「当初はもっとコテコテだった」流行りを追わない第3のN-BOX「ジョイ」…ホンダが求めた独自性とは | ドライバーWeb|クルマ好きの“知りたい”がここに
2024/11/12 コラム

「当初はもっとコテコテだった」流行りを追わない第3のN-BOX「ジョイ」…ホンダが求めた独自性とは

本田技術研究所 デザインセンター CMF(カラー・マテリアル・フィニッシュ) デザイナー 松村美月さん

9月27日に発売されたホンダのN-BOX ジョイは、国内市場を牽引するN-BOXの第3のモデルとしてまったく新しい価値を提示しました。その魅力は多岐に渡りますが、ここでは内外装デザインの特徴や意図について、N-BOXシリーズのCMFデザイン全般を担当した松村さんに話を聞いてみました。

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■ライバルとは違うホンダらしさの表現を探す

ーーでははじめに、N-BOX ジョイの商品コンセプトである「ENJOY my Pace BOX」についてその意図を教えてください。

「例えば荷物をたくさん積むような状況でなくても、日常の延長上で毎日を楽しんだり、自分のペースでリラックスすることができるクルマですね。N-BOXは仕事や遊びなど非常に幅広い用途に対応していますが、その振れ幅を大きくするイメージです」

ーー先行したライバル車も同じようなコンセプトだと思いますが、その点N-BOX ジョイにはホンダとしての独自性はあるのでしょうか?

「他社さんの場合は週末のレジャーを強くイメージしていると思いますが、N-BOXはそもそも日常を支えるクルマですから、特にアウトドアや強いギア感を出したいとは考えていませんでした。もちろん、荷室の使い勝手などは他社さんを参考としながら、同じレベルかそれ以上を実現しています」

■大らかに付き合える丸みを持ったエクステリア

ーーエクステリアではプレス成型したようなアッパーグリルなどが特徴とされていますが、全体として何かモチーフはあったのでしょうか?

「いえ。何かひとつのモチーフがあったワケではなく、例えばアウトドア用の小さいコンテナや、小型カメラのようにツールライクなヘッドランプなど、あたかも多くの道具を集めたような、複合的なモチーフだと言えますね」

ーー商品コンセプトはホンダらしさを打ち出したものですが、バンパー周囲やドアロアガーニッシュなど、ブラックのパーツを付加する手法は他社も含めて「お約束」です。

「たしかにお約束に近い表現ですが(笑)、他社さんではアウトドアを意識してゴリっとしたギア感が強調されているのに対し、N-BOX ジョイではキズや汚れを気にせずもっと大らかに使って欲しいと考えました。ですから、バンパーコーナーなど、丸みが強くよりマイルドな造形になっているんです」

ーーボディカラーのメインを「デザートベージュ・パール 」とした意図はどこにありますか? また、彩度の低い色でそろえたのはなぜでしょう?

「ひとつは内装がベージュ系のチェック柄一色であることですが、他にもジェンダーフリーや年齢の不問、馴染みやすさなども意図しています。彩度を上げると鮮やかにはなりますが、『可愛さ』が勝って日常とかけ離れてしまうんですね」

ーーそれでも、ブルーやグリーン、イエロー系など意外に幅広く用意されていますね。

「はい。N-BOX ジョイは全7色ですが、じつは当初はもっと少なく、ベージュやグリーン、グレー系くらいだったんですね。しかし、販売面も勘案して白や黒系など展開を広げました」

■楽しみながら開発できたCMFデザイン

ーーホイールはいわゆる「鉄チン」ですが、なぜアルミホイールにしなかったのでしょう?

「アルミホイールに比べ、汚れやキズなどに対して「使える」道具感があるためですね。ただ、無塗装だとアクティブ感が強すぎるので、黒のツヤ塗装で質感を上げました。また、一般的なスポークだと走りのイメージが強すぎるので、円をモチーフにコロコロ回る感じを大切にしたんです」

ーー次にインテリアについてお聞きします。天井を含めたブラウンとブラックの内装カラーはN-BOX ジョイの専用ですか?

「そうですね。標準車のアイボリーだと明るすぎて汚れが目立ってしまうんです。天井のブラックは『暗い!』という声もいただくのですが(笑)、これは荷室から外を見たときに、あたかも『額縁』に見えるよう工夫したものなんです」

ーーチェック柄のシートはレジャーシートから発想したとのことですが、他の案はなかったのでしょうか?

「検討段階では木目や他社さんでも見られるブラックなどを試しました。しかし、木目はその部分だけが特別に見えてしまい、チェックのような応用幅がなかった。また、ブラックはやはり仕事感が強く、単にたくさんモノを積むならN-VANがあるだろうと。今回のチェックは従来にはなかったほどザックリとした布目なのですが、じつは非常に優れた撥水効果があり、そのギャップも魅力だと思っています」

ーーでは最後に。N-BOX ジョイは従来のホンダ車には見られないような特別感のあるインテリアが魅力です。その点、CMFとインテリアのデザインチームにはいつも以上に活気があった?

「ありましたね(笑)。単にN-BOX やN-BOX カスタム にチェック柄を持ち込んでもまったく似合わない。その点N-BOX ジョイではストレートに伝わる表現ができますから、かなり楽しんで開発できたと思います。じつは、当初エクステリアはもう少しコテコテした案だったのですが、今回は「ふらっとテラス」が肝ですから、それに合うよう柔らかい表情に抑えてもらったんです。まあ、社内からは「ずいぶん強気でやったね」と言われましたが(笑)」

ーーいえいえ、CMFデザインはもっと前面に出て行くべきだと思います。本日はありがとうございました。

〈文=すぎもと たかよし〉

ドライバーWeb編集部

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