水田センサーを簡易百葉箱で気温センサーにしてみた | IIJ Engineers Blog

水田センサーを簡易百葉箱で気温センサーにしてみた

2021年08月23日 月曜日


【この記事を書いた人】
m-ohnishi

2016年にIIJにJoin。現在はLoRaWAN(R)とカメラを中心としたIoT企画を担当しています。農業IoTとカメラの融合でみんなを楽しく楽にすることを日々考えています。

「水田センサーを簡易百葉箱で気温センサーにしてみた」のイメージ

IoTビジネス事業部のm-ohnishiです。

前回のブログではソーラー基地局シリーズに続く新シリーズとして各種LoRaWAN®デバイスを紹介するシリーズを開始し、第一弾としてLoRaWAN®カメラをご紹介しました。思った以上に反響が大きく、多くのお問い合わせを頂きました。まだサーバをユーザ毎に個別構築する必要があり、簡単にご提供できる状況では無いのですが、まもなくその課題が解決できそうです。近いうちにブログでお話できればと思いますが、今回はLoRaWAN®デバイス紹介シリーズの第二弾として屋外でも使用可能な気温センサーをご紹介したいと思います。

水田センサーで気温を測ってみたら思わぬ問題が…

IIJでは自社開発した水田センサーLP-01を販売しており、それで水温が測定できるので、「センサーボックスを空気中に設置すれば気温も簡単に測れるでしょ。」と思われませんか?「いやいや、それじゃ駄目でしょ。」と思われた方はいらっしゃいますか?

後者の方は鋭いですね。正解です!残念ながら私は前者でした…

とある農業法人の方から冬場の露地栽培で使用するビニールトンネル内の温度を測りたいとのご相談をいただいたのですが、LP-01を稲作のオフシーズンにも活用できればと思って実証にご協力頂く形で対応することにしました。その際に、「ソーラーパネルで動かないLoRaWAN®基地局!?」で開発したポータブル基地局も活用しました。

基地局をすぐ近くに設置したので順調に測定データは取得できたのですが、真冬の2月にも関わらず、日によっては40度を超える温度が測定されてました。最初はビニールトンネルの保温効果ってすごいんだ、と呑気に構えていたのですが、気象庁の気温データと比べて15度以上高い日もあります。あれあれ、いくらなんでもこれはおかしいのでは?と思って調べたところ、気温の測定には日射対策が必須で、それが原因で実温度よりも大幅に高い温度が測定されていることがわかりました。

DIYで安価に気温センサー化できないか?

すぐに対策を調べたところ、農研機構が「簡易な園芸施設における正確な気温の遠隔測定システム標準作業手順書」を公開していました。無線通信可能な市販のICT環境計測機器に後付で取り付けて遠隔で気温を正確に測定できるもので、市販の部材で誰でも製作することができ、高価な気象観測用強制通風筒と同等の日射対策効果が得られるようです。送風ファンが必要となるのですが、電源がない場所でもソーラーパネルとバッテリーで動作可能なのも素晴らしいです。LP-01にも適用できそうで、非常に良いものを公開していただいたと思います。

しかし、今回はビニールトンネル内で使用する関係で小型化する必要があり、その用途には向かないようでした。また、ファンやソーラーパネルが必要となるため、製作費もそれなりにかかり、製作もちょっと大変そうでした。今回の用途ではややオーバースペックかなと思われたので、別の構成を検討することにしました。最初は農研機構の装置の部材としても使用されている市販のラジエーションシールドだけを自然通風で使用することも考えたのですが、まだ大きく、農業経営体自身で用意していただくことも想定すると、もっと安価にしたいところです。

農業IoT担当の他のメンバーにも相談してみたところ、あるメンバーがこちらの市販の温度計を使用した簡易百葉箱を自作するブログを見つけました。ホームセンターで調達可能なプラスチック製の植木鉢を利用したもので、鉢の大きさを調整すればLP-01を収納しつつ、ビニールトンネル内でも使用できそうです。部材もかなり安価で、製作が簡単に行えそうなのも良い点です。

早速同様の簡易百葉箱を製作してLP-01を気温センサー化することにしました。

今回ご紹介した簡易百葉箱は「MITSUHA DIY簡易百葉箱」と命名し、製作ガイドも作成しました。実際に製作される方は、参照しながら製作できるようにこちらを印刷してご使用ください。

MITSUHA DIY簡易百葉箱 製作ガイド

製作ガイドでは、LP-01に対応し、地面に刺したポールに取り付ける構成の他、温湿度センサーLAS-603V2に対応し、スタンド設置で簡単に設置場所を移動できる構成の製作手順も記載しております。

製作手順

地面に刺したポールにセンサーと一緒に取り付ける簡易百葉箱の製作手順を示します。

最初に設計図を示します。参考にしたブログの簡易百葉箱は横からポールに外筒を固定し、内筒と温度計をぶら下げる構成でしたが、今回は下図のように地面に刺したポールにLP-01のセンサーボックスを取り付け、上から簡易百葉箱をかぶせる構成としました。また、LP-01のセンサーボックスを収納可能で、かつビニールトンネル内でも邪魔になりにくい大きさに小型化しました。

下から入った空気が簡易百葉箱の内筒や外筒の中で温められると上に抜け、自然に気流が発生して日射による温度上昇を抑える構造です。下皿は地面の照り返しを防ぐために取り付けます。

なお、LP-01はセンサーボックスと通信ボックスが分かれていますので、通信ボックスを下図のように別のポールに設置する必要があります。しかし、通信ボックスが高い位置にある方が基地局との通信距離が長くなるため、通信部とセンサー部が一体型のセンサーに比べて基地局から遠い場所での測定が可能です。

今回はビニールトンネル内に通信ボックスを設置するスペースが無かったため、下図のようにビニールトンネルの脇にポールを立て、やや低い位置に通信ボックスを設置することにしました。

製作手順を以下に示します。

1.部材を用意する

以下の一覧と写真の部材を用意します。①②の長鉢と③④の鉢皿は今回は購入店舗の在庫の関係でアイリスオーヤマ製品を使用しましたが、他社製品でも大丈夫です。また、⑤⑥のボルトと⑦⑧のナットは雨に濡れても錆びないようにステンレス製を使用しました。写真中の丸座金は⑧の皿ばね付きナットと同じ目的で購入しましたが、ポールの内径に合わなかったので使用しませんでした。

長鉢 5号 白 1個 内筒
長鉢 6号 白 1個 外筒
鉢皿 5号 白 1個 照り返し対策皿
鉢皿 6号 白 1個 日射・降雨対策傘
六角ボルト 全ねじ M8 x 60mm 1本 ポールへの差し込み用
六角ボルト 全ねじ M8 x 80mm 1本 ④の固定用
六角ナット M8 3個 六角ボルト固定用
皿ばね付きナット M8 x 18mm 1個 ポールへの差し込み用
タッピングねじ 皿 5mm x 70mm 3本か4本 外筒と内筒の固定用
アルミホイル 20cm 30cm程度 内筒の日射対策用
セロハンテープ 10cm程度 ⑩の固定用

2.道具を用意する

以下の一覧の道具類も用意します。

番号
道具
用途
1 電動ドリル ボルトやポールの穴開け用。 ボルトやポールに対応した穴が開けられるものが望ましい。
2 リーマー ボルトやポールの穴開け用。 1の代用品、または1だけではちょうどよいサイズの穴が開けられない場合にも使用する。
ポールの外径に合わせたサイズの穴が開けられるものを用意する。
3 カッター ボルトやポールの穴開け用。 2がない場合の代用品。危険なので手袋を着用するなどし、十分に注意して使用する。
4 キリ ボルト・タッピングねじ穴の位置決め用。
5 ドライバー タッピングねじの固定用
6 マジックペン ポールの穴の位置と大きさをマークするために使用する。
7 六角ソケットレンチ ⑤⑥のボルトを固定するために使用する。なければ小型のモンキーレンチでも代用可能。

3.ポール用の穴を開ける

③の鉢皿の中央にポールを当て、周りをマジックペンでなぞって穴開けの位置と大きさをマークします。

次にマークした穴の大きさになるまで電動ドリルやリーマーで穴を開けます。穴を通るポールが緩まない程度の大きさにします。

4.内筒を製作する

①の長鉢を逆さまにして、中央に電動ドリルやキリで穴を開けます。ボルトが通る程度に穴を拡げたら、上から⑤のボルトを六角ソケットレンチで根本まで差し込みます。
根本までボルトを差し込んだら、⑦のナットで裏側から固定するとともに、⑦のナットをもう一つと⑧の皿ばね付きナットをボルトの先端で互いに噛み合うように固定します。

次に、アルミホイルを周囲に巻きます。2枚に分けたアルミホイルを左右両側から内筒のカーブに合わせて巻きつけて、はみ出した部分をハサミでカットしてセロハンテープで固定します。

5.外筒を製作する

内筒と同様に中央にボルトを通すための穴を開けるとともに、内筒の径の範囲内に3-4箇所の穴を開けます。内筒にも同じ位置に穴を開けるので、内筒と外筒の底面を密着させて、キリで両方の穴が同じ位置になるように貫通させるとよいでしょう。最初から適当な場所に穴が開いていればそれを利用します。
ボルト用の穴を開けたら内筒とは逆に下から⑥のボルトを根本まで差し込みます。3-4箇所の穴には⑨のタッピングねじをそれぞれ1cm程度残してドライバーで垂直にねじ込みます。

6.外筒を内筒に固定する

外筒と内筒を固定するため、タッピングねじの角度を指で調整しながら手順5で内筒に開けた穴にすべてのタッピングねじの先端を挿し込みます。
先端が挿し込まれたら、外筒と内筒が平行になるように注意しながらドライバーでタッピングねじの先端が少し内筒の内側に出るくらいまでねじ込みます。

7.傘を固定する

④の鉢皿を傘とするため、手順5で取り付けたボルトを通すための穴を開け、外筒の上から鉢皿を回転させて少しボルトの先端が出るまで挿し込みます。挿し込んだら⑦のナットの最後の1個ではずれないように固定します。

8.ポールに固定する

完成した日除けをポールに取り付けます。先にLP-01のセンサーボックスをポールにサドルバンドで固定します。ケーブルを日よけと手順3で取り付けた鉢皿の間を通すことになるので、コルゲートチューブが邪魔になる場合は少しセンサー部から外してずらしておきます。この状態で先にポールを地面などに挿すか、柵などに結束バンドで固定しておきます。
日よけは手順4で取り付けた皿ばね付きナットがポールの内径に近ければポールにかぶせるだけで大丈夫ですが、強風で飛ばされる恐れがある場合は短く切ったガムテープを皿ばね付きナットに巻いて太さを調整し、ポールに上から挿し込みます。これで完成です。

まとめ

今回は日射の影響を抑えて気温を測定できるようにするための、DIYで製作可能な簡易百葉箱についてご紹介しました。簡易百葉箱の部材費の合計は税込約1,700円でした。製作時間は最初は電動ドリルが手元になかったために1時間以上かかってしまいましたが、電動ドリルがあれば30分程度で製作できると思います。

LP-01を使用した気温センサーでは、晴れた同じくらいの気温の日での比較で、簡易百葉箱ありとなしで15度程度の測定値の差が生じることが確認できており、多くの用途では十分な精度での測定が行えるようになることを確認しています。ただし、完全に日射の影響を除去できるわけではありませんので、厳密に気温を測定する場合は、最初にご紹介した農研機構の公開情報を参考に日射対策を行ってください。また、今回ご紹介した構成は一例ですのでこの通り製作して頂く必要はありません。設置場所や使用するセンサーに応じて、自然通風が確保できるように工夫しながら、部材を変えて最適な構成で製作していただければ幸いです。

m-ohnishi

2021年08月23日 月曜日

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