたが、IIJの有志メンバーとカウスメディアさんの計10名が参加しました。

効率の良い設置を行うには道具が重要です。以前はモンキーレンチで対応していたボルト締めを、時間短縮のためラチェットレンチを2本購入して手分けして作業できるようにしました。地味な改善ですが、圃場脇用はクランプの固定箇所が多いので、大幅に作業効率が上がりました。また、最も時間がかかる単管パイプの杭打ちを加速するため、長い単管パイプの打ち込みにも対応できる単管打ち込みハンマーと、事前に単管パイプを打ち込む穴を掘ったり土中の石や砂利を打ち込む前に確認できるようにするための単管ドリルも購入しました。

単管ドリルは非常に有効で、ハンドルを回転させると50cm弱の深さまで穴を掘ることができます。単管パイプの打ち込みが大変だったのが嘘のように楽になりました。また、せっかく打ち込んでも土中の石にあたるとそれ以上打ち込みができずやり直しになるのですが、穴を掘ることで前もって打ち込み可能かどうかがわかるので、その点でも有効でした。

なお、コツがつかめるまでは垂直に穴を掘るのが難しいので、水平器をガムテープでドリルの柄の部分に固定し、時々垂直かどうかを確認しながら掘り進めると良いと思います。私はその後何箇所も設置したのでマスターしましたが。

単管打ち込みハンマーは単管パイプの上から被せ、ハンドルを持って浮かせた状態から振り下ろすことで長い単管パイプでも打ち込むことができます。地盤が固くなければハンドルを放して落とすだけでも打ち込み可能です。両口ハンマーだと打ち込むのに力がいるのと外さないようにするのが大変でしたが、単管打ち込みハンマーだと力を入れなくても打ち込みできるので、一人でも垂直に打ち込みやすくなり、手元が狂って支え役の人を叩いてしまう恐れもないので安全です。

この2つの道具だけで杭打ちに3人以上必要だったのが2人で済むようになり、しかも作業時間を30分以上短縮できることが確認できました。ただ、単管パイプの杭同士の間隔を60cm x 80cmに正確に打ち込まないと後でソーラーパネルが固定できず、やり直しになる恐れがあり、その対策も必要です。最初は紙を60cm x 80 cmに切って地面に置いて対処しようと考えたのですが、地面に凹凸や傾斜があると間隔が変わってしまい、また風で飛んでしまって却って邪魔になってしまいました。紙ではなくベニヤ板で対応することも考えましたが、ユーザー側でカットしてもらうのは面倒だと思いますし、パッケージに同梱するには60cm x 80 cmだと大きすぎます。

そこで、細長い木の板にホールソーで5cm径の穴を80cm間隔、60cm間隔で開け、そこに単管パイプを差し込んで位置決めできる単管打ち込みガイドと呼ぶ治具を製作することにしました。最初は4本の板を長方形に固定しようとしましたが、加工が大変で材料費も高くつくのと、治具自体の組み立てにも時間がかかるので、1本の板に穴を3つ開けて対応することにしました。検討会の時点ではこちらで単管パイプの位置決めが十分簡単になることを確認できました。ただ、杭の位置関係が長方形ではなく平行四辺形になる恐れがあったため、最終的には2本の板を直角に固定し、L字形の治具とすることにしました。

これで圃場脇用パッケージの設置で最も大変な単管パイプの杭打ちが少人数で正確かつ短時間で行えるようになりました。劇的に楽になったので、この3つを私は三種の神器と呼んでます。いや本当に。

他にも単管打ち込みハンマーが用意できない場合に対応するため、2m単管パイプを1m単管パイプ2本とし、1本を両口ハンマーで打ち込んでからボンジョイントで結合する方法も有効であることを確認しました。また、杭打ちしなくて済むようにコンクリートブロックの土台を置き、地面にドリル杭をねじ込んで固定するといった方法も検討しましたが、固定が不十分だったので見送ることにしました。

余談ですが、当日は途中から大雨が降り、梱包用のダンボールが濡れて使い物にならなくなって返送するのが大変でした。同行するとかなりの確率で大雨を降らせる雨男がいるので困ったものです。

もっと通信性能上げたいので屋外アンテナ使ってみた

冒頭でもご紹介したようにカウスメディアさんの販売ページで各パッケージの販売を開始しました。ただ、一つ気になっていたことがありました。

ソーラー基地局の通信性能はほぼアンテナとアンテナの高さで決まるのですが、アンテナについてはTLG3901BLV2付属のアンテナだとアンテナを立てた状態で収納可能な適当な防水ケースが見つかりませんでした。そこで、TLG3901BLV2付属のアンテナと互換性のある一つ前の機種用のアンテナを使用することにしたのですが、通信性能が若干落ちることになってしまいました。そこはアンテナの高さである程度カバーできるのですが、欲を言えばアンテナの高さを確保した上でさらに高性能のアンテナを使いたいところです。

そこで、コストは少しアップしてしまうのですが、屋外用の防水型基地局TLG7921M用の屋外アンテナを活用することにしました。通信モジュールはTLG3901BLV2とTLG7921Mで共通ですので、国内で使用するための技適は取得済みです。

前回のブログ前編でご紹介した「水田水管理ICT活用コンソーシアム」の実証実験の終了前に、TLG3901BLV2付属のアンテナを使った通常アンテナ版と、屋外アンテナを使った高性能アンテナ版の性能比較を行う機会がありました。実際に設置したそれぞれのソーラー基地局の写真がこちらです。

いずれも海抜10mの高台に設置し、アンテナの高さもほぼ同じにしたので、同じデバイスでそれぞれの基地局との通信状況を測定すれば、どの程度の性能差が生じるかを確認することができます。

こちらのような自作の電波サーベイツールを使用して測定しました。6地点で実施した測定結果を表にまとめます。

 

RSSIは受信信号強度で値が0に近いほど通信状況が良好で、LoRaWANでは-130~-125くらいが通信できる限界値です。SNRは信号帯雑音比で、LoRaWANでは-15~+15の範囲で値が小さいと安定した通信が行えない場合があります。成功数は実際に受信できた回数で、10秒間隔で30回通信し、実際に基地局にデータが届いた回数を示しています。成功率は成功数を30回で割った値です。

同じ地点でも基地局との距離が異なるのでわかりにくいですが、通常アンテナ版は1kmを超えると通信成功率が悪い地点がありました。それに対して高性能アンテナ版は4km以上でも安定した通信が行えており、まだRSSI・SNRとも余裕がありましたので、さらに遠くても通信できると思います。これは事前に予想していた結果を上回る大きな差でした。

なお、今回は海抜10mの高台が避難場所で邪魔にならないように斜面に設置する必要があったため、斜面用で対応しました。通信ボックスを同じように置き換えれば圃場脇用や空地用にも適用可能です。ただし、圃場脇用や空地用を高台ではない平地に設置した場合はもっと通信可能範囲が短くなり、ここまでの差は出ないかもしれません。機会があればそちらでも比較評価を行いたいと思います。

屋上にも簡単に設置できるといいよね

これまで圃場脇用、空地用、斜面用の3つの設置場所に対応したパッケージを販売してきました。いずれもアンテナの高さは最大3.5m程度ですが、上で示した高台設置時の通信結果で示しましたように、アンテナの高さをより高くできれば、通信性能をさらに向上させることが可能です。しかし、これらのパッケージではそれ以上の高さにするのは強風による倒壊の恐れがあるため困難です。

建物屋上に設置できれば、建物高さ分が嵩上げできるので、より通信性能を高くすることができます。実際に「水田水管理ICT活用コンソーシアム」の実証実験の終了前には継続的に利用できるように、電柱に設置した基地局を揚水機場や排水機場などの水利施設の屋上に移設しました。いずれも電源工事はDIYで対応できないので設置とまとめて業者に依頼することになり、1箇所あたり10万円以上の費用がかかりました。

電源はソーラーパネル&バッテリーとし、電源工事なしでDIYで設置できる構成にすれば費用を大幅に抑えることができます。そこで、カウスメディアさんと共同で実際の部材での組み立て検討会を実施しました。設置性改善検討会に参加していた雨男は今回はいなかったのですが、今回も小雨ですが雨が降ってしまいました。もしかして雨男は私…(いやいやまさか)でも倉庫をお借りしてそこで作業できたので問題ありません!

こちらが実際に使用した部材です。ソーラーパネル架台に固定する羽子板付沓石と呼ばれる金具付きブロックと、単管パイプを差し込んで土台にできる単管ベースピンコロという一部のホームセンターで販売されている部材を使用することにしました。なお、屋上にアンテナを取付可能な金属柵がある場合は単管パイプや単管ベースピンコロは不要となり、羽子板付沓石のみ調達すれば大丈夫です。

実際の組み立て検討の様子は割愛しますが、アンテナは通常アンテナではなく、高性能アンテナのみの構成とすることにしました。理由としては、屋上の金属柵に通信ボックスを固定する場合、アンテナが金属柵と干渉してしまって通信性能に影響がでる恐れがあることと、せっかくの屋上設置であれば最高の通信性能を得るために高性能アンテナに統一した方がよいという判断からです。

ソーラーパネル架台は組み立てるとこちらのようにフラットになり、重量が50kg近くになりますので、大型の台風が来なければ強風で飛ばされる恐れはありません。大型の台風が来る場合はパネルを傷つけないようにゴムシートを敷いて裏返しにすれば下に風が入り込むことがなくなりますので、さらに安心です。竜巻が来る場合は流石に飛ばされないとは言えませんので、飛ばされたらごめんなさい。

アンテナは屋上に柵がある場合は柵に直接、付属の金具でアンテナを固定します。

屋上に柵がない場合はアンテナ架台を単管パイプと単管ベースピンコロ等で組み立てます。当初用意した部材ではアンテナ架台がぐらぐらになり、とても台風に耐えられる強度ではなく頭を抱えました。しかし、ガムテープで単管ベースピンコロと単管パイプの隙間を埋めるとともに、急遽単管パイプの横棒2本と直交クランプを近くのホームセンターで買ってきて追加、さらに自在クランプをすべて直交クランプに変更することで、しっかりと固定できることを確認しました(いやー、焦りました)。アンテナを固定するアンテナバーは、以前に高性能アンテナ版を設置したときは専用設計で製作していただいたのですが、コストダウンのため市販のイレクターパイプを使用することにしました。アンテナバーを固定する直交クランプやアンテナを取り付けるアンテナ取付金具を固定するには太さが足りないので、ゴムシートを巻いてしっかりと固定できるように調整することにしました。

完成したのがこちらです。いかがでしょう?我ながら惚れ惚れする出来になったのではないかと思います(かっこいー!)。

強風による転倒を考慮してアンテナバーを1.5m単管パイプに固定したのでアンテナの高さが低いですが、杭打ちが不要で移設しやすいので舗装された駐車場への一時的な設置などにも対応できると思います。その場合は転倒の影響が小さいので、もう少し長い2m単管パイプをアンテナバーの固定に使用しても良いでしょう。また、アンテナ架台の横棒は設置スペースを小さくするために1m単管パイプを使用しましたが、1.5m単管パイプを使用すればより安定すると思います。

販売しちゃいました

さて、今回は

  1. 圃場脇用パッケージ向けの単管打ち込みガイドの製作
  2. 高性能アンテナ版圃場脇用・空地用・斜面用パッケージ
  3. 屋上用パッケージ

についてご紹介しました。1は既に販売していますが、2と3は実はこのブログの公開にあわせて発売開始予定で、こちらのカウスメディアさんのWebサイトで販売します。

https://www.kausmedia.co.jp/shopbrand/ct107/

Webサイトでは設置ガイドも公開しており、設置に必要な道具類や詳しい設置方法も記載してあります。各パッケージの設置前後の注意事項も記載してありますので、ご購入前にご一読ください。

今回も部材原価を考えるとこんなに安くていいんですか?とびっくりするくらいの価格で販売していただいてますので、ぜひぜひご購入ください。なお、2と従来の通常アンテナ版は併売しますが、在庫がなくなり次第、高性能アンテナ版に販売を絞らせていただく予定です。通信性能よりも価格を重視される方はお早めにご購入を。

前回ブログでご紹介した最初のソーラー基地局を設置してから10ヶ月が経過し、その後同じソーラーパネルとバッテリーを使用した常設のソーラー基地局を私が直接設置に関わっただけで11台設置しました(よく頑張りました!)。すべて日照が少ない冬場も梅雨の時期(今年は日照が少なくて特に厳しかったです)も夏場の落雷が多い時期も、充電不足や落雷等による停止はありませんでした。信頼性は抜群だと思います。

あ、スマート農業導入パッケージIIJ LoRaWAN®ソリューションも必要ですので、そちらも忘れずにご購入いただけると嬉しいです。

今回のブログはこれで終わりです。ではまた近いうちにIIJ Engineers Blogでお会いしましょう。(前回みたいに次回予告するとオオカミ中年になりそうなので、今回はやめておきます。)

m-ohnishi

2020年11月16日 月曜日

2016年にIIJにJoin。現在はLoRaWAN(R)とカメラを中心としたIoT企画を担当しています。農業IoTとカメラの融合でみんなを楽しく楽にすることを日々考えています。

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