機械仕掛けの神と金融クーデター - シートン俗物記

シートン俗物記

非才無能の俗物オッサンが適当なことを書きます

機械仕掛けの神と金融クーデター

ども、ご無沙汰しております。浜松市内で片山さつき議員のポスターを見てむかっ腹の収まらないシートンです。


さて、ちょっと前の事になりますが、ギリシャで総選挙が行われ、緊縮財政策を取る連立与党(当時)二党が大敗北を喫しました。あげくは、どの党も政権を担う事は出来ず再選挙が予定されています。この事態に対して、日本のマスメディアはあからさまなほどの態度を示しています。


いわく、「緊縮策に反対する急進左派連合が選挙に勝てば、ギリシャのユーロ離脱は必至。ヨーロッパは大混乱に」


ま、こんな感じですね。しきりに左派連合を牽制し、緊縮策を呑むようギリシャ国民に“賢明な”判断を求めていたりなんかしています。


ですが、もともとギリシャ市民が財政緊縮策を拒絶するのは当然でした。なんたって、ギリシャでも、そしてそのあおりを喰らったイタリアでも、選挙で選ばれたわけでも無い「金融屋」が緊縮策を推し進めたのですから*1。ふざけた話ですよね。


ギリシャ首相にパパデモス前ECB副総裁 :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C9381959FE3E2E2E7808DE3E2E3E3E0E2E3E3E2E2E2E2E2E2


以前、私はこんな事を書きました。

 とんだ血塗れブタのエサ

さて最後に。新自由主義、「小さな政府」論には決定的な問題があります。それはなんでしょう。

一応、宿題にしておきます。

http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20100709/1278679620


答がこの状況。民主主義と「市場」は異なる原理で支えられています。それが対立するようになったらどちらを選ぶべきか。ギリシャとイタリアの前政権は「市場」を選んだ。民主主義を放棄したのです。「市場」のために財政を緊縮し、一般市民にその負担を押し付けた。


金融屋に乗っ取られた状況、これはまさに「金融クーデター」です。それをギリシャの人々は総選挙で「No!」を突き付けたわけで、結果は当然すぎるほど当然なのです。それに対して、日本のマスコミは「市場が混乱する」「金融危機が再来する」「だから、大人しく緊縮策を呑め」とか云ってます。
でも、当のヨーロッパの人々の受け止め方は違ったようです。


ギリシャ総選挙の後のフランス大統領選挙では、社会党のオランド氏が当選。オランド氏は前サルコジ政権の財政緊縮策を批判し、反緊縮財政の態度を明確にしています。日本の大手マスメディアはこの結果にも不満たらたらのようですが。


参考:フランソワ・オランド仏新大統領についての新聞社説読み比べ
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-3430.html


フランスと並ぶEUの二大巨頭の片割れ、ドイツでも同じことです。


独主要州の議会選挙で与党CDU大敗、首相の緊縮財政策に影響も

ドイツ最大州であるノルトライン・ウェストファーレン州で13日に実施された議会選挙で、メルケル首相率いる与党キリスト教民主同盟(CDU)が大敗を喫した。これを受け、野党は欧州諸国に緊縮財政策を求めるメルケル首相に対する攻撃姿勢を強める可能性が高まった。

http://www.asahi.com/international/reuters/RTR201205140006.html


ドイツのメルケル政権とフランスのサルコジ前政権は、財政緊縮策、簡単に言えば新自由主義的アプローチ、を取っており、そして、それをフランス・ドイツの人々も拒否したのです。


ここでまた持ち出されるのが、「市場の反応」です。実際、ユーロは値を下げていますし、株価も下落、ユーロ各国の国債利率は上昇、相対的に日本の円が上昇する、という具合に、確かに「市場は反応」し、「混乱」しています。
でも、ここでザックリとその動向が怖れられちゃったりしている「市場」って何なんでしょう?
「市場」というのは、そこに係わる投資家や金融屋らが売り買いする場でしか無いはずなのに、ひとたび各々の思惑をその欲望のゴッタ煮の中に放り込むと、あーら、不思議な事に、誰も責任を取らない、多数の人々が無人格化された「市場」というものになってしまいます。
にも係わらず、「市場がこう反応するから」「マーケットが忌避するから」「○○が不安材料と市場が判断するから」「市場が先行きを不安視している」、etc。という具合に、皆さん「市場」の動きまで推定してくださって、それに「対応しろ」と説かれます。ほとんど自然現象か何かのようです。
この、「市場」というものの有り様を考えると、次の話がピッタリ当て嵌まるような気がします。


「一般意志」とは何か
http://d.hatena.ne.jp/hokusyu/20120308/p1


もちろん、「市場」と「一般意志」は違います。ですが、多数の取引を介して欲望が発露されているにも係わらず、「市場」と呼ぶ際には、人々それぞれの欲望は見事なくらい漂白され、その責任さえ消滅しています。そして、「市場」は「間違わない」。なぜなら、市場は良いとは云えないかもしれないが、人間の知る中では最もマシな分配システムである、と考えられているから。

優れた王様とは優れた制度や法をつくる王様のことであり、下々の一挙手一投足にいちいち口を出す王様のことではない。同様に、神は世界を創造しそこに君臨する。だが統治しない。かわりに摂理がある。世界で起こる様々な現象は、神の摂理によって起きるのです。

しかし、摂理には、この世界に現前しているもの以外にもさまざまな摂理がありえたはずです。なぜこの摂理なのか?それは、あらゆる摂理の中で最善のものだからに違いない。なぜなら神は善であり、その神がこの摂理を選択したのだから。ゆえに、摂理がもたらす予定調和によって個々にみれば不幸としか言いようのない現象がおきたとしても、他の摂理によって支配された可能世界と比べたとき、この世界が最善なのだ。これが、最善説の考え方です。

(両文とも上記エントリーより引用)


つまるところ、「市場」とは、人間の思惑によってよってたかって創られた「神」です。「神がこう反応するから」「神が忌避するから」「○○が不安材料と神が判断するから」「神が先行きを不安視している」
こう書き換えてしまうと、神のお告げを信じる人々、と変わりないですね。その神様の御宣託に従って、行動を左右されてしまう。自分たちが創り上げた“機械仕掛けの神”に振り回されて、人々を窮乏に追い込むなんてシャレにもなりません。


市場自体を否定する気はありません。ですが、超越者のように免責された存在として扱いながら、その意思を勝手に推し量って行動するのは馬鹿げています。
市場にもキチンと責任を取って貰う。首に縄を付けておく。強欲な者、アンフェアな者には退場頂く。それこそが重要です。


市場が緊縮策にこだわり出し渋れば、デフォルトによってダメージを受けるのは市場自体です。ですが、市場は“間違わず”、免責されているがゆえに、自分の首を絞めているのだ、という事を指摘されない。


日本のマスメディアは「ヨーロッパ各国の財政問題」といいます。でも、違います。財政ではなく、金融市場の問題なのです。責任を負うべきは強欲で無能な投資家や金融機関です。


ギリシャについて考えた二つの報道
http://attackoto.blog9.fc2.com/blog-entry-235.html


タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!』をめぐって(1)
http://attackoto.blog9.fc2.com/blog-entry-231.html


積極的な再分配を広く行うこと。そして、成長が見込める分野に公共投資を行い雇用を生み出すこと。そのために富を一部の者に寡占させないこと。寡占を防ぐために適切な市場ルールを導入すること。
これらが、ギリシャやフランス、ドイツで(日本のメディアではほとんど取り上げられないけど)膾炙されていることなのです。
そして、それはアメリカの“Occupy Wall Street”活動にも繋がっています。


EU新財政協定ドイツ承認難航

欧州の政府債務(借金)危機で、欧州連合EU)の25カ国が三月に署名した新財政協定の議会承認が、協定を主導したドイツでも遅れている。メルケル首相は24日に与野党党首らと協議し、野党の社会民主党緑の党は賛成の条件として、経済成長戦略の追加や金融取引税の導入などを要求。政権は妥協をする必要に迫られている。承認には連邦議会(下院)と連邦参議院(上院)の両院で3分の2の賛成が必要で野党の賛同が不可欠だ。
朝日新聞5/26朝刊より)


Occupy Wall Street | NYC Protest for World Revolution
http://occupywallst.org/


韓国でも新自由主義を売り文句にしたイ・ミョンバク政権は追いつめられ、政策が見直されています*2


韓国大統領、なぜ不人気

韓国は米国、欧州連合(EU)とそれぞれ自由貿易協定(FTA)を結び市場拡大を目指す。今でもサムスンとLGのテレビは欧米で日本製を圧倒し、現代自動車もシェアを広げる。

 李明博大統領はグローバル化の先頭に立ち、自らアラブ首長国連邦を訪問して原発プラントの輸出に成功した。核安全保障サミットなど大規模な国際会議もいくつか主催した。国民が期待した「CEO(最高経営責任者)大統領」の役目を果たしている。

 ところが、支持率は低迷している。大企業は収益を飛躍的に伸ばしたが、生産拠点は海外に移り中小企業がなかなか育たない。格差は拡大し、若者の失業率は高いままだ。与党セヌリ党でさえ、李政権の政策とは一線を画して雇用と福祉重視を打ち出した。

 最近、大統領の側近が収賄などで訴追されたり、辞職している。韓国の知人は「先進国入りを目指すと言いながら、人事や政策決定で縁故主義がひどい。開発独裁型の古い政治だ」と言い切る。

 李大統領がソウル市長だった二〇〇五年にインタビューしたことがある。「国家発展の原動力は輸出だ」「国民は富を分配せよと主張するが、もっと経済成長をしないと世界では勝ち残れない」と言っていた。

 大統領は「信念を貫いた」と自負するだろうが、国民の関心は、年末の大統領選で誰が当選するかに移っている。 (山本勇二

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/ronsetu/CK2012052102000115.html


覚え書:「私の社会保障論 興味深い新市長のあいさつ=湯浅誠」、『毎日新聞』2011年12月16日(金)付。
http://d.hatena.ne.jp/ujikenorio/20111217/p2


現在、比較的安定的な経済運営が出来ているのは、社会民主主義的政策を導入している中南米諸国。かつてIMFに振り回されて混乱していた状態から脱する事が出来たのは、再配分と公共投資に力を入れているからです。


そういえば、IMFといえば、こんな話も出ました。


IMFトップの「ギリシャ人の税逃れ」発言に抗議殺到

インタビューの中でラガルド氏は、「アテネと言えば、常に税金を逃れようとしている人たちが思い浮かぶ。ギリシャで税逃れをしようとしている人たちのことだ」と語った。

http://www.cnn.co.jp/business/30006760.html


ゲスなIMF連中の言いそうな話です。世界中に新自由主義政策を押しつけて、財政破綻させた責任などどこ吹く風*3


世界中で、「課税するなら逃げちゃうよ」と嘯く強欲な輩に対する包囲網が強まっているのです。
なぜ、日本においては、逆方向にまっしぐらなのかサッパリ判りません。でも、いい加減、「新自由主義」「小さな政府」に別れを告げる時が来ている事に気づいた方が良いと思います。
ギリシャの再総選挙は6月中の予定。では。


(この話はもう少し続きます。)

タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!

タックスヘイブンの闇 世界の富は盗まれている!

*1:イタリアでは現在でも継続中

*2:以前、「ワーキング・プアは日本だけじゃない」 http://d.hatena.ne.jp/Dr-Seton/20071221/1198225874 で “そう考えると、李明博氏の公約は皮肉なものです。彼は一層の規制緩和による経済の伸びを唱っています。たぶん、公約の7%はともかく、高い経済成長は維持されるでしょう。でも、選挙で票を投じた若年層の願いが叶えられるかは疑問です。”と書きましたが、当たっていたようです

*3:IMFの酷さに関しては、こんな話も。IMFの貸し付けが旧共産圏の結核感染拡大の一因に http://mtpro.medical-tribune.co.jp/mtnews/2009/M42030681/