「オルレ」を活用した訪日外国人旅行客の回復と観光コンテンツ創出の事例 | 一般財団法人 自治体国際化協会(クレア)経済活動

事例紹介

「オルレ」を活用した訪日外国人旅行客の回復と観光コンテンツ創出の事例

作成:オルレコミュニケーションズ 代表 李唯美

 

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はじめに


 自然の美しさと地域の文化、歴史に触れながら、人々との交流を楽しむことができる観光素材として、「オルレ」をご存知でしょうか。日本においては、九州オルレと宮城オルレが存在します。「オルレ」という言葉は本来、大通りから家に帰るための小道を指す言葉で、韓国の済州島の方言です。済州オルレは、島を一周できるように整備され、全部で27のコースが設けられており、総距離は437キロメートルに達します。各コースは15キロから20キロの距離で、ゆっくり歩けば一日かけて楽しむことができます。最初のコースが開通したのは2007年9月で、以来、年間100万人以上の人々が訪れ、人気のトレイルとなりました。

 私は2005年から九州観光機構で九州への韓国人観光客誘致業務に携わりましたが、産休中の2010年に済州オルレについてインターネットで知り、九州でも同様の観光資源を持つべきだと考えたことが「九州オルレ」の始まりでした。2012年に佐賀県武雄コースを開設し、その後も年々コースが増加し、現在では九州7県に18のコースがあります。2017年以降は、家庭の事情で九州を離れ、岐阜に住む一方、済州オルレ日本支社長を務めながら、宮城オルレアドバイザーとして宮城県でのオルレコースの開拓にも取り組んでいます。現在、宮城県には4つのコースがありますが、11月には新たに村田コースが加わり、計5つのコースが提供されます。

 済州オルレの姉妹版である九州オルレや宮城オルレは、ロゴ、リボン、矢印を活用した道標識などを統一的に使用することでブランドとしての一体感を持っています。また、コースの設定においても、済州オルレと同じ方法で、「できる限り自然の道を利用する」、「昔の道を復元し、最小限の変更で整備する」など、環境に優しい方法でコースを整備しています。一度でも済州オルレや日本のオルレを歩いたことがある人は、オルレの楽しみ方を理解し、ガイドなしでも安心して歩けるようになるため、九州オルレでは、全てのコースを10回以上歩いた人もいるそうです。コースの維持管理には、草刈りや標識の点検などが含まれ、季節や天候に応じて異なる魅力を提供します。

オルレコースを導く標識(リボン、カンセ(済州の子馬)、木の矢印)

 

 

韓国と台湾の観光傾向、そしてオルレへの反響


 韓国では、週末になると多くの人々が近隣の山やトレイルにハイキングに出かけます。2021年の韓国国立森林科学院の調査によると、韓国人の8割が1年に1度以上登山すると報告されています。特にソウル近郊の山岳地帯では、登山者で賑わい、自然の中で癒しを見つけ、健康を保つことを重要視しています。また、海外旅行が制限されたコロナ禍においては、韓国国内での観光が盛んになり、済州オルレを含む地方のトレイルを歩く20代から30代の若者層の数がコロナ前の年より100%も増加しました。コロナ禍後の海外旅行が回復する中では、九州オルレや宮城オルレへの訪問者も増加傾向にあり、今では「オルレ」という単語がトレッキングの代名詞となりました。

 韓国から九州オルレや宮城オルレへの3泊4日のツアーもあり、旅行費用は約20万から24万円程度です。参加者は毎日コースを歩き、地元の食堂や温泉旅館を利用します。参加者からは「有名な観光地に行かなくても、オルレを歩いてリアル・ジャパン(本物の日本)に出会えた」と喜びの声をいただきます。オルレを歩くことで、自然と地域の文化に触れ、人々との交流を通じて、これまでの日本旅行で体験したことのないものを感じることができるでしょう。

韓国からの九州オルレツアー/宮城オルレツアー

 

 一方、台湾からのオルレ訪問者も増えております。昨年末、台湾人2人に済州でお会いしました。その二人は「コロナ渦の間、ずっと九州オルレを歩きに来たかったので、コロナが落ち着いてすぐに九州に来ました。九州を1ヶ月かけて歩き、九州の親切な人や雄大な自然に癒されました」と話していました。台湾からの訪問者は高齢者層が中心で、時間や資金に余裕のある層が多いようですが、韓国とともに、台湾も新たなマーケットだと思います。

 

 

オルレの地域振興と地域商品の販売


 オルレを通じて、地域の特産品が売れるようになる取り組みも行われています。例えば、九州オルレ南島原コースがある南島原市は、島原そうめんの産地として知られています。2015年11月に南島原コースのオープニングイベントで島原そうめんが提供された際、韓国人参加者から「本当に美味しい。ぜひ韓国で売ってほしい」と高評価を受けました。

 その後、南島原市のそうめん製造業者が毎年ソウルや済州でポップアップレストランを開催しているうちに国内の卸売業者と繋がり、現在では、韓国のネットショッピングサイトでも島原そうめんを買うことができるようになりました。島原そうめんを食べた人々は、九州オルレ南島原コースを歩いて体験したいと言っています。このように、オルレは地域を知るきっかけとなり、特産品の売り上げが上がり、リピーターも増える良い循環を作り出すことができるのです。

 

 

コース運営の挑戦と持続可能なコースづくり


 九州オルレは2012年2月にオープンし、今年で11周年を迎えます。この11年間、地域の皆様との多くの素晴らしい出会いと喜びがありましたが、同時に心を痛める瞬間もありました。それは、一部のコースが閉鎖されたことです。閉鎖の理由は多岐にわたりますが、自治体がコースの維持管理を主導していた場合は、予算に制約があることが主要な要因で、コロナ禍において歩行者数が減少したことが影響しています。オルレは地域住民や訪れる人々からの愛とサポートに支えられています。そのため、持続可能なコース運営を確保するために、持続的な資金調達と維持管理方法の探求が不可欠です。

 済州オルレでは、寄付、グッズ販売、ボランティア活動などを通じてコース運営資金を調達し、地域コミュニティーと協力関係を築く方法が成功のカギであると認識しています。このような取り組みが、地域のコース維持を可能にし、持続可能な観光コンテンツとしてのオルレの未来を確保する一つの要素となっています。コースを愛し、地域社会への貢献意識を持つ人々を増やすことが、オルレを持続可能な観光コンテンツに育て上げる鍵と考えます。コース運営に直接関わる担当者やガイドだけでなく、オルレの愛好家や協力者を増やすことが極めて重要です。自治体のコース担当者は数年ごとに交代することが一般的ですが、持続的な情熱と関与を持つ人々を増やすことで、九州オルレや宮城オルレが100年にわたって存続する礎となるでしょう。

 オルレコースは自然に囲まれているため、大雨や台風などの自然災害によって標識が損傷することがあります。また、夏季には草木が茂り、道が見えにくくなります。コースを常に歩行可能な状態に維持するためには、コースへの深い愛情と継続的な管理が欠かせません。

 九州オルレや宮城オルレは、地域社会への愛情と埋もれた宝物の発見に基づくシンプルな観光コンテンツです。コース数を増やすことで歩行者数や滞在期間が増えると予想されますが、それを無理に拡大させたくはありません。オルレはブランドであり、オルレスピリットを共有する地域に焦点を当て、その地域の協力者を増やし、持続可能な観光の礎として発展させていくことが目標です。

 

 

結び


 オルレは、その魅力を実際に歩いて体験することで初めて分かるものです。九州オルレや宮城オルレでは、秋・冬の大きなイベントとして一緒にあるく「オルレフェア」が開催される予定です。また、済州オルレでは年に1度の大規模なイベント、済州オルレウォーキングフェスティバルも開催予定です。オルレを歩くことで地域の魅力を理解し、地域との交流を深め、健康を促進しましょう。この秋、ぜひオルレを歩いて、新たな風景と体験を楽しんでみてください。 九州オルレや宮城オルレのコースについて詳しく知りたい方は、各ホームページをご覧ください。また、オルレを活用して地元の地域起こしをしたい方は、私までメール(leeyumi_jpn@jejuolle.org)ください。

 ※九州オルレ www.welcomekyushu.jp

 ※宮城オルレ www.miyagiolle.jp

楽しく歩く参加者たち(九州オルレ嬉野コース/宮城オルレ登米コース)

 


参考

1)山里を韓国人旅行者がトレッキング!「九州オルレ」〜九州観光推進機構

2)福岡県春香町プロモーションアドバイザー派遣事例~オルレを通じたインバウンド誘客の助言~

 


〇プロフィール

経歴 :1979年生まれ、韓国ソウル出身

2000年 9月 福岡大学交換留学

2002年 2月 韓国蔚山大学卒業(人文学部日本語日本文学専攻)

2002年 3月 韓国SK GLOBAL 入社

2004年 8月 韓国SK GLOBAL 退社

2004年 8月 来日

2005年 5月 一般社団法人九州観光推進機構 入社 (韓国担当)

2014年12月 九州アイルランド特区ガイド(韓国語)資格取得

2017年 3月 一般社団法人九州観光推進機構 退社

2017年 4月~現 社団法人済州オルレ日本支社長

        宮城県オルレ推進アドバイザー

2022年 6月~ CLAIR国際自治化協会プロモーションアドバイザー

2023年 6月~ 観光庁 広域周遊観光促進専門家

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